第94話 流聖の戦い
テツ
「こっちだ。やっと来てくれたな、ありがたい。かなり苦戦していたよ。」
「俺のプロディガルネームは『テツ』だ、宜しく。」
「君のプロディガルネームは何だい?」
流聖
「ぼ、僕のプロディガルネーム・・・ですか?」
「プロディガルネームって何ですか? 僕は今日初めて戦いの場所に来た新米なのです。何も分からなくてすみません。どうすれば良いのですか?」
テツ
「えっ初めての戦いの場なのか? 参ったなぁー。ランクの高いプロディガルをお願いしたはずなんだけど。」
「仕方ない、もう二人でやるしかない。足を引っ張らないでくれよ。それと、死ぬなよ。」
流聖
「はい、頑張ります。何でも指示してください。」
テツ
「指示? 戦いの場で指示なんて出来ないもんだ。作戦は立てられるが、その後は自分で考えて行動しなければならないぞ。ここにいるって事はプロディガルという事なんだ。」
流聖
「そうでした、すみません。」
テツ
「怪物の情報だが、奴は酸を使って攻撃して来る。かなり強烈な酸だ。硫酸に近い酸だと思う。」
「俺の能力は『鉄』。周辺に存在する鉄を利用して防御や攻撃が出来る。砂鉄も利用可能だ。」
「君の能力は水だよね。」
流聖
「はい、僕の能力は『水』を操れる事です。海や川や池、水溜り、空気中の水分も利用できます。」
テツ
「了解した。多分、君の能力は怪物に対して有利な能力だ。逆に俺の能力は奴に対して不利だと思う。今、怪物はあの茂みにいるはずだ。気を付けてくれ。」
「俺が攻撃を仕掛けるから、君も考えながら対応してくれ。お互いプロだからな。」
「行くぞ!」
テツ
「Feスクリュー。」
茂みに潜んでいる怪物の足元から複数の鉄で出来た鋭利なドリルが怪物に襲い掛かる。怪物は瞬時に身を返し攻撃を避けた。その反動で茂みから出て来た。そして、タイミングを計り流聖は怪物に攻撃を仕掛けた。
流聖
「ひっ秘儀、ゲリラ豪雨。」 ガガガガガガガ・・・。
流聖は空気中の水分を操り文字通りの、ゲリラ豪雨並みの大粒の水滴を怪物に浴びせた。水滴は怪物に複数当たったが、ノーダメージである。
その直後、怪物はテツに攻撃をした。
怪物
「喰らえ、酸弾銃。」 バンバンバンバンバンバン・・・。
怪物は両手指の間から、酸ボールをテツに向けて発射した。テツは瞬時に鉄のシールドを作り対応した。しかし、連続する酸ボールが鉄を瞬時に溶かし貫通してテツに当たった。
テツ
「うぁ・・・。クソー。俺のメタルシールドに穴を開けやがった。何て強い酸だ。」
流聖
「テツさん、大丈夫ですか? 今水で流します。」
テツ
「人の心配より自分の心配をしろ。」
怪物は次に、流聖に攻撃を仕掛けた。
怪物
「ディゾブルミスト。」
怪物の全身から酸のミストの塊が流聖へと押し寄せた。近くにあった草木はミストに触れた瞬間に溶けて無くなる程の強力なミストだ。
しかし、流聖は落ち着いて対処をした。
流聖
「えーと秘儀、水のカーテン。」
すると、流聖の前に水の流れるカーテンが現れ酸のミストを吸収し流して無効化した。そして、流聖も攻撃を続ける。
流聖
「えー・・・秘儀、流水カッター。」 誰でも思いつくネーミングだ。
流聖の手から絶え間ない水の刃が怪物を襲った。無数の水のカッターで怪物は体を切られダメージを受けた。
テツ
「君、初めての戦いにしては中々やるじゃないか。恐れ入ったよ。足手まといになるかと思ったけど問題無いな。ただ、技のネーミングセンスがヤバイね。後でちゃんと考えてもう少しひねった技名にした方が、カッコイイと思うぞ。」
「それと、プロディガルネームは重要だぞ!」
流聖
「分かりました。ご指摘ありがとうございます。」
会話をしている2人に、怪物は同時に攻撃をして来た。
怪物
「アシッド・スネーク。」
怪物の両手首から酸で出来た蛇の様な物が2人の襲い掛かる。
テツ
「スチール・ガード。」
流聖
「秘儀、水の繭。」 いちいち秘儀を付けなくても・・・。
2人は自分の体を守るべく、能力を使い全身を覆った。
しかし、怪物も更に連続して攻撃をして来た。指から出ている酸の蛇が更に分裂して2人を襲う。
怪物
「アシッド・オロチ。」
テツの『スチール・ガード』に巻き付いたオロチがガードを溶かしてゆく。そして、ガードが溶かされたテツはオロチに捕まってしまった。
グイグイ締め付けられると共に、巻き付いた所が溶けてゆく。S・F・Cから支給されている、ソルジャースーツは打撃や切り裂き、突きには効果を発揮するが、そうでは無い溶融に対しては、ほぼ対応しきれていないのだ。
テツ
「グガー・・・・。体が溶けるー。ほどいてくれ!」
流聖がオロチをほどこうとテツに近ずくと、別のオロチが酸を吐き流聖を威嚇する。オロチは更にテツを締め上げると、テツの骨が砕ける音がした。
「バキバキバキバキ・・・。」 「グァァァァァァァァー・・・・。」
テツはあまりの激痛に耐えられず、気絶してしまった。
流聖は考えた。どうしたら、あのオロチを無くせるのかを。
オロチを操っているのは手だ。手を狙えば良いのか? いや、違う。手を狙うのでは無く、手を使えなくすれば良いのだと考えた。
流聖は怪物の顔付近にある水分を操り「水の針」を作り、怪物の目を目掛けて放った。」
流聖
「秘儀、水の針連射。」 「バシュシュシュシュシュ・・・。」
それにしても、ダサいネーミングである。
怪物
「フギャー・・・・・・・。目が目がー-----。」
怪物はたまらず両目を手で押さえた。その瞬間テツを締め上げていたオロチは解けた。テツは気絶している為、その場に倒れている。
流聖はテツを大量の水で覆い、体に着いている酸を洗い流した。テツは気絶をしているものの、リセ効果で少しづつ治癒が行われている。
怪物は流聖の放った「水の針」により左目を失った。この怪物のレベルはストレンジ3であり、人間を相手にここまで苦戦をした事は無かった。その為、怪物は焦っていた。左目を失った事によりこのまま戦っても思い通りの攻撃が出来ないと考えたのだ。
だが、怪物はプライドが高いのである。強ければ強い程、傲慢で我がままで思い通りにならないと、暴れ怒り周りに当たり散らすのだ。まるで子供だ。この怪物も同じだ。
怪物は自分の口の中に手を入れた。すると腹の中から薄い膜に覆われた緑色の袋に入っている液体を取り出した。そして、その液体を頭から浴びて上半身に塗りたくった。すると煙の様なモノが立ち込め、怪物の気迫が変わった。
怪物が上半身に塗りたくったモノは「超激濃硫酸」という物質である。この液に触れた物は全て溶けてしまう、凄まじい程の溶解力を持つ液体である。王水の比では無い。
怪物はゆっくりと流聖に向かって行く。そして、攻撃をして来た。
怪物
「デス・バイオレント。」
怪物は叫びながらいきなり殴りかかて来たのだ。その手数の多さに流聖は対応出来ない。殴られた場所のスーツは溶け、皮膚も瞬時に溶け出し激痛が流聖を襲う。
危険を感じ流聖は水の盾を作り身を守った。だが、怪物は連打を継続的に浴びせて来る。すると、超激濃硫酸と水の盾が化学反応をして熱を帯び突沸して蒸気が立ち上がって来た。そして、突沸状態が最高潮になると突然盾がはじけ飛んだのだ。
「ボーン。」
水と酸の反応で「俄然突沸」を起こし爆発が起こったのだ。
両者は吹き飛ばされた。しかし、怪物が一早く起き上がり倒れている流聖に伸し掛かった。流聖は両腕を押さえ付けられ身動きが取れない。
怪物は不気味な笑みを浮かべて、流聖の顔面目掛けて口から濃硫酸のゲロを出そうとしている。
怪物
「これで、終わりだ。顔面ごと脳ミソも溶かしてやる。復活は出来ないよな。アバよ。」
流聖は自分が強くなったと思い込み実戦経験もないまま現場に来た事を後悔していた。調子に乗っていた。クレアの仇が打ちたかった。だが、甘かった。実力も無いクセに熱くなり冷静な判断が出来なかったのだ。
ベビーストーンを入石してもらった祈祷師様の言っていた事が、今現実となり油断したせいで、死と隣合わせになっているのだ。頭では解かっていた様で解ってはいなかった。不覚だ・・・。
その時、怪物目掛けて何かが飛んで来た。
「アーマードランチャー。」
怪物はゲロを出す前にテツの放ったアーマードランチャーを喰らい十数メートル弾き飛ばされた。テツの体は完治していないが、気絶から復活していた。
そして、ボロボロになっている流聖を抱き抱えてサポーターに連絡をした。
テツ
「サポーター!俺達だけでは無理だ。一旦引かせてくれ。このままでは2人共やられてしまう。S・F・Cに戻してくれ。」
天空
「了解した。今、お二人さんは一緒にいるんすか?」
テツ
「大丈夫だ、今は彼を負ぶっている状態だ。早くしてくれ、怪物に今襲われたら2人共死ぬ。」
天空
「一緒にいるなら無問題。 ポチ。 うりゃー。」
2人は天空の操作によってS・F・Cに戻された。かなりの怪我を負っているが、リセの作用で徐々に治癒している。しかし、テツも流聖も殆ど動く事が出来なかった。何故なら、体力をほぼ使い果たしているのだ。リセの能力を使ってしても、体力は別物の様だ。2人の課題には体力作りも織り込まなくてはダメな様である。
怪物は起き上がり突然姿が見えなくなった2人を探していた。怪物も左目を失い相当なダメージを負ってはいたが、あの2人を殺す事は可能であったはずだ。
怪物は舌打ちをすると、何処かへ消えていったのだ。
スタッフ:
「2人共無事で良かった。直ぐに体力温存と治療をした方が良い。その方が早く完治する。」
テツは怪物の強さに混乱していた。倒す処かこっちがやられる所だった。しかも2名で戦っているのに。今後もあの強さの怪物が現れたとしたら、どう対処すべきなのか、分からなくなっている。
だが、流聖の気持ちは違っていた。生と死の狭間を垣間見た流聖は、今まで感じた事の無い高揚感に浸っていたのだ。
テツ
「オイ、お前大丈夫か? 何ヘラヘラ笑ってやがる。死ぬところだったんだぞ。あのまま戦っていたら、2人共間違いなくやられていたというのに、良く笑っていられるな。あまりの恐怖に、気でも狂ったか?」
流聖
「いや、そうじゃないんです。気も狂っていません。次はやれます。もっと上手く。」
テツ
「お前、怖くは無かったのか? 俺が、アーマードランチャーを出していなかったら確実に死んでいたのだぞ。」
「凄い肝の据わった奴だ、関心するぜ。俺は少し休暇を取らせてもらうぜ。もう一度イメージトレーニングからのやり直しだ。」
そこへ、押花 美琴が入って来た。
押花
「お二人共お疲れ様でした。危険な状態であったにも関わらず、無事生還出来て良かったです。お二人は悔しいかもしれませんが、これで良いのです。」
「敵わない相手に命を掛けて挑むなど、鬼畜の所業でしかありませんから。」
「古化社長は『Mルーム』にサポーターの様子を確認しに行っています。」
「お二人は少し体を休めていて下さい。後ほど、古化社長から話があると思います。」
流聖
「押花さん、僕は次の場所へ行く事になっていたのですが、行かなくても良いのですか? 本部の方に言われていましたけど。」
押花
「その事なら問題無いわ。別のプロディガルが行っているはずよ。」
「そんな事より、早く体を整えて次の要請に備え準備をしておいてちょうだい。」
流聖
「はい、分かりました。」
その後、二人は自分の部屋に戻り、休む様に命ぜられた。
流聖は自分の部屋に戻り、技の質量・スピード・タイミング・種類をイメージしていた。だが、他に何か重要な事を決めなくてはならない衝動に駆られた。そして、テツに言われた事を思い出した。
技のネーミングとプロディガルネームの選定だ。先ずは、これを考えてからであると流聖は焦った。
いや、焦る所がズレていると思うが・・・。
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