第69話 そして・・・ミッションⅡ

冷斗

「皆さん私の勘違いでなければですが、ここへ朝食を持って来てくれている助手の押花さんですが、この部屋に入って来ているのにも関わらず普通に私達へ対応していましたよね。これってどうなんでしょう? おかしく無いですか?」


力人

「おかしい? 何がおかしいんだ? 食事を持って来たり、片付けたりしてくれているだけだろ。まぁ言い方が冷たい感じはするけどな。」


流聖

「リッ君違いますよ。冷斗さんが言いたいのはそこでは無くて、この部屋に入って来る押花さんの体の事です。何故体の自由を奪われないのかと、いう事です。」


冷斗

「そこです。彼女にその症状が表れないという事は、彼女もこのミッションを克服している凄い助手という事では無いでしょうか?」


力人

「なるほど・・・そうだよな。あの人普通にしてるから何も疑わなかったぞ。スゲー助手なんだな。」


 プシュー。扉が開き、押花が入って来た。


押花

「あら、皆様何とか朝食を召し上がる事が出来たのですね。素晴らしいです。」

「でも次は、もっとお行儀よく召し上がって下さいね。片付けるのが面倒ですから。」

「12時になりましたら、また昼食をお持ちしますのでそれまでミッションを進めておいてください。」


 押花は平然と後片付けをしてテーブルを拭き、何食わぬ顔で部屋を出て行った。


力人

「クソー。俺等が動けないというのに、何故平然と普通に立ち回れるのだ。どんな事をするとこの状態を克服できるんだ。」


 その後は3人で協力し合い、少しずつ動く体でようやく昼までに積み木をおもちゃ箱にしまうミッションを終了させたのだ。


3人

「グァァァァァァ・・・。やっと、やっと一つ目のミッションが終わった。」


モニター:

「M‐Ⅰクリアー おめでとうございます。ご苦労様でした。」

「続きまして M‐Ⅱ 絵を描くミッションとなります。」

「部屋中央にありますテーブルにて指定された絵を描いて下さい。お題はモニターに表示されます。では、スタート。」


 モニターに映し出された絵のお題は「ゾウ」と表示されていた。


 3人は中央のテーブルまで這い蹲りながら移動する。それはまるで戦場の兵隊が身を低くして移動する「匍匐前進(ほふくぜんしん)」の様である。

用意された紙にマジックでゾウを描くだけのミッションだが「紙は鉄の板・マジックは鉄アレー」の重さに感じるほど腕に掛かる不可はとてつもない。3人はテーブルに向かいそこから何も出来ないでいた。


     — 3時間経過 —


冷斗

「キツイ。座ってマジックを握っているだけなのに、ここから絵を描くなんてマジで無理です。腕が動かせない。」


流聖

「マジックが鉄アレーの様です。動かせる気がしない。」


力人

「力がある無いのレベルでは無いな。紙に丸を描く事すら無理かも・・・。」


ポーン。 モニターの表示が切り替わり「昼食の時間」と表示された。

プシュー。 直後、押花が籠いっぱいに食事を持って来た。それをダイニングテーブルに綺麗に並べた。


押花

「皆様、昼食の準備が整いました。手を休めてお召し上がりください。14時には片付けに参りますので、それまでに済ませて下さい。」


 今回も、表情一つ変えず昼食の準備をしていた。それを見ていた3人は悔しかった。早く押花の様に普通を手にしてやると頭の中で闘志を燃やしていたのだ。

 腹の減っている3人はまだ紙に何も描けていないが、昼食の用意されているダイニングテーブルまで「匍匐前進」で移動をする。

 今も食べる姿は、獣の様である。行儀よくなど出来るはずも無い。


冷斗

「これも、鉄分がたっぷり入っていると知りながら私達には食べるという選択肢しか無いのが辛い。食べなければ体力がもたなくなるし、食べれば体の自由が更に奪われる。」


流聖

「過酷です。しかし、食べなければミッションどころでは無くなってしまいます。どちらにしても過酷なのであれば、思い切り食べましょう。だって、この料理やたらと美味しくないですか? 手が止まりませんよ。」


力人

「流聖も気が付いたか? 料理好きな俺が思うにこの味付けは『四天王』クラスの職人が作っているはずだ。俺はそれを聞き出すつもりだ。」


冷斗

「食べ終わったら少し休み、二つ目のミッションに取り掛かりましょう。」


3人

「うあぁぁぁぁぁ・・・。やっぱり体が動かせねーぞ。食い過ぎたー。」


モニター:

「本日の昼食:糖分〇〇g。鉄分○○○g。となります。」




— 1週目・・・2週目・・・3週目・・・ —



 そして時間は流れ、幾度となく簡単だが大変なミッションを何とかクリアーしていた。大分体も動かせる様になり、移動やトイレなどはそんなに時間を掛けずに行える様になっていた。しかし、この訓練は鉄分のコントロールを克服する事では無い。古化が言っていた「普通に慣れる」という訓練である。だが、3人共その本当の意味が分からず毎日を過ごしていた。


そして、ミッション開始から4週目の朝、押花が3人に忠告すべき重要な事を言った。


押花

「M‐Ⅹ。このルームでのミッションも終盤を迎えようとしています。しかしながら、皆様は未だに大事な事に気付けていません。残念な成長過程を送っています。」

「私が言った『大事な事』に気付けない内は、ミッションクリアーとはなりませんのでご承知下さい。」


「大事な事に気付けないままギブアップとなりプロディガルの道を閉ざされS・F・Cを去っていった方も何名かいます。プロディガルになるという事は、体力や精神力だけでは無く、機転を利かせ素早い判断力と行動力が無いと自分や仲間を救える術を見つける事が出来ないという事です。即ちプロディガル失格という事です。」


「本日の朝食の前にこれを1本飲み干して頂きます。これはとても栄養価の高いドリンクで、皆様の気持ちと体をリフレッシュさせる作用があります。味も皆様の好きなマンゴー味となっています。」


 3人はドリンクを飲み始めた。何故かストローを渡された。やはり味は今まで飲んだマンゴージュウスの中で一番旨く、一気に飲んでしまった。

 押花はそれを見てニヤリと笑った。


モニター:

「只今お召し上がりになったスペシャルドリンク:糖分〇g。鉄分○○○○g。です。」


3人

「なっ何ー!ひどいですよ押花さん。何が栄養価の高いドリンクですかー。ただ鉄分の含有率がお化け並みに入っているドリンクじゃないですかぁー!」

「ストローを渡されたから、何か変だなと思っていましたよ。」


力人

「うおー。体の自由が・・・。劇的に動かねー。俺達を騙しやがったなー・・・。」


押花

「騙した? それは、失礼な言い方ですね。私は皆様にヒントを差し上げているのですが。」

「そして、本日召し上がって頂く朝食は・・・カレーライスです。必ず用意してあるスプーンを使い召し上がって頂く事が条件となります。手で食べたり、犬食いなどをした場合その場で失格とさせて頂きます。」

「また、コップに入っている水も綺麗に飲み干してください。残す事の無い様にお願いします。」


冷斗

「朝からカレーライスとは驚きです。これもまた鉄分がメチャンコ入っているのですか? もう、分かっています。全部食べますよ。もちろん水も全部飲みますよ。水では無いですよね。正確には、鉄水(てっすい)ですよね。」


押花

「フフフ・・・。良いですか、このカレーライスこそが私からお伝え出来る大ヒントなので、良く考えながらお召し上がり下さい。では、2時間後に片付けに参りますので、しっかりと全部完食してくださいね。」


 押花は大ヒントというキーワードを残し、部屋から出て行った。


流聖

「押花さんが言っていたヒントが、なんとなく分かる様な気がするのですが、ハッキリとは思い浮かびません。けど、カレーを食べる事で何かがひらめく様な気がします。とにかく、僕が先に食べてみますね。」


「このスプーンを使うのですね。よーし、どんだけ鉄分が含有されているのか知らないけど、全部食べてやりますよ。 うん? うん? うぐぐぐぐぐ・・・。」

「えっ、このスプーン全く動かないのですが。テーブルにくっついてますね。もしかして、このコップもですか?・・・コップも動きません。何故?」


力人

「流聖、そのスプーンやコップの材質は何で出来ているか、刻印されてないか?」


流聖

「えーと、はい刻印があります。スチールと刻印されています。」


力人

「やはりな。この部屋は鉄分コントロール・ルームだ。そのスプーンもコップもこの部屋では、何十キログラムに相当する程の重量に設定されているのだと思う。」

「そのスプーンを使ってカレーなど食えたもんじゃねー。水も飲めねーぞ。」


冷斗

「でも、押花さんはスプーンもコップも、いつも通り用意し普通に立ち回っていましたよ。」

「押花さんの言っていた大ヒントとは、カレーの中にあるのでは無く『私の様に普通に振舞う事を可能にするには・・・。』と教えている様にも感じました。」

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