第14話 初めての戦い

「キャー!」

 突然公園の中央付近で悲鳴が聞こえた。悲鳴のする方を見ると家族が遊んでいたボールが突然燃え出したのだ。そして、次は飛んでいたフリスビーが燃え、バトミントンの羽も燃え出した。公園で遊んでいる人達は皆不安そうな表情で怯えていた。

すると、彼の目に何かが見えた。


 それは、火事が多発していた村の子供が言っていたという「モヤモヤ」であった。

雷次はその話を数人から聞いていて頭の片隅に残っており、それが今目の前のモヤモヤを見て、鮮明に頭の中に映し出されていた。


 そして、そのモヤモヤが一人の子供の方へと向かって行くのが見えた。その事に家族は全く気付いて無く、当然子供も気付いていない。

雷次は子供が危ないと思い助けに走った。

 持っていた水のペットボトルをモヤモヤに向かって投げつけた。「コノヤロー!」

ペットボトルは当たったが一瞬で溶けて中の水がモヤモヤに掛かった。水は一気に水蒸気となった。と同時に水蒸気が生き物の形を浮かび上がらせたのだ。


 その姿を見ていた公園にいる人達は驚き動けないでいた。雷次もまた、初めて見る姿にビビッていた。すると水蒸気は雷次の方へと向きを変え目の前まで来た。


その瞬間、雷次は吹き飛ばされた。


「のあぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」


経験した事の無い激痛が顔を覆った。

「うぐぐぐ・・・、頬骨が折れた。何が起きた。」


 それを見ていた公園にいた人達は皆逃げ出した。

そして、モヤモヤは雷次の所まで行くと、今度はボディーに一撃入れて来た。たまらず、雷次は地面に崩れてしまった。


「ぐはははははは・・・。」「ヤバイ、あばらも折れやがったぞ。」


次に、背中を蹴られ二十メートルくらい吹き飛ばされた。


「うどはぁー・・・。」「せ、背骨まで折れたぞ・・・しっ死ぬ。殺される。」

「何なんだこれは。俺はこんな所で死ぬのか? 事故に合ったが地球に戻され、せっかく生死の淵から生還したというのに、これじゃ一緒じゃねーか!」と思い死が頭をよぎった。


 全身に激痛が走り出血もかなりある。そろそろ潮時か。だが、既に顔やあばらの痛みは消え背骨の痛みまで消え掛かっていたのだ。


「これなら動けるぞ。」


と思った雷次は直ぐに立ち上がり、次の攻撃に備えた。

 すると、モヤモヤの攻撃が顔面に来るのが見えた。それと同時に腕でガードをした。

攻撃されているだけだはダメだと思いパンチを繰り出すが空振りに終わった。


 モヤモヤの攻撃がまた雷次の腕にヒットしたが、力を逃しながら受けたのでほぼダメージは無い。そして、モヤモヤから距離を取りドーム内でスタッフに見せた電気の塊の事を思い出した。

 雷次の体は反応していて、気が付くと電気の塊を両手に作っていた。


「良し、イメージ通りだ。」「電気の塊は手の中でバリバリと音を立てている。」


 呼吸を整え、近づいて来るモヤモヤの顔面に照準を合わせた。


「トレーニングメニューで練習した通りにやれば必ず当たる。命中率には自信があるんだ。」


そして、一気に電気を放出させた。


「うおりゃー!」  「ビリビリビリ・・・・・。」


電気の塊は雷次の腕から勢い良く飛び出し、モヤモヤの顔辺りにクリンヒットした。


「ギャー!」


今度は、モヤモヤが吹き飛んだ。


 すると、吹き飛ばされたモヤモヤはうつ伏せに倒れて動かない。しばらくすると、ゆっくり立ち上がりこちらを見ている。雷次の攻撃にビビリ逃げる準備をしているのかと思ったが・・・。


モヤモヤは、モヤモヤでなくなった。


 表現的にはモヤモヤから「メラメラ」に変ったのだ。

メラメラに変わった姿はモヤモヤとは違い、完全に見える状態である。その姿はおぞましく醜い姿をしていた。この世の者では無い姿をしているメラメラを見て雷次はチビリそうになったが、どう対処したら良いのか必死で考えた。



「いや待てよ。その前に俺の体はどうなっているんだ? 顔の骨が折れ、あばら骨も折れ、背骨も折れたはずなのに、痛みとは別に体がみるみる治癒してゆく。」

「それに、手から出る電気の塊。俺の体ヤバくない?」

「いやいやいや、今はそんな事どうでも良いわ。このメラメラをどうするのか考えなくては。」


 そんな事を考えていると、メラメラが直ぐ目の前まで来ていて、雷次の両腕を掴んだ。「油断した。」

 彼の両腕に、再度経験した事の無い熱さが伝わって来て気が遠くなりそうになった。高温で熱っせられた鉄板を押し付けられている様だった。

そして、メラメラの口から火の塊が雷次の顔を目掛けて発射された。


「ヤベー!」


間一髪で火の塊を回避した。火の塊は後ろの木に当たり、木は瞬時にして灰となった。


「危なかった。あれを真面に食らっていたら死んでいたぞ・・・。」


両足でメラメラを蹴飛ばして距離を取った。そして、雷次は単純な発想を思いついた。

「あいつは火だよな。火を消すには・・・水だよな。良し水を掛けよう。」と。


 雷次は後ずさりしながら公園には必ずといって良いほど設置されている「水飲み場」がある所まで下がりながら誘導した。そして、メラメラを十分に引き寄せてから、蛇口を全開にひねり、手をかざして水をぶっ掛けた。


「くらえー。火の用心じゃー!」


水はメラメラに直撃し炎が弱体化していった。


「良し、このままたっぷり水を掛けて消してしまえば終了だー。」と水を掛けまくった。すると、メラメラの動きが止まり何やらブツブツと言い出した。


「何だもう終わりなのか。凄えー気持ち悪いけど弱っちい奴だなー。ガハハハハ。」

すると、突然メラメラが叫んだ。


怪物

「アタマニキタ。イカリMAX!」


と言ってメラメラの勢いが更に激しくなった。


雷次

「えっ嘘だろう。こんなの聞いてないよ。普通火に水を掛ければ消えるだろう? どして?」

「しかも、あいつ言葉しゃべったぞ。何だ何だ何だぁ~?」


  雷次の頭の中は矛盾と無理解でいっぱいになりパニックになりアタフタしていると怪物の手が燃えながら伸び、まるで「ムチ」の様に動き出し雷次の全身を容赦無く打ち始めた。


「バチバチバチバチ・・・。」


 激痛と激熱が全身に襲い掛かり、意識がどんどん削られて行く感じだ。


「マズイ、意識が落ちる・・・。」


 と、その時ムチが雷次の体に巻き付いた。灼熱のムチが巻き付き熱さでもがいていると、そのまま上に上げられ、そして地面に複数回叩きつけられた。


「グハッ・・・・。」「グハッ・・・・。」「グハッ・・・・。」


 火傷と全身打撲で雷次はしばらく動け無くなっていた。重度の火傷や重篤な損傷を受けた場合、傷の回復には多少の時間が掛かる様だ。


 怪物は休む事無く攻撃を加えて来る。殺すつもりの攻撃だ。今までムチの様になっていた手が今度は、固く長い「槍」に変化した。そして、串刺し地獄が始まったのだ。

雷次は、地面に倒れながら槍の連打を交わしているがその連打は徐々に早くなり、交わすのにも限界がある。


「ヤバイ、交わしきれねー!」


 その瞬間、槍が雷次の太ももに突き刺さった。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ・・・」


 雷次の悲鳴が周りに響いた。しかし、誰かが助けに来る事は無い。

悲鳴を聞いた怪物は笑みを浮かべ笑っているではないか。殺人を楽しんでいるのか?

更に槍の手で体中を突き刺して来たのだ。


 雷次は徐々に薄れゆく意識の中で幼い頃の記憶を思い出していた。・・・

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