第2話 豪快な人
「戦闘経験も無いのに一人で森に入るやつがいるか」
ずりずりと引き摺られながら同い年くらいの少年に説教をくらうだなんて、森に来なければ出来なかった貴重な経験だろう。
「来て良かった」
「お貴族様は話が通じねえとはこのことだ」
面と向かってゴミを見るような目で見られるなんていうのも、初めての経験だ。普段は影でひそひそとやられるだけだったから、直接悪態を疲れるのはいっそ爽やかに感じた。
「ん? あれ? なんで貴族って?」
「その魔道士のローブ、防具としての効果が高すぎる。調合魔法で作った魔法布から出来ている、一種の魔道具だ。そんなもの庶民の子供は持ってない」
「へええ……」
魔道具に詳しいらしい少年の観察眼に驚いていると、森を抜け、王都を囲む城壁の前までたどり着いていた。
「じゃ、お城なりお屋敷なりに帰れよ」
「え? あ!」
急に手を離され、バランスを崩して転んでしまった。盛大に。
額からぼたぼた血が垂れるのも新鮮で面白い。
「いたた……」
「マジかよ……」
まさかこれは自分のせいなのかと天を仰いだ少年に連れられ、王都の西の端の煙突の大きな民家に入ると、いかにも魔女らしい姿をしたお婆さんがぐつぐつと鍋を煮込んでいた。
「ばあちゃん、こいつに青ポーション作ってやって」
お婆さんは振り返り、私の姿に気がつくとニタリと口角を上げた。
「なんだい馬鹿弟子! ガールフレンドか!」
「ジャストフレンドです」
「ノットフレンドだ」
私の訂正にさらに少年が訂正を加えた。
「……って、ガール!?」
「そうだけど」
そして少年の反応から、何か勘違いをされていたことが発覚した。
「そういえば恩人くん名前なんていうの?」
「よくそれでフレンド名乗ったな」
「アッハッハ! 人類みんなダチだよ!」
フレンドリーなお婆さんの反応に思わずこちらも笑ってしまった。少年の名前はユージーン、豪快なお婆さんはシャルロッテという名前らしい。
「私はアマリ。ええと……今日からただのアマリで、ここの子になりたい」
「なんなんだその即断即決能力」
しょうもない冗談を言ってもひとつひとつ拾って返してくれるのが面白くて、ついつい揶揄うように口が滑って願望が漏れてしまった。
「良いよ!」
「勝手に決めるなババア!」
「よろしくシャリーさんにジーンくん!」
「距離を詰めるな! 変なあだ名を付けるな!」
両手を構えたシャリーさんにおそるおそる両手を合わせてみた。ハイタッチだ。ちらりと視線を遣るとジーンくんは巻き込むなという目で見ていた。
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