第7話 紅玉魔石

 草原をかける風が吹き抜け、レッドリザードが再び吠えたところで、戦闘が始まった。


 先制をとったジーンくんがレッドリザードに斬りかかる。

疾風の剣ペリドット

 風魔法を纏った剣が振り下ろされたが、ひらりとかわされてしまう。大きな体の割に、意外に素早い。

「外したか!」

 敵意を向けられギロリと鋭くなった目がこちらを睨み、近づいて来た。

「あ……!」

「そっちは相手じゃない!」

 すぐさま眼前で盾となってくれたジーンくんの腕に、レッドリザードの鋭い爪が食い込む。

「いっ……」

 痛みに顔を顰めるジーンくんを前に、レッドリザードはギャアッと怪しく鳴いたかと思うと、鋭い牙を剥き出しにして大きく口を開けている。

 私のせいだなどと言っている場合ではない。

 危ない、と、そう思った時には体が動いていた。

「ジーンくん、魔物から離れて!」

「は? お前まさか」

 何か攻撃手段はないかと探していると、その時、鞄の中でお守りの赤い宝石が光った。

 意思を持って、「投げろ」と言われているかのようだった。

「……あたれ!」

 振りかぶって、投げる。

 すると、宝石は魔物に当たってきらりと光り、次の瞬間、魔物を飲み込む大きな炎を巻き起こした。

 ギャアア

 めらめらと燃えた火が消えるころには、そこにはばたりと倒れたレッドリザードの姿があった。


 討伐完了。勝利であった。

「な、なんとかなった……?」

「意外と度胸あるなお前。震えてたわりに」

 私の姿を眺めて、ジーンくんはいたく感心してくれた。

「うん、出来た! 出来たね! もう一匹いく?」

「勇敢すぎるのも問題だな?」

 心臓はバクバクとしていたが、褒められたのが嬉しくて次の討伐対象を探そうとしていると冷静に咎められた。

 なんにしても、だ。

「すごい! 錬金術ってすごいねジーンくん!」

「錬金術?」

「さっきの、赤い宝石、魔道具なんでしょ? 調合で作ったんだよね? シェリーさんの魔法すごいね!」

 綺麗な赤い宝石には炎魔法の力が宿っていたらしい。

「そんな小洒落た名前じゃない。俺たちは普段使いの魔道具も作る、調合魔術師、調術師だ」

「へええ、とにかくすごいよ! だってこれがあれば、魔力の弱い魔道士でも魔物と戦えるじゃない!」

 そう言うと、ジーンくんは何かを考え込んでいた。

「……戦う度胸があればな」

 基本無表情なジーンくんの口元が少しだけ笑っている気がした。

「まあ好きに名乗れば良いけどな、調術師でも、錬金術師でも」

「うん! ん? てことは」

 それはつまり、私も──

「帰ったら紅玉魔石の調合を教えてやる」

「……うん!」

 私も調術師になる、見習い調術師になったということだ。

 どうやら、少しは認めてもらえたらしい。

「やったね!」

 るんるんと飛び跳ねたい気分で歩いていると、次は飛行する小さな竜に遭遇してしまった。

「立て続けか。リトルドラゴン。竜属の中で最小で、力も強くはないが油断は禁物だ」

「よし! もう一回!」

 さっそく戦おうとしたところで気がつく。

「あ、もう石がない……!」

 赤い宝石は、さっき投げたものしか持ってきていなかったのだった。万事休すというやつだ。

「アマリ!」

 リトルドラゴンの口から火が吐かれる。まずい──

「氷河の精霊 答えよ 薄氷の光アイオライト

 杖を構えて氷魔法を使うと、小さな竜は意外に簡単に凍りついて、あっさりと討伐できた。

「あ、やった!」

 なんとかなったよと振り返ると、ジーンくんは唖然としていた。

「いやお前!! 魔道具なしでも強いんじゃねえか!!」

 ざわり、ざわりと草木を揺らし、ジーンくんの大声が静かな草原に冴え渡った。


 一応弁明しておくと、相手は本当に弱い魔物で、私が使ったのも本当に弱い氷魔法だ。

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