第89話 S・F・Cの真髄
— トラ子の考え —
トラ子
「では山竹さん、山竹さん、聞こえてますか? 聞こえていたら返事をちょうだい。」
山竹
「はい、聞こえてるさ。どうかしたかさ。」
トラ子
「お願いがあるのだけれど、聞いてもらえるかしら。」
「私達が今戦っている場所に『水の使い手』を呼ぶ事は出来るかしら。」
山竹
「水の使い手? ちょっと待ってくれさ、直ぐに探すからさ。えーと、プロディガルリストから水の使い手で絞り、現在戦っていないプロディガルに絞る。あっいたいた、連絡してみるから待っててくれさ。」
「もっしー、クレアさんですか? 今応援要請が入っててさ、水の使い手を御指名されているのだけれども大丈夫かさ?」
クレア
「あ、はい。今さっきスイミング教室も終わって、その帰りなので大丈夫ですよ。御指名であるのなら、直ぐに送って下さい。」
山竹
「ありがとう。では、直ぐ送るどー。 ホイサー。」
水の使い手であるクレアは山竹によってトラ子とレッドが戦っている場所にテレポートされた。山竹は深くは考えていなかったが、プロディガルが3名以上で戦う事をMIXと言い、勉がミスをしてしまった戦術でもあった。しかし、今回はトラ子から依頼された事でありプロディガルからの要求に答えるのも、サポーターの役割りでもある。
クレアは歳にして20~25歳の細身だがしっかりした体形で締まる所は締まり、出ている所は出ている、ナイスな体つきをしている。水泳で鍛えられたものであろう。身長も160㎝位で色白で清楚な美少女だ。
普段は、スイミングスクールのインストラクターが仕事である。
トラ子
「いらっしゃい。クレアさん、来てくれてありがとう。ピアースフォンで名前は聞いていたわ。大丈夫? 忙しく無かった?」
クレア
「はい、大丈夫です。それで、私は何をすれば良いのでしょうか?」
レッド
「俺はレッド宜しく。あの岩陰に怪物が隠れているのだが、かなり手強いと思われる。トラ子さんの攻撃を真面に喰らっても倒れないし、俺の攻撃など熱がるだけだ。そして、足がとてつもなく早い。攻撃が狙って当たるものでは無い。しかも、俺の判断だが、体力はRED以上と見込んでいる。」
トラ子
「でも3人で戦えば多分いけるわ。今から説明する通りにお願い出来るかしら。」
レ・ク
「もちろんです。何でも言って下さい。」
トラ子は戦いながら考えていた。強い相手に同等のプロディガルがいくら攻撃しても相手にとって驚異的なものにはならない。それが耐属性の攻撃であってもだ。世の中には「階級・レベル・段階・グレード・地位」などを表す言葉で「ヒエラルキー」という物がある。それは「生体ピラミッド」の様な物で上に行けば行くほど数は少ないが、凄さが増してく事を意味する物だ。
そして、プロディガルにも「ランク」がある。相手を上回るランクでないと、それを制する事は不可能であるという単純明解な事だ。
だからこそ、トラ子は勝つ為の方法を考えていたのだ。
トラ子
「クレアさんは、水の塊を作れる? 作れるとしたら、どのくらい大きな塊を作れるのかしら?」
クレア
「周りにある水の量や空気中の水分量にもよりますけど、大きければ25mプール一杯分位の塊なら数十秒で作れると思います。」
トラ子
「あら凄い。それだけ作れれば問題無いわ。近くに川や池もあったしね。」
「レッドさんは、どんな火が出せるの? 例えば『花火』の様な広範囲の炎は出せるのかしら?」
レッド
「それなら任せて下さい。花火より範囲は狭いですが、直径10m位の細かい炎ならいつでも出せますよ。」
トラ子
「バッチリね。これで、あの怪物を倒せると思うわ。」
「では、説明するわね。」
説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あなた方はまだ体験した事が無いかもしれないけど、これから私達がやろうとしている事が『S・F・Cの真髄』とも言える所以である事なの。それが知れる、良い機会になると思うわ。でも、大きな力には大きな代償も付いて来る事があるから、それはだけは注意してちょうだいね。自分の体は自分で守るという事も大切なのよ。」
— 作戦実行 —
そして、トラ子の作戦が実行された。
先ず、岩陰に隠れている怪物をおびき出す為に、3人は3方向に別れそれと同時に軽い攻撃をした。怪物は危険と思い瞬足を生かして広い場所へと移動した。
怪物はかなり警戒していて、3方向をキョロキョロ見ながら何やらブツブツ言っている。
そこへクレアが準備しておいたプール並みの巨大な水の塊を気付かれない様に、怪物の頭上迄操り、水中の中へ強引に怪物を引き込んだ。水の中は強烈なうねりをしていて、怪物は水の中でランダムに回されている。
そして、トラ子は溜めておいた膨大な電気エネルギーを水の塊の中に放った。それはまるで小さな無数の雷が水の塊を包み込んでいる様である。すると、おびただしい電気を吸収した水の塊は、電気を全体に帯びた「オール電溜水」となり、怪物の全身に水電流が襲い掛かる。そのオール電溜水は特大線香花火の如く激しく電気を放っている。
しばらくすると、放電も収まり水のうねりも無くなった。その時、全ての水がはじけた。電気分解を起こしたのだ。すると、分解された水は「酸素と水素」に別れ怪物の上で巨大なガス状の粒子となった。そこで・・・・・・。
トラ子
「レッドさん今よ!あのガスに向けて花火を打って!」
「打ったら直ぐにその場から離れるのよ!」
レッド
「任せとけー。『ファイヤースタッカー』 シュボッ。」
その瞬間、レッドの放った花火が水素に引火し酸素も相まって怪物の頭上で見た事の無い「水素爆発」を起こしたのだ。周辺の物をほぼ吹き飛ばし爆発の中心から半径50mは草木も残っていなかった。あまりの強大な爆発により小さいが「キノコ雲」が登っていた。
頭上からは雨が降って来た。水素が燃えた事による化学反応でまた水に戻ったのだ。
トラ子
「皆さん大丈夫? 怪我は無い? 無事だったら声を出してちょうだい。」
レッド
「ト、トラ子さん。これヤバイですよ。こんな爆発は今まで体験した事が無いっす。」
クレア
「私、死ぬかと思いました。何でこんな爆発が起こるのですか? 信じられない。」
トラ子
「凄いでしょう? 私も久しぶりにビビったわ。これは、あまり心臓に良く無いわね。でもこれが、S・F・C本来の意味するところよ。S(科学)とF(融合)の力を利用した会社ですからね。」
「これからも、色々な事が起こると思うけど知識として覚えておいても損は無いわ。」
「それより怪物はどうなったかしら? 普通なら跡形も無いはずだけど・・・。」
レッド
「うぁ!あそこにまだ立ってやがる。あの爆発を喰らっても立っていられるのかよ。」
トラ子
「いえ、もう死ぬわね。あれだけ体液が出ていれば長くは生きていられないはずよ。」
怪物は両腕が千切れて体もボロボロになっている。意識もほぼ無い様な感じで生気が無くなりつつあった。上を向いて動かない。負けた事の証なのか、死ぬことの恐怖なのか、天からの迎えを待っているのか、空を見て突っ立たままである。
クレア
「私が、とどめを刺すわ。今まで積み重ねて来た悪行を悔いて死ぬがいいわ。」
と、クレアが攻撃の構えをしたその時、怪物がクレアの方を見て笑みを浮かべた。そして、その場に倒れて絶命した。トラ子は不思議な思いと同時に、嫌な違和感を感じた。クレアも攻撃の構えを解き、絶命した怪物の所に行きどの様な悪行をして来たのか考えていた。
すると、上空から何か音が聞こえる。3人は上を向いて音のする方へ顔を向けると、キノコ雲が一瞬にして飛び散りそこから音速を優に超えた大きな岩が落ちて来たのだ。
「ゴゴゴォォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・。」
それは、あまりにも一瞬であり誰も予測など出来るものではなかった。絶命する前に怪物が操り準備していた岩なのであろうか、かなり前から用意されていた物なのであろうか、知る由も無い。
音速を越える岩は怪物の死体諸共クレアをも押し潰して行ったのである。岩が落ちた所にはクレーターが出来る程であった。クレアとの通信も切れ、それはクレアの死を意味する材料にもなるのであろうか。
例えリセを投与している体であったとしても、脳や心臓に大きなダメージを負ってしまった場合は、どんなプロディガルでも死を避けられないのだ。
トラ子
「ク、クレアさん・・・。そんな。何という事なの・・・。どうしてこんな事が・・・。」
「クレアさん返事をしてー-----!」
レッド
「クレアさん・・・。嘘だろう。こんなの嘘だ!俺達は勝っていたんだ。勝手いたのに何故こんな事に・・・。」
「こんなの嫌だー------!」
山竹
「2人とも、一旦S・F・Cに送るさ。この状況はマズイ、2人共精神的に普通じゃいられなくなってしまうさ。」
「病院で、今起きた事を洗いざらい医師に話すのさ。心に溜めておいてはダメな事は全部吐き出すのさ。そうで無いと、心が壊れてしまうさ。」
「今の場所には処理班を送るから、2人共何も考えなくていいさ。」
「S・F・Cに戻すからさ。 ポチッ、 ホイサー。」
山竹はサポーターとして学んだ事をただ純粋に遂行していた。2人をS・F・Cの病院に送った理由として、あの状態のままプロディガルを放置しておくと、責任の重圧に心が耐えきれず崩壊してしまう事がある。重度になると廃人となる危険性も高くなってしまうのである。
そして、2人は体の治療と称し気持ちを繋ぎとめる事を中心とした「メンタルケア」を十分に受ける事となった。
この治療こそがプロディガルの心を支え、心を強くする一貫にもなっているのである。
山竹 里志。お前も良くやった。
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