第65話 ベビーストーン 入石

 冷斗、力人、流聖の3名は「エスコータAR」の案内により後を着いて行く。エスコータARは顔や眼は丸型で口は無く、体は玉子型の全身がほぼ丸い形で出来ている白が基調なロボットだ。足は無く一つだけ車輪が付いていて、それが移動手段である。車輪が一つなので良く倒れないな? と疑問に思うぐらいのバランスだが、実際どうなっているのか分からない。そして、地下8階にいる、祈祷師様の部屋の前まで来た。


 エスコータARは何故か扉の前で待機の状態に入り、それ以上何の反応も無くなった。どうして良いのか分からない3人は扉の前で話し合った。


冷斗

「石を入れてもらう順番は決まっているのかな?」


力人

「いや、決まって無いんじゃねーの。別に誰かが先ですとも言われ無かったし。」


流聖

「ですね。別に誰が先でも良いと思いますが・・・。」

「でも、やはり世間一般的に言うのであれば、ここは一番年上の冷斗さんが、年下の僕達に手本を見せるというのが一般的な常識では無いでしょうか?」


冷斗

「だよね。やっぱ年上の私から・・・って、私からですかぁー!」

「ここは民主主義的にアミダくじとかジャンケンで決めた方が公平で良いと思うのだけど・・・どうかな?」


力人

「俺は良いぜ。ジャンケンでもアミダでも腕相撲でも。」


流聖

「腕相撲は入っていません。では、間を取って『アミダくじ』で決めましょう。」


冷斗

「了解した。これで公平だ。」



    — アミダくじの結果 —


冷斗

「だよなぁ~、私はクジ運が無いのを今思い出したよ。いつもこうだ~。」

「では。・・・行ってくるよ。」


力・流

「行ってらっしゃーい。後でどうだったのか聞かせて下さいねー。」


冷斗

「ハァー。」

「失礼しまーす。ベビーストーンを入石してもらいに来たのですが、ここでよろしいでしょうか? 祈祷師様おりますかー?」


 冷斗は一人祈祷師の部屋に恐る恐る入って行った。部屋の様子はいかにもという感じで、壁の色はオレンジが基調であり薄暗い。あちこちに魔道具の様な物が置いてあり床には真紅のジュータンが引かれている。いくつものタペストリーの様な物を掻き分けながらゆっくりと進んで行くと急に広い場所に出た。そこには、鬱蒼と木が生い茂り部屋の中であるのか、林の中であるのか見間違えるくらいだ。部屋の中を見渡していると、何かが動いた。そこには、木に擬態している? 二人の老婆がいたのだ。


祈祷師

「誰じゃお前さんは? 何しにここへ来た。関係者以外は立入禁止じゃぞ!」


冷斗

「ヒィッ、すいません。ここへ来たのはベビーストーンを入石してもらう為に来たのですが、こちらでは無かったですか?」


祈祷師

「フンッ。お前さん一人か? ワシは3人と聞いとるが、残りの2人はどうした?」


冷斗

「あっ、残りの2名は部屋の外で待機しています。順番で私が一番先になりまして・・・。終わりましたら呼んできますが・・・。」


祈祷師

「誰が一人づつと言った。誰が順番を決めろと言った。誰が外で待機しろと言ったのだ。ワシは何も言っとらんぞ。」

「貴様、ワシをなめておるのか? ワシを馬鹿にしておるのか? 今直ぐしばいたろかぁー!」


冷斗

「ヒィィィィィィィィィィィー-----・・・お助けをー--!」

「決してなめたり、馬鹿にしてなどと思っておりません。私はアミダくじで負けてしまい、一番先にあなた様の所に来ただけの、ザコでございますー。」


祈祷師

「全員中に入れー!」


祈祷師はマイクを使い扉の外で待機している2名にも中へ入る様に指示した。


祈祷師

「貴様ら横一列に並べ!並んだらミゾオチの上まで上着を捲り、そのまま立っておれ。」


 すると、もう一人の老婆が不気味な棚から何やら植物の種の様な物を取り出している。それはどれも同じ様だが、3つの皿の中に一粒づつ入れた。それを持ち3人の前まで行き口を開いた。


老婆

「これから祈祷師様が祈祷術を使いあなた方の腹部に『ベビーストーン』を収める儀式を行います。痛みはございません。目を閉じ無心になっていれば終了しますのでご安心ください。」

「では、ストーンの確認をいたします。」

「竜宮様、パパラチアのベビーストーンでよろしいですかな。」


冷斗

「はい、Pクラスのパパラチアで間違いありません。」


老婆

「岩山様、ルビーのベビーストーンでよろしいかな。」


力人

「だったよな。Rクラスだからルビーで間違いないっす。」


老婆

「岩清水様、クリスタルのベビーストーンで良かったかの。」


流聖

「はい、Cクラスのクリスタルで間違いございません。」


老婆

「それでは、祈祷師様3名全員の準備が整いました。入石の方を宜しくお願いします。」


祈祷師

「うむ。ここからは、ワシの素晴らしい祈祷術によりお前等3名の腹の中に、それぞれのベビーストーンを収める「入石の儀式」を行う。頭の中でワシに感謝しながら、目を閉じておれば直ぐに終わるで、深く深く祈る事じゃ。」

「では参るぞよ。」


冷・力・流:心の中

(自画自賛し過ぎだよな。こっちは不安でいっぱいなのに、感謝しながらなんて無理無理。早く終わらないかなぁ~、婆さんボケて無きゃ良いけど・・・。)


祈祷師

「カァァァァァァァァァァァァ・・・ッ! ビシッ ビシッ ビシッ。」

「心が邪念で満ちておる。目をつぶり心を静めーい。」


冷・力・流

「はっ、ハイー---!」


 そして、祈祷師は持っていた杖を「ブルンブルン」と振り回しながらブツブツと何かを唱え始めた。すると、見た目は植物の種にしか見えないストーンが薄っすらと光出したのだ。その石を老婆が手に取り彼らの「みぞおち」に軽く押し当てると、腹の中に吸い込まれるように消えて行った。その間わずか1~2分程度事だった。


祈祷師

「良し、もう目を開けても良いぞ。どうじゃ? 痛みは無かろう。これで仕舞いじゃ。・・・じゃが、お主らに言っておかなければならん事がある。そこに座りんしゃい。」


 祈祷師は、3人をテーブルのある椅子に座らせ話をし始めた。冷斗、力人、流聖もが怪しい祈祷師の自画自賛をする婆様の話など聞きたくも無いと思っていたが、皆しょうがないと思いながら話を聞いていると・・・。」


祈祷師

「良く聞いておれ。お前らがここへ入って来る時に勝手に『順番を決め・単独で部屋の中に入り・終わったら呼びに行く』というシナリオを3人で簡単に決めおったな。」


冷斗

「はい。一人づつ行うものだとばかり思っていました。」


祈祷師

「もしここが戦いの場であり、先程の様な安易な作戦と行動をとっていたとすれば、お主らは奴らの思う壺となり3人共間違いなく死んでいたぞ。」

「先ずアミダで順番を決め、単独で部屋に入り、見知らぬ祈祷師に入石してもらい終わったら呼びに行く。おそまつ過ぎて言葉が出ん。」


「順番を決めるのは構わんが、単独で偵察に行った者が帰って来なかった場合どうする。もう一人が探しに行くのか? 探しに行った仲間が帰って来る保証は何処にある? 帰って来なければ、次に襲われるのは残っている者じゃ。チーム全滅じゃ。」


「この場所に来る前にお主らは、こう考えていたのではないか?」

「魔法使いの様な姿。祈祷師=老人。背が低い。意地が悪そう。人の話を聞かない。自分勝手。お茶が好き・・・ とな。」


冷斗

「何故分かるのですか? 大体おっしゃる通りです。」


力人

「もう一つ付け足して良いか? おしゃべり好きだ。ハハハ」


流聖

「正直に言いますけど、ほぼそうです。何で分かるのですか?」


祈祷師

「実際はどうじゃ? 会ってみてどう感じたんじゃ。」


力人

「うーん。半分くらいは当たっていると思うけど、どうだかなぁ。」


 すると、祈祷師はニッコリと笑い3人の顔を見渡した。もう一人の老婆もガッツポーズを取りながら、笑っていた。

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