第18話 雷次からの条件
雷次
「分かりました。ご協力致します。しかし、条件があります。俺の条件を聞いては頂けないでしょうか? その条件を呑んで頂ければ、全力でご協力します。」
古化
「うむ。良いですよ、君の条件とやらを言ってみたまえ。何でも聞こうじゃないか。」
雷次
「はい。俺が入っているこの特別ドーム型タウン(コンプリート・J)の西側に半地下街があるのですが、あそこの一画には親や親戚などの頼る大人のいない孤児達が数名粗悪な環境で暮らしています。その子供達を保護し、一般的な生活と教育を提供してやって欲しいのです。」
「自分は恵まれた環境の中でしか育ったことが無いから分かりませんでしたが、世の中にはその日をやっとの思いで生きている子供達がいる事を、あの数日で垣間見ました。そこにいる子供達に、希望を持って生きて行く切っ掛けを与えてやって欲しいのです。」
「半地下にいる子供達は俺を見て怖がったりするどころか、普通に受け入れてくれたのです。そして、自分の事さえままならない年齢であるのにも拘らず、俺に食べ物や飲み物をくれたり、親切にしてくれるのです。」
「あの子達に普通で良い、生きて行く為の教育と環境を提供して自分達も『夢を叶える事が出来る。』という希望を与えてやって欲しいのです。」
宙治
「雷次、お前らしいな。お前は昔からいつも電気の事か、困っている人の事を考えていたよな。」
「流石、Mrジャスティスバカだ。」
雷次
「おい、それを言うなって。」
古化
「その話は本当なのか? このドームは外部からの出入りが出来ないと聞かされていたし、まして子供は入れない事になっているので、ビックリしているところだ。」
雷次
「半地下の存在は上の人達には知られていない様です。今は薄暗い物置場として人の行き来もありませんから。」
「あそこには、勉強も出来ず愛情も知らずに生き抜いている子供達がいます。そして、食べる物はありますが栄養のバランスなど関係の無い物をただ、口に入れているだけです。それなのに、大人の俺に優しくしてくれた。あの小さな命達に、俺は救われたのです。お願いします。 本当にお願いします。」
古化
「うむ。そういう事なら全力で子供達の未来をサポートしよう。」
「私にもまだ小さな孫がいるが、子供は宝だ。その宝に小さいも大きいも無い。高いも安いも無い。全て平等な地球の宝物だからな。」
雷次
「ありがとうございます。」
古化
「任せておきたまえ。必ずやそこで生活をしている子供達を保護し、普通の生活が出来る様に導こうじゃないか。」
雷次
「その半地下にはリーダーである一番年上の『空』という少年がいます。かなり用心深く大人には中々心を開かないと思います。俺自身の事も信用しているのかどうか? その少年に半地下の事はしゃべらないと約束をして来ましたが、保護して普通の生活を条件に話をすれば、分からない奴では無いと思います。」
「俺の名前を出しても構いません。その少年と話をして説得してください。お願いします。」
古化
「うむ、了解した。君が思っている以上の好条件で彼らを保護しようじゃないか。」
雷次
「ありがとうございます。」
古化
「では、三日後に迎えに来るので、それまでは自由にしていても構いません。」
「今までの職場や住まい身の回りの事は全てこちらで整理しておこう。もちろんちゃんとした手続きでね。君には新しい仕事と、新しい環境が提供される。先ずはそれらに慣れてもらう必要がありますから。」
「それと言っておきますが、一度始めたからには途中下車は無いものと思って下さい。もし、どうしても無理な場合は一つだけ選択肢があります。それは、記憶を消させてもらうという事です。」
「すなわち、そこでの任務や経験といった生活が長ければ長い程、多くの記憶が消去されるという事になります。」
「はっきりとは言いたくないのですが、人生の一部が消されるという事になります。」
「人は多くの記憶を消されると心の何処かに大きな空間が生まれ、その空間を埋めようと今の自分が迷い込み抜け道を見失う。そして、現実に戻って来れなくなる。周りから見れば『廃人』と呼ばれている症状ですね。君にはその様な人生を送ってもらいたくは無いので是非、私達と共に少しづつ歩んで行って欲しい。期待しています。」
雷次
「えええええええええー!そんな重要な事を何故先に言ってくれないのですかー!」
古化
「既に『分かりました。ご協力します。』と返事を頂いちゃってるので、今更『やっぱり止めます。』なんて事は無いですよね。しかも、この会話は全て録音されていますからNOは通用しないかもね~。エヘ。」
「では、三日後に迎えに来るので宜しく! シーユー!」
こんな感じでゆるゆるに締め、オチャラケた感じで『古化 学』は部屋から出て行った。
宙治
「雷次、あのオヤジ本当に大丈夫かな? 信頼しても平気なのか? いきなり変なテンションになって、このオッサンヤバッと思ったぞ。」
雷次
「そんな事言ったってもうどうする事も出来ないじゃないか。あの人を信じてやるしかないぞ。それに俺がここで逃げ出したら、半地下街の子供達も浮かばれなくなる。この任務は意地でもやらなければならない事だ。」
宙治
「そうだな。お前なら大丈夫だと思う。俺と違って雷次は頑張り屋だし、根性もあるからな。陰ながら応援させてもらうぜ。それに、今のお前から半地下の子供達の事を除いたら失う物も守る者も無いんだからさ、良いんでないの?」
雷次
「ひどい事言うなー。そんなお前だって失ったりする物なんて無いだろう。」
宙治
「まぁーな。このタイミングだから言うけど、あの事故以来マシンの操作が出来なくなってしまい、この間仕事を辞めたんだ。次の仕事が見つかるまで少しの間ゆっくりするつもりだよ。だから今は『金も無い、仕事も無い、彼女も無い』の無い無い無いの三拍子だ。」
雷次
「そうだったのか、何かゴメン。俺のせいで全て無くなっちまって。」
宙治
「おいおい謝るなよ。謝るのはこっちのセリフだ。全ては自分で決めた事だから雷次が気にする事は無いからな。何が自分に一番合っているのかもう一度考えてみるよ。」
プルルルル プルルルル プルルルル 突然宙治の携帯電話が鳴り出した。見知らぬ番号であったが一応出て話を聞いていると・・・。
宙治
「えええええええええー!うそーー---!」
その電話はついさっき迄一緒にいたS・F・Cの代表である 古化 学 からの電話であった。宙治が驚いていた理由はこうだ。
『雷次に話していたS・F・Cの一員として勤務するという話の一部始終を聞いていた宙治も「特別扱い」となり、強制的にS・F・Cでの任務をしなければならない事になったのだ。』
宇宙でも相棒として働いていた二人が、また新たな場所で新たな任務を行う事になるとは夢にも思わなかったであろう。
宙治の頭の中には「記憶を消されて、廃人になる」という言葉がグルグルと回っていたのだった。
— 三日後 —
雷次
「宙治、いよいよだな。」
「お前まだ落ち込んでいるのかよ。腹をくくれ、腹を。新天地で新しい事にチャレンジして、違った自分を見つけ出しスキルを高める。考え様によっては新鮮で面白そうな事だと思わないか? コスモスタッフとしてよりも『人間味』のある任務だと、古化さんも言ってたじゃないか。」
宙治
「お前は気楽で良いよな。天真爛漫っていうか、単純というかお前みたいになりたいよ。俺が右も左も分からない場所が苦手なの知っているだろう。不安に押し潰されてしまうよ俺なんか。借りて来た猫状態だ・・・。」
雷次
「何言ってるんだよ、お前の取得は地獄の底から溢れ出す明るさじゃないか。」
宙治
「それを言うなら『心の底から』じゃないか? そんな事はどうでも良いけど気が乗らないよ。今すぐにでも何処かへ行ってしまいたい気分だよ。」
雷次
「でも聞いた話だと、これから行く場所はまんざらでも無いらしいぞ。何でもそこで働く多くのスタッフは若い女性が占めてると聞いている。」
「その施設には全国から人材が派遣されその多くは女性が占めているらしい。何でも、施設内はクリーンな状態を保つ為、きめ細やかなサービスと行き届いた清潔感が必要になる。それには、男性よりも女性の方が向いているらしいんだ。だから女性が多いという事だ。」
「しかも、昼食や休憩時間も男女別々では無く一緒に食べたり休んだりしているとの事だ。俺はこの任務に気合を入れて望むつもりだ。」
「どうだ宙治。この話を聞いてもヤル気が起こらないか?」
宙治
「雷次君、誰がヤル気が無いって? 俺は最初からこのS・F・Cでの任務が自分に合っているのではないのかと感じていたよ。雷次に話が来た時はうらやましかった位だ。そして、古化さんから連絡が来た時はマジでうれしかった。しかも、ちょうど仕事も辞めて次を探していたし、地球で地に足を付けて仕事をしてみたいと思っていた矢先の話だったから、人生の『ターニングポイント』ってやつが俺にも来たんだなって考えていた所だったんだ。」
「あれ?悩んでいる様に見えた? ゴメン、ゴメン・・・。早く古化さん迎えに来ないかなぁー。」
雷次は開いた口がしばらく塞がらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます