第19話 S・F・Cの女性メンバー
しばらくして、古化が二人の元へやって来た。
古化
「おはよう。二人共準備は良さそうだな。では、職場に向かうとしよう。」
二人はロビーのソファーから立ち上がり、大きく深呼吸をして「おはようございます。」と言うと、頭を深く下げた。
古化に連れられ二人はドームの外へ出た。正面エントランスの前には一台の車が用意されていて、中から一人の女性が出て来た。
古化
「雷次君、宇野君、紹介しよう。我がS・F・Cの一員である『五十嵐 風加(いがらし ふうか)』君だ。今日は運転手をしてもらっている、宜しく頼むよ。君らよりも少しだけ先輩だ。」
風加
「五十嵐 風加です。宜しく。」
雷・宙
「こちらこそ宜しくお願いします。」
宙治
「雷次、早くも女子登場だな。先が楽しみだぜ。」
風加の身長は160㎝位で細身、髪は肩位までの長さで薄いブラウン色をしていて、色白でソバカスのある美少女という感じの女性だ。芯はしっかりとしていて、曲がった事は嫌いである。車やバイクといった乗り物が好きで、たまに古化の運転手などもしている。S・F・Cに入ってそんなに日は経っていない。
風加
「ボス、先程連絡があり調査指令が入ったのですが、ここから近い町で数名の人が次々に意識不明になっているという連絡が入りました。原因を追究し報告してくれととの事です。」
「原因が何なのか不明な為、注意を払い調査してくれと・・・。」
古化
「うむ、ではこのまま現地へ向かいましょう。二人も車に乗ってくれ。」
「後部座席も必ずシートベルトはする様にお願いします。それと、これを持っていなさい。」
後部座席に座った二人は、古化からポリ容器を渡された。
風加
「では、出発します。」
キュルルルルルル。 ブオオオオオオオーン。
けたたましい爆音と共にエンジンが始動し、ジェットコースター並みの加速で車は走り出した。この時代の車としては相反しているデザインであり、ガソリンエンジンにターボチャージャーとスーパーチャージャーを搭載している排気量4000ccの旧車である。
— 数十分後 —
風加
「ボス、到着しました。ここが調査依頼のあった場所になります。どうしますか?」
古化
「周りを慎重に調べ逐一報告をしてくれ。特に倒れている人の症状を詳しく調べて何が原因なのか突き止める事が先決だ。君が持っている携帯型『メディカルサーチャー』で特定してください。」
風加
「了解しました。任せて下さい。」
古化
「雷次君と宇野君はここで待っていなさい。まぁーその状態ではしばらく動けないと思いますが。」
二人は渡されたポリ容器の意味が到着後に分かった。風加の運転があまりにも凄まじい為に、車に酔い嘔吐が止まらないのだった。
宙治
「あの女子の運転、マグロ漁船の荒波バージョンよりも激しいぞ。おぇ~・・・。」
雷次
「いや、俺達が宇宙に出る前に訓練で使った『嘔吐彗星』に匹敵するくらいの、エグイ運転だぞ。おぇ~・・・。」
宙治
「だな。おぇ~・・・・・・・・・。」
風加が調査をしている場所には人気は無い。皆何処かへ逃げて行ったのだろう。しばらく辺りを歩いていると、数名の倒れている人を発見した。風加は急いでメディカルサーチャーを身体に繋ぎスキャンをして原因の特定を始めた。
数秒で結果が判明しモニターに詳しい内容が表示された。
風加
「ボス、倒れている人のスキャン結果から『毒』による症状です。毒の成分は殆どがフグが保有している毒と同じ『テトロドトキシン』という表示が出ています。この毒は筋肉と神経に作用して全身に麻痺を起こす毒の様です。青酸カリの500~1000倍の毒性を示す猛毒と記されています。救護班に連絡して、解毒薬の投与を要請します。」
古化
「そうしたい所だが、その『テトロドトキシン』の解毒薬は無い様だ。人工呼吸器などの対処法で患者の回復を待つしか無いだろう。救護班は既に呼んだ、風加は患者の数と患者の位置の特定を頼みます。」
風加
「了解しました。」
風化は所持している『生命探知機』で倒れている人の場所へ行き『ポイントフラッシャー』を打ち込み、位置の特定を開始させた。
すると、生命探知機が動くものを探知し点滅しながら位置を表示している。
風加は犬や猫、鳥といった小動物かと思い表示のある方に目をやると、見た事の無いグロテスクな生き物がゆっくりと歩いているのが目に入って来た。
風加
「ボス、何か不気味な生き物が歩いています。人の様な形をしていますが人では無い様です。」
古化
「風加気を付けろ、毒を使った張本人かもしれないぞ。慎重にな。」
風加
「ボス、任せて下さい。正体を暴きます。」
風加はその不気味な生き物に近づいて声を掛けた。
「おい、貴様。そこで何をしている。両手を頭に乗せ後ろを向け!」
すると、生き物はゆっくりこちらを向きながら口をモゴモゴさせたかと思うと、いきなり何かを吐き出した。風加はそれを咄嗟に交わした。見た所、倒れていた人達にも同じ様な物が付着しており、間違いなく奴が毒の張本人であると悟った。
風加
「ボス、こいつに間違えありません。私に向かって毒を吐いて来ました。毒というよりツバよ。レディーに向かってツバを吐くなんて最低ー。許せないわ。」
古化
「一人で無理な場合無茶をするな。応援が来るまで待っていろ。無理は禁物だぞ。」
風加
「任せて下さい。私一人でもやれます。最低な奴には、最高のお仕置きをくらわせてやりますから。」
古化
「だよな。そう言うと思いました。では、任せるのでダメな場合は逃げて来なさい。」
その生き物(怪物)は、どす黒い紫色をしていていかにも毒を出しそうな見た目である。しかし、人では無いものの人の様な部分も見られ奇妙で見た事の無い生き物だ。毒を吐いた後は風加をじっと見ながら動く様子も無い。
しかし、しばらくすると背中から複数の触手が出ていきなり風加に向かって伸びて来た。複数の触手の殆どを交わしたが、右足が一つの触手に捕まった。すると、直ぐに触手から毒が風加の体に注入され始めた。
「うぐ・・・」
右足に激痛が走った。触手をすぐさま払いのけ距離を取った。しかし、毒の影響で右足がしびれ、麻痺をして来た。これでは体中に毒が回ってしまうと思い、呼吸を整えながら右足に意識を集中させた。
風加は意識を集中させる事で、体の部位に働き掛け一時的に一部を睡眠状態に出来る『部位スリープ』という体技を身に着けている。
右足の膝から下を部位スリープ状態にして、一時的に血液の流れを極限まで遅くする事で毒の進行を抑えている。また、スリープしている部位のエネルギーを他の弱った部分に補填する事も出来るのだ。
すると、怪物は風加の周りをグルグルと回り出した。そして、急に止まったかと思うと、尻を向け風加に向かって「毒ガス」を噴射したのだ。
怪物
「クラエ、ブブブブブファー・・・プピッ」
「キャーッ。」
右足の自由が利かなくなっている為に、俊敏な動きが出来ずに毒のオナラ「毒っぺ」を全身に浴びてしまった。毒っぺを少し吸い込んだ風加の体にも影響が出始めた。目が霞み、全身が少しづつ痺れている様な感じになり意識も薄れていく。
このまま倒れたら起き上がる事が出来なくなるだろう、そう思いながら必死に呼吸を整える。毒は弱いが全身に回っている為に、部位スリープも出来ない。
古化
「風加!大丈夫か? 助太刀するぞ!」
風加
「来ないで! 私なら大丈夫。やってみせる。」
「良くもレディーに向かって毒っぺを浴びせてくれたはね。完全に頭に来たわ!たっぷりとお返しさせてもらうからね!」
そして、風加は痺れる体に気合を集中させ動かし始めた。左足を前に出し、右膝を地面に着け右手を上に、左手を下にして体制を整えた。
古化は車で待機している二人の元へ行き、風加の戦いを見る様に言った。二人は車から降りると、怪物と戦っている風加の姿があった。
古化
「雷次君も宇野君も、これから起こる事を良く見ておいてください。」
「近い内にあなた方にも起こりうる事でもありますからね。」
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