第91話 地下6階
地下6階のA・Pクラスでは 竜宮 冷斗 がイメージトレーニングに励んでいた。
冷斗
「やはり私には能力を上手く扱う事など出来ないですよ。自分の思い通りに能力を出せるイメージが全く浮かんできません。」
花巻 潤
「おじさん、焦って上手く能力を出そうとしているからだよ。気持ちばかりが先に行ってしまい、イメージが全然追いついて来ないからだよ。」
「先ず頭の中でイメージをしてみないとダメなんだ。自分はどうして気持ちが集中出来なくて乱れてしまうのか? その乱れの原因を探して根本から解決する。これが凄く重要な事なんだよ。」
「人は、自分の分からない事や、苦手な事、面倒な事から逃げ出したい、関わりたくない、考えたくない・・・などと思ってしまう。でも、実はこのマイナスに思える事が、その人にとって一番気になっている事なんだ。」
「この関わりたくも無い事に目を向け、受け入れて自分の中で消化する。これが第一番目の大きな壁だよ。消化したという事はそれが経験値になり、気持ちをコントロール出来るスキルを手に入れた事に繋がるんだよ。」
「これが出来て、先に進む事が可能になるんだ。」
「つまり、簡単に言うと『当たって砕けろ』っていう事だね。ハハハハハハ。」
冷斗
「一回り以上年下の君に教えられるとは、君はどの様な人生を送って来たのですか? 世の中は広いですね。」
「潤さんはとても簡単そうに話していましたけど、それが簡単に受け入れられ気持ちをコントロール出来たら苦労はしませんよ。」
「私は、今まで色んな面倒事から逃げて来た男です。そう簡単には行かないと思います。」
潤
「このクラスにいる皆さんは、何処かしら強く気持ちを押し殺し何かを隠しながら生活をして来た人が多い様に見えます。」
「その事で、コントロール出来ず、能力を上手く出せないのかもしれない。けど、それらを払拭する事で気持ちを開放する引き金にもなりうるんだよね。」
「冷斗さんは何から逃げているの? 何を避けているの? せっかくここへ来たんだから、良く考えてみてよ。」
「そして最終的にはどうなりたいのかを見い出すんだ。それがイメージなんだよ。」
「つまりは、さっきも言ったけど当たって砕けてしまえば良いんだよ。」
潤の経験
【僕も若い頃、好きな女性に告白した事があったんだ。正に当たって砕けろだよね。でも、結果は『NO!』でした。僕の心はガラスの様に砕け散り絶望に押し潰されそうになったのだけど、砕け散った中に一部何かが書いてある物があった。それを拾い、何だろうと思い後になって組合わせてみました。そしたら、見えたんです。答えが見えたんですよ。
何て書いてあったか分かります? その答えは『その女性だけが女では無い。先へ進め、世の中は広いのだ。』と書いてあったのです。当時、一途だった僕には見えない部分でした。でも、考えてみればその通りだと思ったんです。これから、人生の中でどれだけの女性と出会えるのか分かりませんが、もっと視野を広く持つイメージをしたら、何だか気持ちがスカッとして解放された感じがしたのです。
あの女性に告白し当たって『NO!』と言われ砕け散り、見えた気持ちの裏側。そこに別の答えがあったという事例でした。
例題として適切では無かったのかもしれませんが、こんな感じの方が受け入れ易かったのではと思いお話しました。】
冷斗は「ハッ」とした。以前恩師である氷十郎に言われた言葉を思い出したのだ。
「バラバラになったモノを受け入れパズルの様に完成させてゆく。」という言葉を。
冷斗はまだ知らない。「愛」というモノがどういうモノであるのか。氷十郎が言っていた様に、時間を掛けてパズルを組み合わせて行かなければ、感じられないモノなのである。それを知る切っ掛けが必要であると思い地元に帰り探してみたが、結局全てを知る事は出来なかった。
早くに他界してしまった両親との思い、事故に巻き込まれた老夫婦の件、恩師である氷十郎との出来事、東京に帰り町で出会った後輩と息子の絆、形は違うがどれも「愛」が関係している。
愛とは何なのだ? 言葉や文字でも表現は出来るが手にする事は出来ない「感じる物体」である。感じる事が出来なければ理解不能なのだ。
そして「愛の力」などと良く使われるが、決して強いモノでは無い。愛し合っていた二人が急に別れたりする事も良くある。愛とは直ぐに生まれるが、また直ぐに無くなってしまう「儚くも尊い」幻の様なモノなのだろう。
だからこそ、人として生まれて来た以上「愛」を知らずして人生を終わりにはしたく無かったのだ。しかし、冷斗は一つだけ分かっている事があった。
それは「永遠の愛」というモノの存在である。
潤
「僕が話した事はヒントでしかないよ。ここにいる皆さんの抱えているモノが何なのかは僕にも全く分からない。ただ、多くの人が自分のマイナスな部分に目を向けない、見ようとしていないんだ。」
「そこに目を向け払拭しない事には、気持ちが解放されず次には進めないね。おじさん達が、FeCMで気付いた時の様にね。」
「そのヒントを僕は提供している。つまり、僕の出したヒントを元に『気付く』事が一番大事な事なんだよ。」
「気付く事で今まで見えなかった、感じなかったモノが捕らえられる様になるんだ。」
「頑張ってねおじさん。じゃ僕は次の人の所へ行くね。」
冷斗は何かを感じた。心の中に光明が差した瞬間であった。
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