第3話 青ポーション
そんなわけで、あっさりと家出中の安息の地を見つけてしまった。しかし、そんなに何もかもが簡単にいくわけがないのが世界の道理だ。
「ただし、ウチは働かざる者食うべからずだよ!」
「……ええと、つまり?」
ところで、調術師ってなんだろうと考えていると、シェリーさんが大きな杖を渡してきた。
「アッハッハ、青ポーションは自分で調合しな! 血は止まってるけど、その綺麗な顔の傷痕を綺麗に治さなきゃだろう!」
「調合?」
説明が簡易的すぎて理解ができなかった。助けを求めてジーンくんの方を見ると、大きくため息をつかれた。
「愚者の石が大量に出来そうだな」
「愚者の石?」
「調合失敗の産物だ」
またも前提知識の必要な話を置いてけぼりにされる。
ぽかんとしていると、お構いなしにジーンくんが戸棚へと向かった。付いて行くと、見慣れない植物と、綺麗な青い石と、瓶に入った透明な水とを順に手渡された。
「三日月草。怪我を治す効果がある。サプフィリ鉱石。壊れたものを復元させる効果がある。泉の水。疲れを癒す効果がある」
「えーと……?」
「調術液。素材とこれを調術鍋に入れて杖でかき混ぜ煮込む」
全くもって理解が追いつかなかったけれど、言われるがままにした。人生そういう、流れに流される時も必要だ。
「魔力調整剤を加えたら、あとは完成品の魔道具のイメージを持って、呪文を唱える」
見様見真似でやるしかないかと思いきや、魔道具の図と呪文の載った本を渡される。どうやら魔道具の作成方法が載っている参考書のようだ。
「ええと。青ポーション、青ポーション……」
本を捲っていくと、はじめの方のページに小瓶に入った青い液体の薬の図を見つけた。初学者の章、簡易回復薬、青ポーション。これだ。
全ての材料を入れて鍋をかき混ぜ、ほどよく煮込んだら蓋を閉めて呪文を唱えるらしい。なんだか料理みたいだ。
「呪文は……、シイショ イミウノ ヤズ ……」
「渡しといてなんだが初見で読めるのかよ」
「あ、うん、一応、習ったから」
呪文らしき古代文字を読み上げると、ジーンくんが目を丸くしていた。一応は貴族教育を施され教養はある方だと自負しているが、いかんせん出来が悪い自分に自信はなかったので、合っていたようでそっと胸を撫で下ろした。
「あとは術者の力次第だが……」
「デイセ カエキ タイン」
呪文を全文唱え終わると、鍋が不思議な青い光を放った。
不思議な光景にドキドキとしながら鍋の蓋を開けると、そこには──
「小さな傷薬、青ポーション!」
お手本通りの薬が完成していた。
「出来た……!」
「出来てるな……」
流されるままに動いたけれど、わくわくとした興奮が抑えられなかった。
「私に、調合の魔法の才能があるのかもしれない……?」
「まあ、多少は」
意外そうな顔をしているジーンくんを見るに、もしかして私は今すごいことをしたのかもしれない。
この魔法はなんなんだろうと胸を高鳴らせ薬を詰めた小瓶を眺めていると、一部始終を観察していたシェリーさんが満足気に完成品を確かめた。そして──
「マジで?」
と腰を抜かしていた。
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