第70話 気付き

流聖

「普通に用意し・・・普通に立ち回る為には・・・。」

「古化さんが言っていた『普通に慣れる』という言葉自体が最大のヒントであり、そこに辿り着けないとこのミッションの本当の意味が無いという事ですよ!」

「でも、それにはどうしたら良んだ。どうすれば、普通を獲得出来るんだ。」


「そうだ皆さん。僕達はこの3週間過酷な特訓を乗り越えて来ましたよね。最初の頃とは体力も気持ちも、別人の様になったと思います。そして、この部屋で少しづつ動ける様になったのは、何が要因になったのだと思いますか?」


力人

「それは、細胞の強化がその都度行われて、細胞新化が加速しているからではないか?」


流聖

「リッ君その通りだよ。僕達の細胞は強化され新化が進み、そのお陰で最初よりも随分楽に動ける様になった。でも、その細胞強化はどうやって起きた事ですか?」


冷斗

「リセの作用だ。脳から送られた指令をリセが受け、全身の細胞に指示を出し細胞の強化を促しているんだよね確か。」


流聖

「その通りです冷斗さん。という事はです。テストの事を思い出して下さい。テストを受けた時、自分でも信じられない程のパワーと変な現象が起こりましたよね。あれをここで使うのですよ。カレーを食べる時に!」

「このミッションの最大の目的は『普通に慣れる』と言っていますが、僕らに宿っているリセが作り出す超人的な能力を自分自身でコントロールして引出し、この部屋で普通に生活を送りミッションを終了させなさいという事なのですよ。」


冷斗

「なるほど。自分達の能力を引出しコントロールしながら『普通』に生活をするという事なのですね。」


力人

「だから、古化さんも押花さんも『普通』という事を強調していたのだな。気付かなかったー。俺はてっきり細胞強化=筋肉強化であり、それにより体が動かせる様になるとばかり思っていたぞ。」


流聖

「リッ君、冷斗さんやってみましょう!自分に与えられた自分の能力を引出し、自らの力でこのクソみたいなミッション-Xをクリアーしようではありませんか!」


力人

「クソみたいなと言うな、これからカレーを完食しなくてはならんのに。」


流聖

「自分には出来るのだろうか? では無く『僕がやらなければ誰がやる』と意識を高め、3人でやり遂げましょう。既に細胞の強化は充分進んでいるはずです。」


《重要な事に気が付いた3人は、自己の持つ能力をどうしたら発動させられるのかをイメージする事に集中した。テストで能力が発動した時の事を考え、夢を見ていた事を思い出した。そして、何の為にS・F・Cに来てクラスに分けられ、何故腹の中にベビーストーンを入れられたのか。全ては自分の為では無い。親兄弟姉妹、親戚、友人、知り合い・・・いや皆の為、人類存続の為に自分達は選ばれここに来た。僕達の背後には、色々な人の思いや未来が託されているのだ。そう思った時、腹の辺りから体の隅々に今までとは違う感覚が波紋となり広がって行った。

 その時、力人の筋肉は鋼の様に固くなりオーラが立ち込め始めた。流聖の体はランダムに液状化している。冷斗の体は下半身は熱く、上半身は冷気を帯びている。》


 3人はお互いの顔を見合わせた。各々が自力で能力を引き出せた瞬間だった。その体には力がみなぎり、今まで動かす事に必死だった体が、羽の様に軽くなり宙を舞う事が出来そうなくらいである。3人はダイニングテーブルの前に立ちカレー用のスプーンを掴んだ。動かなかったスプーンが簡単に持ち上がり、コップで水も飲めた。


流聖

「今までの3週間とはまるで違う、嘘の様に体が動きます。凄いです。」


力人

「頭の先から足のつま先まで重さを感じないぜ。無重力の中にいる様だ。これが能力発動状態なのか? スゲーぞ。」


冷斗

「そうですね。体にまとわり付いていた鉛の服が全て消え去った様な感覚です。」


流聖

「あっ皆さん、感動するのは後にして最後のミッションを終了させましょう。えーと、ヤバイ残り時間10分を切っています。急がないと。」


力人

「なーに、慌てるなって。カレーは俺の大好物だ、最後の晩餐がカレーでも良いと思っているくらいだ。それに、カレーは『飲み物』と言うだろう?」


ガツガツガツ・・・ゴクゴクゴク・・・ズルズルズル・・・。



プシュー。部屋の扉が開き、いつもの様に押花が入って来た。


押花

「朝食の時間は終了となります。おや? 皆さま完食をされた様ですね。綺麗に召し上がって頂きありがとうございます。片付けが楽ですわ。」

「それに、完食したという事は自らが持つ能力を使えたという事ですね。おめでとうございます。私の出したヒントが簡単過ぎてしまいましたか?」


プシュー。また部屋の扉が開き、今度は古化が入って来た。


古化

「竜宮さん、岩山さん、岩清水さん、良く大事な事に気付きクリアーしてくれました。このミッションで重要な事は『能力を呼び出し使う』ただそれだけです。自分の能力を自分で使えなければ何も始まらないからです。これでプロディガルになる権利を得たという事です。」


「3週間という長い時間ご苦労様でした。君達には今から2日間の休日を与えます。久しぶりにゆっくりと休むと良い。」


「押花くん、この部屋のスイッチを切り3人に2日間の休暇を与えてやって下さい。この様なタコみたいな状態では、喜びも表せない様ですから。」


押花

「承知しました。電源を落として来ます。」


 3人はカレーを完食しミッション終了を意識した瞬間に気が抜けてしまったのか、押花が部屋に来る前には床に倒れ動けなくなっていた。その状態で話を聞いていたのだ。


古化

「後は、継続的な能力維持が課題ですね。普通を手にしましょう。ハハハハでは。」


力人

「やっぱスゲーや。あの二人、この部屋にいる間も普通にしていたよな。」


冷斗

「凄い事ですよ。私達もあそこ迄たどり着けるのでしょうか?」


流聖

「この3週間で僕達も随分と成長出来たのではないでしょうか? この先も辛い訓練があると思いますが、頑張りましょう。」


力人

「流聖お前ちょっと前のメソメソモードが無くなったなぁー。どうした。」


流聖

「そうですかぁ~? 僕はいつもと変わらないと思うのですが。からかいですか~、やめて下さい。」


冷斗

「私もそうに思いました。人は成長する生き物です。いくつになっても成長は大事で成長する事で新しい何かが見えて来る。新しいものを見て感じ考え、そしてまた新たな発見を見い出す。これが成長なのですよ。」


力人

「何かカッコエエこと言ってるけど、あんまり響かんかったなぁ~。」


流聖

「ど、どうなんでしょう? 僕には良く分りませんでした。ハハハハ・・・。」


冷斗

「カッコつけて言わなきゃ良かったー! キツイー。」


流聖

「あれ? 体が軽くなりましたね。コントロールが解除された様ですね。」


プシュー。 FeCMのスイッチを解除した押花が部屋に戻って来た。


押花

「皆様お疲れ様でした。3人共無事ミッションをクリアー出来た事を心から祝福したいと思います。おめでとうございます。」

「本日より二日間の特別休暇が支給されました。この貴重な二日間を利用して精神と体をリフレッシュさせる事をお勧めします。特に『脳』のリフレッシュは重要になります。」

「次からの訓練は『イメージ』を中心とした脳内の活性化を促して行くトレーニングとなりますので、そのつもりでいて下さい。当然脳に掛かる負担も大きくなります。」


「それでは、ご自分の部屋に戻りお好きな様に休日をお過ごしください。」

「以前にも言いましたが、施設内をウロチョロする事はお控え下さい。見学程度であれば問題ありません。以上となります。では、失礼します。」


 押花は部屋を後にした。


力人

「ここへ来て初めての休みか。3週間休無しでミッションを無我夢中でやって来てやっぱ少し疲れたかな。」


冷斗

「そうですね。中でも私は32歳の最年長ですから、疲労の蓄積もお二人よりも多いですよ。部屋に戻ってエナジードリンク5本まとめて飲みたいくらいですよ。」


流聖

「そうですか? 僕は心も体も充実していて、このS・F・Cに来れて良かったと思っています。リッ君達の後押しが無かったら僕はここへ来ていませんでした。」

「そして、冷斗さんやリッ君と、こうして最初の訓練を無事クリアーする事が出来て、自分でもかなり成長出来たのでは無いかと実感しています。」


「仲間と協力し合い励まし合って、課せられた目標を達成する。僕はそこに感動すら感じています。以前の僕には起こり得なかった事がここへ来た事により起こり始めたのです。」

「僕はS・F・Cに来れて、本当に良かった。皆さんに頂いた助言や後押しにガチで感謝しています。」


力人

「大げさだなぁー。要するに、流聖は閉じこもっていた自分の殻を破り外へ出る事が出来たという事だろう? 自分の殻の中だけで満足して、自分の好きな物しか見て来なかったお前が、殻の外の景色を見て心打たれる出来事が起きた。そういう事だ。」

「ただそこには、俺等という『切っ掛け』がいたからこそ、外の景色を見る事が出来たんだぞ、感謝しろ!ガハハハハハ・・・。」


冷斗

「でもです。その殻を破らずに外の景色も見ようとしない、怖くて見る事が出来ない可哀そうな人もこの世の中には存在します。」

「以前は私もそうでした。何か切っ掛けを待ってはいるものの、自らは行こうとしない。そういう人もいるのです。」


「しかし、切っ掛けは待っていれば訪れるものではありません。自分の手で捕まえに行くものだと、最近分ったのです。」

「流聖くん、力人くん。私も君達と出会えた事に感謝するよ。そしてこれからも宜しく頼みます。」


2人

「任しとけー! こちらこそ宜しくですー。」


 3人は固い友情をハイタッチで交わすと、自分達の部屋に向かった。そして、冷斗が思い出したかの様に変な事を言い出した。


冷斗

「あっそうだ!この休みを利用して、祈祷師様にプロポーズしてこようかなぁ~!」


力・流

「それだけは、止めとけ~!」

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