第5話 試用期間
なんて逃避中の居座りを企んでみたけど。
「ユージーン、次は素材採取を教えてやりな!」
「そろそろ帰さないと親御さんが心配するだろ」
妙に大人びた、熱を冷ますようなジーンくんの言葉に、つい、びくりと肩が震えた。
「父様、は……」
「あー……その……誰かは心配するだろ」
その反応で、親との不仲を疑われてしまったようだ。なんかまた気を遣わせてしまっている。
ぶっきらぼうで、人に無関心な風でいて、人のことをすごくよく見てる子だなと思った。
「違うよ、今日は家に居ないってだけ」
仲が悪いわけじゃない。けど、第一王子の護衛魔道士をしている父は王子の冒険に同行してばかりで家を空けがちだった。
「話が通じるなら、とっとと帰って仲直りでもすれば良いだろ。それからまた来れば良い」
「うう、でも、別にはっきりと喧嘩したわけじゃなくて」
「じゃあ尚更帰れよ?」
「……うん……」
返す言葉がない。
「しゃらくさいね! むしゃくしゃした時は冒険だよ!」
「今説得してるとこだろ、頼むから黙っててくれよ!」
頷きかけていたところでシャリーさんが素材を入れるらしきカゴを押し付けてくる暴挙に出た。
「あのー、これは」
「そのお父様とやらは明日帰ってくるのかい?」
「ううん」
「次いつ帰ってくるんだい?」
「……三ヶ月後」
ジーンくんの目が点になった。
「ちゃんと喧嘩しろ」
怒られた。
「じゃあその間はここで修行できるね! アンタの家の人間たちはアタシが力技で説得してやるよ!」
「ダメだこのババア言い出したら聞かねえ」
言い出したら聞かなかった。
「アタシの魔道具をやる。帰ってきたら同じものを作って補充してもらうよ」
何やら赤い綺麗な宝石を手渡される。
「さあ、アマリ・サンチェス、今日から試用期間だ!」
「は、はい!」
愉快なシャリーさんの手腕によって、ちょっとした家出がなんだか壮大なものになってしまった。
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