第20話 風加の過去

【風加の生まれ故郷は海沿いの小さな町であり、そこはいつも潮風が吹いている風の町である。その為、風を利用した遊びやオモチャで毎日楽しんでいた。普通の人は風が吹くと少し厄介なイメージを持つと思うが、風加は風を体で感じながら楽しそうにしていた。そして、仕事も風に関する職種を選び毎日充実した日々を送っていたのだ。しかし、あの日の出来事で全て奪われてしまったのだ。


 その出来事とは、得体の知れない生命体が原因であった。

風加の両親が隣町のデパートへ風加の二十二歳の誕生日プレゼントを買いに出掛けていた時に、謎の生命体に襲われ命を奪われたのだ。

 両親は風加の大好きな「風」シリーズの「風ピアス」を購入していた。それは綺麗にラッピングがしてあり、家にはケーキも用意してあった。後はこのプレゼントをケーキの横に添えて、風加の帰りを待つだけだった様だ。


 風加は絶望の淵に立たされ、毎日毎日泣いているだけだった。しかし、ある日突然泣く事を止めた。それは「両親の恨みを晴らす」という思いからであろうか。だが、風加の考えはそれだけでは無かった。心の根底から現れた思いは「もう誰にも自分と同じ思いをさせたくない。」という強い意思であったのだ。

 そして、ある事を切っ掛けに悲しみのどん底から這い上がり、ここまで来たということだ。】


古化

「一緒にいて感じます、その気持ちの強さは鋼だ。ハリガネでは無いぞ。」

「この話は風加の友人から聞いた話しですがね。」

「風加の妹さんもS・F・Cにいますよ。」



すると、風加の左手からは「温風」が、右手からは「冷気」が大量に作られた。目には見えないが風加の服や髪の毛の動きでその膨大な量が確認出来る。

そして、力強く両手を合わせた。


風加

「混ざって包み込め! 暴風城壁!」


 その瞬間、爆発的な勢いで上昇気流が発生し風加の全身が「暴風」に包まれたのだ。それは正に「竜巻の壁」の様であった。

それを見た怪物は風加に向け「毒ボール」を複数投げ付けたが、暴風はそれをかき消した。風加は少し笑みを浮かべながら怪物に近づいて行く。全身を包んでいる暴風は凄まじい音と共に下から上へと巻き上がり、その中にいる風加は怪物から見ると歪んで見えるのだろう。恐ろしく見えているはずである。

 風化は両腕をクロスさせ怪物を狙う。怪物は風加の凄みに圧倒され、少し後ずさりをした。そしてクロスした腕を振り下ろして攻撃をしたのだ。


「クロス・ストーム」


 すると、暴風は勢いよく発射され左右絡み合いながら怪物へと矢の如く飛び出して行った。風加の武器は「風」。普通なら目には見えないものである。怪物もどうする事も出来ないまま「クロス・ストーム」を食らうと、一瞬にして体を引き裂かれ絶命したのだ。それはまるで、刃物にでも刻まれたかの様であった。


 怪物の死を確認した風加は「部位スリープ」を解きその場にしゃがみこんだ。右足は完全に麻痺していて動かす事は出来ない。全身にも多少の痺れが出ている。

そして、戦いを見ていた古化と二名は風加の元へ走って行った。


古化

「風加大丈夫か? 今、緩和剤を飲ませてやる。」

「お前良くやったな。私の知らない内にこんなにも風を操れる様になっているとは驚きましたよ。あれだけの風を操るには相当量の集中力と精神力が必要だ。その二つを同じ割合で両立させて初めて、あの様な大技が出来るという事だ。」

「連れて来た二人にも良い物を見せる事が出来て、一石二鳥でしたよ。」


風加

「あのー、早く緩和剤をお願いします。部位スリープを解いてるので毒が・・・。」


古化

「おっとすまん、すまん。つい興奮してしまいしゃべってしまった。」

「これを飲みなさい。」


風加

「ん? ううう。これラムネじゃないですか? メッチャ甘いですけど。」


古化

「あら、ゴメン、ゴメン。これ孫に買ったラムネでした。」


風加

「もー、しっかりして下さい。全身痺れているのですからー。」


二人のやり取りを見ていた雷次と宙治は「このおっさん、マジで信用して良いのか」と顔を見合わせた。

 この怪物の襲撃はS・F・Cの活躍により解決されたと報道され、町も元通りの活気を取り戻していた。

 毒により怪我をしていた人達も救護班の適切な処置により大事には至らず死者を出すことも無かった。

 戦いの後は、風加の麻痺の処置の為、病院に向かった。といってもS・F・Cの中にある病院なのであるが。


(五十嵐 風加 二十五歳。趣味・ドライブ、スカイダイビング)

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