第66話 思い込み

 祈祷師は顔に手をやると、仮面、桂、帽子、マントを一気に取り、中腰の姿勢を解除して普段の姿勢に戻した。すると、身長は倍位になり、お洒落な可愛い服を着た20代中旬の可愛らしい女性が姿を現わしたのだ。


3人

「ううう嘘でしょうー--!老婆だとばかり思っていたのに、ピチピチギャルではないですかぁー!」


祈祷師

「私の名前は『十文字 朱音(じゅうもんじ あかね)』と言います。宜しくお願いします。」

「ほんと、さっきの体制は辛いのよねぇ~。声もガラガラにしないといけないし。」

「だけど、古化社長が『最初は必ず老人の姿から対応して下さい。』と言われているのでしょうがないのよ。」

「でも、その代わり殆どの人が見た目としゃべり方で騙されるのよねー。」


冷斗

「何故、古化さんは老婆の格好をして祈祷術を行ってくれと言っているのですか?」


祈祷師

「何故だか分からない? 人は目にした物、つまり視覚からの情報が大半を占めていて、その情報だけでそのもの自体を認識しているのよ。その率約90%以上よ。あなた方は私の本当の姿を見た時、全員が驚きましたよね。そこが味噌よ。見た目は小さくて、年寄りで、やっと歩いている様な老婆がまさか、20代の若き女性だとは思いもしなかったはずです。」


「これから、戦う怪物達の中には見た目とは違う驚異的なパワーを持った種類がいると聞いているわ。社長は『見た目に捕らわれるな。』という事が言いたいのよ。それに、安易に想像をして油断をし、自らを 仲間を危険な目に合わす様な事だけは、避けて欲しいと願っているのよ。」


「あなた方は、色々な人から預かって来た大事な家族であり、日本、いや地球の宝物だと思っているのよね。その大事な家族を失いたくは無いし、最後宝物は預かって来た所にキチンと返す事が使命だと考えているのよ。凄い人よね古化社長は。」

「常に私達やあなた達の事を考えているわ。感謝しなさいよ。」


力人

「あのおっさん見た目のキャラが抜けてたり、チャラかったりするからイマイチ信頼性に不安があったのだけど、どうやらその『見掛け』ばかりが気になって、古化さんの本当の所は見えていなかったという事だな。」


流聖

「そうですね。今回は祈祷師様の『見た目に捕らわれるな。』が、良い教訓になりましたね。貴重な気付きを与えて頂きありがとうございます。」


祈祷師

「では、これで全て終了となりますので、エスコータARに着いて行き次なる指示を受けて下さい。」

「皆さん頑張って下さいね。応援しています。」


冷・力・流

「ありがとうございました。」


 部屋の外まで見送りをしてくれた祈祷師と老婆に何度もお辞儀をしながら、エスコータARの後を着いて行く。3人は未だにあの祈祷師の見た目のギャップを思い出し完全に騙されていた事にショックでもあった。3人共色々な詐欺商法やマルチ商法などには引っ掛からない自身があったからだ。


流聖

「でも、ビックリしましたね。祈祷師の叔母様が、あんなにも若くて可愛らしい女子が化けていたとは、想像もしていませんでした。」

「僕は完全に騙されていましたよ。」


力人

「そうだな。まさか若い姉ちゃんだったとは、全く思わなかったなぁー。」

「それにしても、スタイル抜群のムチムチボディーだったな。俺惚れちゃいそうだぜ。なんてね。」


冷斗

「あれ? 力人くんもですか? 中々言いずらいのですが私は一瞬でハートを奪われましたよ。これって一目惚れというやつですかね。」

「今日はもう何にも集中出来なさそうです。頭の中が祈祷師様でいっぱいです。」

「これって、私と力人くんは『恋敵』という事になるのでしょうか?」


流聖

「えっリッ君もなの? あの祈祷師様が好きになってしまったの? どうしよう、これは大ニュースだよ。利乃さんとしずくに報告しなければー!」


力人

「おい流聖、余計な事言うんじゃねーぞ!あの二人の耳に入ったら何を言われるのか分からないからな。それに俺は、一目惚れなんかしてねぇーし、惚れちゃいそうだなと言っただけだ。言葉の綾ってやつだ。」


冷斗

「では、私だけが祈祷師様を愛しているって事で良いのですね。この訓練が終わったら祈祷師様にプロポーズして来ます。愛を伝えるのは早い方が良いと思いますし、この気持ちが熱いうちに行動を起こすべきだと私は思います。」

「鉄は熱いうちに打てとも言いますし。花束を購入して、その中に指輪でも入れて渡した方がより気持ちが伝わるかな・・・?」


力・流

(この人マジヤバイ! 相手の事を考えていない一方的な気持ちを押し付ける気だ! しかも・・・結婚する気でいるー! こっ怖!)


エレベータの中で力人と流聖は祈祷師と冷斗の変貌ぶりにビックリさせられた事を繰り返し思い出しながら、早く戻って休みたいと思っていた。

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