第12話 子供達と抜け穴

 変電所の事件から一夜明け、この騒動は既に上の人達の耳にまで届いていた。

その内容の一部始終を聞かれた管理員は特に処罰は受けなかったが、立入禁止の柵の強化及び高さ増設と変電所に容易に近付けない様にする為の、改善案を提出する様に言われ、案が固まり次第対策工事をする事になった。


 しかし、騒動を起こした張本人の行方が依然として不明であり現在捜索中である。

いくら隠れようとしてもドーム内からは出られない構造になっているので、見つけ出すのは時間の問題であると思われた。


 雷次は見つかったら処罰は真逃れないと思い朝まで身を潜めていた。

この場所は半地下街のある場所で昼間でも薄暗く、身を隠すのには適している場所だった。そして、次なる対策を練りつつどうしようか考えていると、一人の少女が近づいて来てしゃべり掛けて来た。


少女

「お兄ちゃん、何してるの? もしかして隠れんぼしてるの? こっちに来れば見つからないよ。」

「私が良い場所教えてあげる。おいで、おいで。」


 その少女は雷次の手を取り、自分が知っているであろう隠れ場所に案内してくれた。そこの場所に行くまでにいくつもの部屋を通過して更に暗い物置場の様な場所に案内してくれた。

その場所は、正に隠れるのには申し分のない場所であり「なるほど、ここは良い。」と素直に感じた。


雷次

「ありがとう。ここなら本当に見つからないな。隠れるのには最高の場所だね。では、この場所で一番見つからない場所は何処かな? 教えてくれるかい?」


と少女に聞くと・・・。


子供達

「えーとね、ここが一番見つからないよ。私ね、いつもここに隠れてるの。」

「私もね、こっちに隠れてるの。見て、見て。」

「さやもね、あそこに隠れてるの。」

「僕もこっちだよ。すごくね、まっくらだよ。」


 と、複数の子供達があちらこちらから出て来たのだ。


雷次

「わぁぁぁぁぁぁぁ・・・。 ビックリしたー。」

「えーっと、君達はいつもここに隠れてるの?」


子供達

「違うよ、誰かが来た時に隠れるの。でも、すみちゃんが一緒だったから出てもいいと思ったの。」

「でもね、本当は空お兄ちゃんが良いって言うまでは出ちゃダメだって言ってた。」


雷次

「空、お兄ちゃん? ここの何処かに、お兄ちゃんがいるのかい?」


すると、暗闇の中から音も無く一人の少年が表れた。


「すみな。何でこの人をここへ連れて来た。大人と接触してはダメだって、あれほど言ってたじゃないか!」


すみな

「だって、このお兄ちゃん隠れんぼしてたから、見つからない所を教えてあげたの。」


少年は頭を抱えて、ため息を吐いた。

 この場所は、上の雰囲気とはまるで違う異世界の様な空間であった。しかも、このドーム内に子供はいないと聞かされていたのに「何故?」と思った。

その人数も一人や二人では無く数人の子供達がこの場所で暮らしている様にも見えたのだ。雷次の事をじーっと見ていた子供達は、怖がる様子も無く近付いて来て遊んで欲しそうにしている。いや、遊んで欲しいというより「甘えたい」のではないかと思った。


【ここは、親のいないみなしご達が暮らしている場所で大人もいなくて寂しいのだろう。大人の俺を見て怖がるよりも、遊びたい、甘えたい、抱っこしてもらいたい、話をしたり聞いてもらいたい・・・そう思っているのだろう。

ここの子供達は皆、愛情に飢えている様だ。

それに、教育が全く無さそうである。ここの子供達の将来には、夢や希望も無く普通の子供であれば思い描くであろう未来予想図も無いのであろう。】


雷次の目にはその様に映っていた。そして、少年が質問をしてきた。


「あなたはここへ、何しに来たんだ? 俺等を捕まえに来たのか?」


雷次

「いや違う。俺は変電所に侵入し・・・」   事の流れを説明した。

「だから、俺も出来るだけ捕まりたくないし戻りたくないんだ。」


「そういう事ならここに居ても良いよ。その代わり子供達の面倒を宜しく。」


と言って、少年は何処かへ行ってしまった。

 それから、数日が経ち雷次はすっかり子供達と仲良くなり、まるで保育士の様にトイレに付き添ったり、絵本を読んだり、お話をしたり、もちろん隠れんぼをして遊んだりしながら日々を過ごしていた。


 雷次は「何だこのほっこりとした時間は。子供のいる生活ってこんな感じなのかなぁ~。」と考えていた。

 しかし、その中で腑に落ちない点が頭の片隅にあった。それは、子供達や自分も口にしている飲み物や食べ物である。このドーム内には子供はいない事になっている為、子供が見つかった時点で捕まってしまうのは必然であろう。


 その為、子供が買い物を出来る様な場所も無い。でも、子供達はそれほど空腹でもなさそうであるのだ。この、矛盾が雷次にとって「腑に落ちない」点であった。


 そして、半地下街に身を潜めて五日くらい経った頃、少年を呼び止めて問いただした。すると、まさかの事実が判明したのだ。

 少年はドーム内から外に出入り出来る場所があり、そこから外に出ては外部の仲間達に食料や飲み水を調達してもらっていると言うのである。


少年は雷次に言った。


「ここから外に出たかったら金を置いて行きな。そうすれば、仲間に言って外に出してやるよ。」

「あんたは、ここに入っているエリートな人間なんだろう? 金もいっぱい持っているはずだ。」


 雷次は考えた。このままにしておいて良いのだろうか。通報して、この子供達を保護してもらった方がこの子達にとって有益なのではないか・・・と。

しかし、自分も身を潜め捕まらない様にしている立場であり余裕も無い。


雷次は少年と交渉をした。


雷次

「分かった、少し待っててくれ。金を用意して戻って来る。」


「もし、ここの場所の事を話したり、俺らの事をチクったりしたら抜け穴を爆破する。そして、ここからは出られなくなる。」


雷次は当然金など持っていないので困ってしまったが、空に向かってうなずき

「俺を信じろ。」

と言って商店街の方へ走って行った。



— しばらくして雷次は戻って来た。


 服を着替え、袋いっぱいに甘いスウィーツやお菓子、そして高価な装飾品を持って来たのだ。このドーム内の患者達はエリートや富裕層達であり、飲食や買い物は全て電子マネーで管理され提供されている。従って、キャッシュレスで好きなだけ色々な物を購入出来るのだ。雷次はドームの外で電子マネーに変えられる高価な物を少年に渡し、それを売る様に交渉した。


 少年は少し考えて「行きなよ。」と言ってドームの外へと繋がる抜け穴の場所まで案内された。そして手製の階段を昇ろうと手を掛けると・・・


子供達

「お兄ちゃん何処行くの? いつ帰って来るの?」

「今日はこの本読んでね。」

「今日はお兄ちゃんが、怪獣だからね。」・・・・と言って来る。


 雷次は自然と目頭に込み上げて来るものの感覚を久しぶりに感じていた。しかし、いつまでもこの場所に居られないと感情を「グッ」と抑え込み、笑顔で首を縦に振りながら上へ行こうとした。すると「すみな」が話して来た。


すみな

「お兄ちゃん、優しくしてくれてありがとね。いっぱい、いっぱいお話しをしてくれたり、遊んでくれてありがとね。」

「また、来てね。みんな待ってるからね。」


と言ってくれた。

すみなの目には涙が溢れんばかりに溜まっていて、今にもこぼれ落ちそうであった。

雷次は子供達全員を抱きしめてあげたかったが、気持ちを押し殺して笑顔で上へと昇って行った。


 「少年空とすみな」は兄妹であるのだと思った。


 地球の最下層で必死に生きている人間(子供達)の生活を垣間見た雷次は、自分が育って来た環境とのギャップに心が張り裂けんばかりの思いであった。

 そして、無事ドームの外に出た雷次は少し歩いていたが、押し殺していた感情と淋しさに耐えきれず「爆発」して涙腺が大崩壊し、涙と鼻水で顔面がグチャグチャになってしまったのだ。


それを、見ている通りすがりの人達は皆「ドン引き」しているのであった。

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