第90話 各々の訓練

      ― 第七章 —


 S・F・Cの部門長会議の中でも議題に上がり問題になっていた。


 水使いのプロディガルである「クレアの死」は他のプロディガル達の間でも話題になり、もちろんS・F・Cの上層部の中でも疑問視されていたのだ。

それは、トラ子がいた戦いであったにも関わらずプロディガルが亡くなってしまった事にある。トラ子はベテランであり、周りの状況も把握し無理な行動は絶対にしない、させない事を一番に考えているからだ。そして、クレアもある程度のベテランであり、今までも無理をする事は無かった。そのベテランの一瞬の気の緩みを逆手に取られた出来事であり、大切な仲間が亡くなってしまった事だからである。


 プロディガルの中でも「水の使い手」で、クレア程のスキルが有りランクが上の使い手はあまりいないのである。能力を表すランクは、そのプロディガルが持つ潜在的な力であり「素質」と言ってもいい位のものだ。努力したからといって必ず得る事が出来る様なモノでは無いのだ。

 その能力者の死は、ランクが低いプロディガル達には逆に恐怖を与えてしまっていた。


 また、深刻な問題として取り上げられる理由は他にもあった。

ベテランがあの様な死に方をしたという事は、今後も怪物達がどんな手を使い奇襲をかけて来るのかが分からないからだ。「相打ち・不意打ち・敵討ち」からも、自らの命を掛けて攻撃をしてくる怪物がいるとしたならば、これ以上の恐怖は無い。

 戦いで勝利をしたとしても、気を許さずどんな事にも対処出来る様に体制を整えておく必要もあるという事だ。S・F・Cはまたしても、大きな課題を突き付けられ対応に追われる事となった。


     ― 地下4階 —


 その頃、S・F・Cのそれぞれの各階でプロディガルの玉子達がトレーニングをしていた。そのトレーニング方法とは体を鍛えたり、戦いの実戦練習をしたりするのでは無く、脳を刺激して脳細胞とリセの繋がりを深めるという事。リセを通じ全身の細胞に指令を送る事で全身の一体化を図るトレーニング方法であるのだ。

 簡単に言えば「イメージを鍛え抜く」という事である。

地下4階のD・Rクラスでは 岩山 力人 がトレーニングに励んでいた。


力人

「俺、このトレーニングを始めてみて感じたのだけれど、筋肉は重たい物を何度も持ち上げたりして、筋肉に負荷を掛ける事により筋肉の間に乳酸が溜まり固く大きくパワフルに仕上がってゆくものだと思っていたよ。でも違うのだな。考えが180度捻じ曲げられた気持ちだ。」


今マナミ

「でしょう? 私も最初はそう思っていたわ。筋肉は傷めつけて固く大きくなり力を発揮するものだと思っていたの。」

「もちろん、筋肉を傷めつけて鍛える方法も間違ってはいないわ。しかし、それにはリスクも伴うし、リセっていない人達のやり方ね。」


「例えば、急に筋トレをすると筋肉痛が起こる、筋肉や関節を傷める、準備運動などの筋肉をほぐし温める事が必要。それに、一番は毎日の積み重ねであり時間を掛けて筋肉を育てなければならないという様に、様々なリスクが伴うのよ。」

「でもここでやる事は、脳内でイメージ自体を鍛える事で『リスクを伴わない体の強化』が行えるって訳よ。本当に凄い事よリセの力は。」


力人

「そうっすね、俺が行って来た毎日の腕立てや、腹筋、スクワット、柔軟・・・全部が必要ないって事っすもんね。」

「頭の中でイメージする事で、脳ミソから全身の遺伝子や細胞に指令が行き細胞自体に新化が起こる。その新化は『筋肉・筋・骨・皮膚・・・』の隅々にまで伝わって行き強化される。正に理想的なトレーニングになる訳ですね。」


今マナミ

「そうよ、全ての鍵は『イメージ』が握っていたという事よ。」

「あの細くて色白のいかにも、ヒ弱そうな人を見てみて。普通ならあの腕や体では、30㎏のバーベルを持ち上げられるのがやっとのはずよ。でも、彼が持ち上げているのは、200㎏のバーベルよ。仮に持ち上げられたとしても、筋や骨が重さに耐える事が出来ないはずなのよ。」


力人

「な、何!200㎏もあるのか。そんな風には見えないぞあの動かし方。しかも、片手じゃねーか!どうなってるんだか、仕組みが分からん。」

「げっ、こっち見てピースしやがった。腹立つわー。」


今マナミ

「彼はイメージが上手く行っているのよ。あなたより少しだけ早くここに来たのよ。そして、彼の前職は『Dr.』医者よ。筋肉とは無縁の職業よね。」

「要するに、イメージするのも脳ミソの使い方次第って事よ。勉強が出来る出来ないって事も、脳ミソをどう使っているのかが重要であり使い方を知っているのか、いないのかって事だけよね。」


「人間の脳の大きさや作りは、ほぼ一緒であるのだから『使い方を知る』という、気付きが重要ね。」

「人間の脳は宇宙よりも神秘に満ちていると、古化さんも言ってなかった? 全くその通りだと私も思うわ。」

「だから、力人くんも今までの自分の考えを超越する様なイメージをしてみてはどうかしら? イメージは皆に平等に与えられた自由な発想なのだから。」


力人

「よっしゃー。俺もイメージをして自分の限界を超えてやる。断然ヤル気が出て来たぜ。マナミさん、俺のヤル気スイッチを押してくれてありがとう。」

「よーし、皆の為にもイメージ王に俺はなる。」


今マナミ

「それ、有名な漫画のセリフ、パクッてない?」


力人

「テヘ。」


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