第79話 受講者達の成長

 受講者達13名は全員大人であり、学生ではない。自分達が置かれている立場や状況はある程度察する事くらいは出来る。また、勉の言っている事、表情を見れば危機迫る事態が起きている事も把握している。そして、頭の良い連中である。講義終了後や休憩の時に皆で話をしている時に、話題には上がっていた。マザーと勉が引退してしまった時の事が。


 近い将来とは考えていたものの、こんなにも急に突然起こるとは思っていなかった。しかし、起きてしまった事は事実でありアタフタしていてもしょうがない事である。13名全員が気持ちを切り替えて、心の中で叫んでいる言葉があった。


《2班の心の声》

星川【私は誰かの役に立ちたいのです。この任務は私の天職だと思っています。】


夜見【この時の為に勉強してきたのですわ。私だってお役に立てますわ。】


土崎【おいおい、勉さんが疲れたら俺が変わってやるよ。いつでもバトンを渡してくれ。】


天空【あたしもいつか勉さんの様にサポートしてやるっす。いや、やってやんよ!】


宙治【俺だってエリートと言われて来たんだ。全力でやってみせるぜ。】


利乃【知的な利乃様を見せてあげるわ。誰よりも正確かつ賢くスピーディーにね。】


しずく【私の全てを発揮出来る場所はここです。真の力を出してみせます。】


《1班の心の声》

城 【いつでも俺に頼っていいんだぜい。既に準備はできてるぜい。】


風海【わらわに言ってくれれば直ぐに変わっても良いぞ。勉さんは水臭い人じゃな。】


超剛【体がうずいてしょうがねー。完璧さなら俺は負けないぜ、役に立って見せる。】


村神【私に任せてもらいたいでありんす。神の力は本物でありんす。】


小守【いつ私の出番が来ても大丈夫よ。チャージ全快。私の力量を見せてやるわ。】


山竹【僕も頑張ってやって来たからいつでも変れるけどさ、ご飯のお代わりは許してもらうさ。】


勉はまだ気付いていなかった。受講者達が何を思い、どうイメージしているのかを。受講者13名は、勉が思っている以上に成長していたのだ。


 この日から勉は、プロディガルのサポートを中心に一日を過ごしている。昼夜問わずモニターに付きっ切りである。比較的手のすく夜に食事や睡眠を取りその他はサポートに費やしている。

 怪物は夜になると活動が極端に少なくなるのだ。理由は分かっていない。

受講者達は勉の言った通りに午前と午後に別れ、Mルームで「模擬実戦」で技術を磨き、マザーズルームで勉の技術を学ぶを、繰り返し行っていた。


 勉がマザーの代わりを始めてから、何週間目が過ぎたのだろう。勉と受講者は毎日の激務で時の経つのを忘れていた。

 しかし、この間にも古化や押花達は交代でマザーの容態を確認しながら任務をこなしている。その為、プロディガルのサポートは勉一人に任せっきりになっていた。

 

 それから数日後、ある事故が起きた。それは、勉がサポートをしていた「MIX」のミスによりプロディガルの一人が亡くなってしまったのだ。その時の勉は既に限界を超えており、冷静な判断が出来なくなっていた。通常であれば難なくこなせるサポートであったが、この時は12戦同時にサポートを行っていて、判断に狂いが出てしまったのだ。


 通常の人間であればシンクロサポートは7戦が限界とされている。マザーが同時に20戦ものサポートが出来ていたのは「リセ」を投与した事による、ソニック・ブレインが発動したからに過ぎない。


 仲間のプロディガルは、そのまま亡くなった仲間を連れて逃げて来たのだが、無念さを隠せない様だった。亡くなったプロディガルの死因は胸を貫かれた事による即死だったという。リセの治癒力であっても心臓を抉られてはどうしようも無い。

 戦った怪物は「マグマ属性」で、応援要請を出していたプロディガルは「火属性」であり苦戦していた。そこに「スレッド(糸)」の使い手をサポートしてしまい、何も出来ないまま敵の一撃を真面に喰らい、絶命してしまったのだ。

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