第77話 強いマザーの想い

古化

「マザーは自分の体に異変が起き始め、次第に醜い姿に変っていくのを実感していた時、自暴自棄に陥り情緒不安定になっていた時期もありました。でも、今の仕事に就き任務をこなして行く内に、ある事に『やりがい』を見い出したのです。」

「それは、自分の編成した『MIX』により諦めていた『命』が救われた事にありました。」

「その内容は、あるプロディガルが怪物に押されピンチになっていた時の事です。」


【内容】

 プロディガルの能力はミストの使い手だったが、怪力属性の怪物と戦っていて苦戦を強いられており、応援要請が掛かっていた。その要請にマザーは直ぐに『MIX』対応をして『力と電気』のプロディガルを送り込んだ。この違う能力を持ったプロディガルが3名以上で戦う事を『MIX』と呼んでいるのだ。当然MIX戦術で戦ったお陰であっという間に勝利し事なきを得た。


 しかし、そのミストの使い手は怪物により腕を潰され引きちぎられていたのだ。リセは傷や折れた骨などは急速に治癒出来るが、完全に無くなった臓器や部位に対しては修復は不可能なのだ。そのプロディガルも片腕は無くなったものの傷口に関してはリセの能力により直ぐに修復された。その後、片腕を失ったプロディガルは引退をせざるを得なかったが、組織として彼と彼の家族は手厚く保障されている。


古化

「マザーはそのプロディガルに『そこまでして守っていた物は何なのか?』と尋ねました。すると、そのプロディガルはある物を守る為に逃げずに戦っていたと言うのです。」

「それは、まさかの『蜜蜂の巣』でした。自分の命が危ないというのに格上の怪物と戦っていた理由が蜜蜂の巣を守る為だと聞かされ、マザーは半分呆れていたと言います。」

「そして、マザーは聞きました。何故自分の命を掛けてまで虫である蜂の巣を守っていたのかを。先ずは、自分の命を守る事が先決ではないのかと。」

「すると、そのプロディガル(Pミスト)はこう答えたそうです。」



    — Pミストの答え —


「この蜜蜂ファームはこの辺りでは最大の規模を誇る広さで、ここが破壊されると周辺の蜜蜂が全滅してしまいます。蜜蜂がいなくなると植物は花を咲かせても『実を結び種を作る』事が出来なくなり、子孫を残す事が出来なくなります。するとそこで生活をしていた生き物の生態系にも影響を及ぼし、次第に地が痩せ荒れ果てて行き砂漠化が進んで行くのです。」


「一旦砂漠化が起きてしまうと、周囲を巻き込みながら驚異的な速さで広がり、やがて広大な土地が砂漠となってしまい生き物が住めない場所になってしまうのです。私はそうになってしまう事が、たまらなく嫌なのです。自分達が暮らして来たこの場所、この土地、この国を守りたいのです。これから、ここで暮らして行く未来の人や生き物の為に・・・。」


古化

「マザーはそこで思い知らされたのです。この世界は全て繋がっているのだと。自分一人が生きているのでは無い。自分だけが不幸で辛く悲しいのでは無いのだ。この地で生きている『草花や虫、小動物や人間・・・。』全ての者たちが支え合い、支えながら恩恵を受け生きているという事を一人のプロディガルから教えられたのです。」


「衝撃を受けたマザーはしばらく仕事が手につきませんでした。今まで自分の事ばかり考えて生きて来た人生に『私は周りを見ずに自分の事しか見て来なかった。』何て愚かな人生であったのだろうと。」

「この世界からすれば蜂などチリの様な存在でしか無いのに、そのチリが何処かで繋がり支え合っているではないか。あんなにも非力で小さな蜂からも、少しの恩恵を受け支えられながら生きている。いや、生かしてもらっているのだ。」

「こんな私にだってもっと出来る事がある。色々な場所や形で支えたい繋がって行きたい、皆の役に立ちたい。」と。


「マザーは初めて自分の価値を自分で見つけ出し『支え・繋がり・救い』を中心に任務にあたっているのです。これが彼女の『やりがい』なのです。当たり前の事ですが、感慨深いと思いませんか? これは皆さんに知ってもらいたかった事です。」

「勉さん、大事な講義の時間を割いてしまって申し訳ありませんでした。どうぞ続きをお願いします。」


講師

「いいえ、今社長から聞いた話は私も知らなかった事でした。聞けて良かったです。マザーも色々な葛藤があり、気付きがあり、ご自分で考え選択して来た人生であったのですね。辛く苦しいだけの任務では無かったのですね。頭が下がります。」

古化

「それは、私も一緒ですよ。その人が、その人の苦しみを乗り越え掴んだ場所になど、他人が到底辿り着ける事など出来ません。もし辿り着けるとしたら、自分の険しく過酷な違うルートを通る事で、同じ高みを見る事が出来るのかもしれませんね。では、失礼します。」


講師

「それでは皆さん、Mルームに戻り講義の続きをしましょうか?」


全員

「ハイ!」


講師(おや? マザーに会う前と今では全員の気持ちの入り方が明らかに違いますね。古化社長のお話の影響もあるのでしょう。しかし、これは違う意味で良い刺激になったのかもしれません。良かったです。)


 この日を切っ掛けに、あまりヤル気が見えず何となくバラバラであった受講者達の気持ちが引き締まり、同じ方向を見出したのだ。元々頭の良い連中であり、気持ちの切り変わった受講者達の吸収力には、勉も驚きを隠せずにいた。

 皆、マザーの想いの様に「支え・繋がり・救い」を心の何処かで必要とし、願っている事であるのだろう。


 それからというもの、受講者達は毎日講師の教えを忠実にリピートしシミュレーションしながら基本を頭に叩き込んでいた。

それから、1週間・2週間・3週間・1か月・・・



    — 3か月後・・・ —


講師

「皆さんあなた方が私の講義を受け始めてから、今日でまる3か月が経ちました。その間、何かに取り付かれたかの様に受講をされていましたが、端から見ていて怖いくらいでしたよ。」

「3か月間休み無く受講されていたので疲れたのでは無いですか?」

「そう思い、本日より2日間の休暇を支給いたします。古化社長からも言われました。」

「どうぞ、この2日間お好きな様に過ごして頂き、心身ともにリフレッシュして下さい。では、本日より2日間の休日スタートです!」


 急ではあったが、受講者達は2日間の休暇をもらい、急いで詰め込んで来た色々な事を少しだけ緩やかにして緊張を解く良い時間にもなるのであろう。


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