第78話 ピンチ
休暇2日目の正午過ぎに受講者達全員の「ピアースフォン」に連絡が入った。
プロディガルや受講者達はS・F・Cから支給されている「ピアス型携帯端末」を耳たぶに装着しており、いつどんな時でも連絡が取れる様になっている。
通信
「Mルームの皆さん、この連絡はMルームの方限定で通信させて頂いています。緊急連絡を致します。至急Mルームにお集まりください。繰り返します。至急Mルームにお集まりください。」
(15分後・・・。)
講師
「皆さん貴重な休暇の中、急遽お集まり頂き申し訳ありません。しかし、S・F・C始まって以来の重大な事態となりました。」
受講者達は急に呼び出され集められたは良いが、S・F・Cの危機的状況な感じで言われても何が何だかさっぱりであった。機械のトラブルや停電? エレベーターが動かないとか? もしかして社長交代? などと考えてみたが、どれも当たっていなかった。それは・・・。
講師
「マザーがお倒れになりました。」
全員
「えっえっえー---!この間まで元気だったマザーが、倒れたのですか?」
講師
「先ほど、お昼前の任務中に『マザーが倒れた。』と連絡があり、受講者を集め報告をして下さいと言われたのです。」
「マザーの容態は分かっていませんが、かなりよろしく無い状態であるという事で、一旦ICUに入るとの事です。そこで、問題が無ければ直ぐに一般の方へ移られる様ですがどうでしょう・・・。」
「しかし、ここからが問題です。マザーがお倒れになられた今、私自身がマザーの代行を務めなければなりません。マザーが復活なさるまでの間・・・復活出来るのかさえ分かりませんが、私がサポート任務をしなければならないのです。」
「まだ皆さんには学んで頂かなければならない事があったのですが、現段階では講義がいつ再開出来るのか分からない状況です。」
「ですので、私がお教えした事をMルームで繰り返し行い『JASA』のスキルUPをお願いします。実戦形式が有効だと思いますので、これからは2班に分かれて学習してください。」
「この後1班はMルームで実戦式のシミュレーションを行い、2班は『マザーズルーム』で、私がこれからやる事を見て頭に叩き込む。これを午前と午後に分け1・2班で交互に行って下さい。」
「これから先は、この繰り返しになると思います。」
「1班は名前を呼ばれた順の6名、2班は残りの7名でお願いします。」
「以上となります。一方的に決めてしまいましたが、質問は受け付けません。もうやるしか無いのです。皆さんがここへ来た時、私が最初に言った事を思い出して下さい。」
【弱い自分を捨てる。前に出て行く。情報と仲間との連携。そして、相手の事を一番に考える。】
「これを念頭に置きながら学習をしてください。いいえ、今日からは学習では無く『疑似実践』とします。それでは、始めて下さい。」
勉はそう言い放つと「マザーズルーム」に入って行った。勉の表情は今までに無い位、緊張に包まれているというか責任という重圧が伸し掛かっている感じであった。
そして、勉の後に続き、2班の7名も中に入って行った。
勉はマザーの椅子に座ると大きく深呼吸をして用意しておいた「DHAメガドリンクPRO」をコップ一杯ほど飲み干すと「サム・リング」を装着した。
キャプテン・モニターが勉の情報を読み込み起動し始める。
AI
「勉様お久しぶりです。本日のサポートは勉様でよろしいですか?」
勉
「良いわ。私のデータでお願い。私の最新のデータを使ってちょうだい。どの位前になるかしら?」
AI
「勉様のデータですと2年3か月前のデータになります。こちらでよろしいですか?」
勉
「それでお願い。」
AI
「勉様、その前にお伝えする事があります。」
勉
「お伝えする事って何? 早くしてちょうだい。この間にも何処かで応援の要請をしているプロディガルがいるかもしれないのだから。」
AI
「はい、4件の応援要請が入っております。」
「お伝えする事は、勉様の心拍数・血圧・興奮度指数・緊張指数・発汗値・困惑指数が共に正常値より大幅に高くなっております。また、ドーパミン・セロトニン・アドレナリンの分泌される量も通常よりも高くなっています。」
「良好なサポーティング状態では無いと思います。お止めになられた方が良いのではないでしょうか?」
勉
「今はマザーがいないの。だから私が代わりを務めなくてはならないのよ。良いから、私の最新のデータとリンクさせて。お願い。」
AI
「了解しました。このままリンクします。少しお待ちください。」
天空
「勉さん、ヤバイって。そんな状態でこの任務は務まらないっしょ。あたいらがもっと腕を上げてからじゃダメなのかい?」
星川
「そうですよ、一旦落ち着いて気持ちを整えてから出直した方が良いと思いますよ。」
AI
「リンク完了です。では、健闘をお祈り致します。また、いつでも呼び出して下さい。」
勉
「キャプテンありがとう。」
「では、皆さん。今要請されている応援をほっておけというのですか? 要請を発しているプロディガルは今どんな思いで戦っていると思いますか? 今、この時に応えられないサポートなど本物のサポートではありません。要請に応えてこそプロディガル達にとって真のサポーターであり、私達の任務の意味があるのです。」
「窮地を凌ぎギリギリの状態で応援要請を出してきている仲間に対し、直ぐに対応する事が何よりも優先すべき事なのです。」
「彼らは一般の人達から見れば、命を掛けて戦ってくれる『ヒーロー』です。しかし、彼らからすれば自分の窮地に適確なサポートをしてくれる私達こそが『ヒーロー』なのですから。ヒーローが存在しなければ心すら強く持てないという事です。」
「あなた達も心の何処かにヒーローを抱いているからこそ、悪を許さないと思い正しい事をして行こうと思えるのです。」
勉
「全てを見ていて下さい。これから私のやる事を視覚で捕え感覚で感じ頭と動きで覚えて下さい。」
勉は、己の全神経を研ぎ澄ませ脳ミソをフル活用しながら任務を始めた。受講者達にとって今まで見た事の無い勉の姿であった。勉の周りには誰も近づけない、質問も許されない見えないシールドが張られていて外部からのノイズを受け付けない別の空間にいる様であった。そして、勉のサポーティングが始まった。
その姿はマザーにも引けを取らない動き、スピード、判断力、適確性であった。正に「JASA」そのものである。2班の受講者達は、勉のしている事に瞬きもせず喰い入る様に見ていた。
受講者7名はビビッて尻込みする処か、全く違っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます