第11話 足りない電気
日々のトレーニングメニューを全て行い物足りなさを感じていた雷次は、夜になるのを待って部屋を勝手に抜け出した。
そして、ドーム内の電力を担っている「変電所」へと向かった。変電所に特別な何かを感じていた雷次は、引き寄せられる様に変電所に向かっていた。それはまるで、樹液の香りに誘われる昆虫の様であり、気が付いたらその場所にいたのだ。
変電所の前にいる彼の頭の中には「チャイコフスキーの名曲 ピアノ協奏曲第一番第一楽章」が流れていて、全身で踊り出しそうなほど高鳴っていた。細胞レベルで大量の電気を求めているのだ。
雷次は「立ち入り禁止」の柵を乗り越え中に入った。そして、機器に近づき「高電圧 危険」と書いてある上の方まで昇り出したのだ。
その行動を目にした巡回中の管理員が大声で注意をした。
管理員1
「おい、そんな所で何をしてるんだ。今すぐ降りて来い、感電したら死んでしまうぞ。」
しかし、頭の中にチャイコフスキーが流れている雷次には外野の声など聞こえないのだ。管理員の声には見向きもせず、最上段まで昇り積めた。
管理員は何も出来ずにいたが、無線で応援要請をした。
管理員1
「こちら変電巡回。今、不審な男性一名が変電所内に入って最上段に上り今にも感電してしまいそうな状況だ。少しだけ変電システムの停止は出来ないのか?」
管理2
「アホか! 出来る分け無いだろう。システムを停止すればこのドーム内一体の電気が全て切れてしまうんだぞ。そんな事になったら復旧させるのに時間が掛かっちまう。残業だぞ、残業。冗談じゃないぞ。」
「俺らの仕事はそういう事にならない様にする為、毎日欠かさず巡回をしているのだから。」
管理員1
「しかし、このままではあの男性の命が・・・。」
管理員2
「お前!ベルトの所にショックガンを持っているだろう。それを使え。」
管理員1
「あっそういえば・・・。あったぞ。普段使わないから忘れていたぞ。」
管理員はショックガンを取り出し雷次に標準を合わせた。
管理員1
「おいお前!今直ぐ降りて来ないと、発砲するぞ。」
管理員の言葉など全く聞いていない雷次は、高電圧の場所まで移動しようとしていた。このままではマズイと思った管理員は彼に向かって引き金を引いた。
「バシューン」
ショックガンはその名の通り、命中すると電流が流れ体の動きを封じ込める効果がある。その威力は人間なら1週間は普段の生活が出来なくなるほどである。
針は命中し、強力な電流が雷次の体に流れ込んだ。
「うおおおおおおおおお・・・。」
雷次は気絶するかと思いきやうなり声を上げて、管理員に向かい
「おかわりだー。おかわりを寄こせ。もっと打ってこい。」
と叫んだ。
管理員はビックリして腰を抜かし、地面に座り込んだ。とその時、雷次の手が高電圧受電部分に接触した。
すると、雷次の体に6000Vの電圧が容赦なく流れ込み、青白く光るド派手なスパークを起こした。
「バヒューン」
そのスパークは一瞬だが昼間の様に光った。そして、そのスパークによりシステムが停止してしまったのだ。しかし、20~30秒ほどでシステムは自動復旧し何とか大事には至らずに済んだ。
管理員は彼の姿を探した。すると、黒焦げの物体が地面に倒れている。管理委員は吐きそうになり、泣きながら応援を求めた。
管理員1
「死んでしまったー。丸焦げだー。体から煙が出ている・・・。」
「だから言ったんだ。こうなる事は分かっていたのに、俺は救えなかった。」
しかし、連絡をしている途中で黒焦げになり絶命しているはずの彼が動いているのを見た。
管理員1
「まっまだ生きているぞ。信じられない、奇跡だ。とてつもない電圧を浴びて生きていられるものなのか? 早く救護班を寄こしてくれ。」
その様子を見ていると、黒焦げになった物体が立ち上がりもの凄い勢いで管理員に向かって走って来た。
「うああああああー。 ゾンビー!」
管理員は失神するほどビックリして少しちびってしまった。
しかし、黒焦げになったのは彼が来ていた衣服であり彼自体は無傷の様であった。
雷次
「いやー、メチャクチャ気持ち良かったし、楽しかったー。スッキリしたっす。」
と言って、その場から何処かへ行ってしまった。
応援者が救護班と駆け付けた時には、雷次の姿は何処にも無かった。
▽いやー、凄い事が起きましたね。人間の体が6000Vの電圧に耐えられるとは思いませんでしたよ。彼の体に一体何が起こっているのでしょうか?
もう、人間では無いですね。
◆起きましたねーって、社長のあなたが知っていなくてはならない事じゃないですか? でも、この変化? 耐性? 新化? どの様にして起こるのかは未だに不明なのですよね。科学者にも分からないのに私達に分かる訳無いですけどね。
▼そうや、この仕組みが分からんのや。この仕組みを解読したら金儲けになるんとちゃうか? 今日の夜、一杯飲みながらいっちょう考えてみよかぁー。
▽◆・・・・・・・・・・・・。
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