人嫌いの錬金術師

しろしまそら

出会い

第1話

 なんとなく、人付き合いが面倒だなと思ってしまう瞬間があった。


 古くから王宮に仕える魔法使いの一族の娘として、煌びやかな衣装に身を包んで社交会に出なくてはいけないとか、ものすごく面倒で。


 年頃の令嬢らしく、お淑やかにとか美しくとか、すごく苦手だった。


 かといって、力強さなんてなくて、男勝りに勇猛に戦うだなんて夢のまた夢だった。


 何をやっても中途半端で、どこに居ても居心地が悪くて、いつだって逃げ出してしまいたかった。


 それで、十二歳の誕生日の翌日、実行してしまった。


 動きやすい少年のような格好に、魔道士のローブを羽織って、お守りの指輪だけをつけて、こっそり屋敷を抜け出して、森へ飛び出した。


 その森で、出会ってしまった。


 心惹かれてしまった。


「かっこいい……!」


 大空を自由に飛び回る、奇跡のような造形の魔物、ドラゴンに。


 その奇跡の生物の吐いた炎が眼前に迫ってきた時に、彼と出会った。


 一人の少年が投げた宝石は強い冷気を放ち、炎を飲み込み、ドラゴンを氷漬けにした。


「馬鹿だろお前」


 冷めた目をしていたけれど、行動からして多分良い人なのだろうなと思った。


「ありがとう。ところで、あの生き物の巣ってどこにあるの? あれがうじゃうじゃいるところ、この世の天国だと思うんだよね」


「馬鹿だろ! マジで馬鹿だろお前!」


 探索を続けようとした私の首根っこを掴んで森の外まで引きずってくれた彼は、今になって考えても本当にとてもとても良い人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る