第8話 特別な総合施設

 冒頭で宇宙事故に見舞われた作業員の名前は「光 雷次(ひかり らいじ)」というエリート宇宙技師である。年齢は二十七歳の独身で趣味は「電気関係の物をいじくる事。」という青年だ。

 身長は高くスラっとしているが、体はガッチリとしたスポーツマンタイプだ。髪の色も濃いブラウンで瞳もブラウン、目元の堀も深いので混血をイメージさせる様な良い男である。


 その患者に変化が起き始めたのは退院して間もない頃である。患者の退院先はもちろん自宅では無く国が用意した監視付きの施設である。セキュリティーやその他設備、医療器材等も全てが備わっている「特別総合ドーム型タウン(コンプリート・J)」という一つの町の様な場所である。


 ドーム内には衣食関係、本屋、スポーツジム、ギャンブル場、小さな公園までもが備わっていた。患者のストレスを出来る限り溜めない様に配慮されているのだろう。

 しかし、出入り口は無くドーム外に出る事は出来ずドームの中でしか生活が許されていないのだ。国側にとって都合の良い構造になっている。


 この施設には、彼の様なエリートや富裕層で暮らしている人しか入れない事になっている。いわゆる「リッチな人達」が大きな事故や怪我をした時に特別待遇で治療をする為の院内的なタウンなのだ。店には高価な品が並んでいて、食べ物なども質の良い物ばかりである。そして、ドーム内全ての物は現金ではなくIDによる電子マネー決済である。


 雷次の体も完全に回復していてドーム内を見学していた。そして、声のする方に目をやると喧嘩が始まっていた。例え裕福な人達の施設とはいえ、ドーム外に出られないという事で皆何処かに不満、ストレスを感じているのであろう。


雷次

「おい、二人共喧嘩なんかするな。俺達は大人だぞ。拳では何も解決出来ないぞ。ちゃんと話し合いをすれば、分かり合えるだろうに。」


 正義感の強い雷次は喧嘩を止めようと仲裁に入ったが、大柄マッチョな二人を止められ無かった。

周りには人だかりが出来、野次馬がどんどん増えて行く。皆何処かに刺激を求めているのだろう、喧嘩を煽っている様にも見えた。


 しばらくすると、二名の制服を着た男が仲裁に入った。どうやらドーム内に配備されている警察の様な組織なのであろう。


 これで、喧嘩も収まるだろうと思っていたが警らの二人が軽く倒されていた。


雷次

「もう、止めろって。良い大人がよせって。何が原因だか知らないけど、どちらかがネガティブなマイナス発想をしているのなら、もう一人はプラス発想をすれば良いだけだろ。人は、マイナスな発想とマイナスな発想だからぶつかるんだ。結局、人間は全て電気の様に生きて行けという事だと俺は思うぞ。」

(言っている事が良く解からないが。)


 正義感が発動した雷次は、もう一度喧嘩を止めようと中に入るがどうしても止まらない。

倒された事に頭に血が昇った警らの一人が青く光る警棒を腰から取り出し、ゆっくりと近づく。そして、喧嘩をしている一人の背後から殴り掛かろうとした時、暴力が好きでは無い雷次はとっさに自分の身を挺して阻止した。


「ヤメロー! そんな物振りかざすなぁー!」


 その警棒は「C・P・C(電流警棒)」強力な電流警棒である。人間なら一撃で失神してしまうほどの威力を持っている。それをまともに食らった雷次の体に高電圧電流が一気に流れ込み、一瞬にして雷次は吹き飛ばされた。


「バリバリバリバリ・・・バチン。」    「ボーン!」


 しかし、吹き飛ばされたものの、雷次は痛みも外傷も無く至って普通だ。何ならもう一度お願いしたいくらいの気持ちだった。今まで体験した事の無い「清々しい」感覚を感じていたのだ。また、体の隅々まで洗練され何でも出来てしまう様な程、力もみなぎっていた。


 清々しさを感じている雷次は至って落ち着いている。そして、もう一度喧嘩を止めるべく争いを続行している二人の中に入って行き、喧嘩を止める様に両者の腕を掴みながら言い聞かせた。


「頼むから、俺の言う事を聞いてくれ。握手をして仲直りだ・・・。えっ?」


その瞬間、二人共気絶をしてしまったのだ。まるで、高圧電流に触れた時の様に・・・。


 喧嘩騒動も雷次のお陰で終了し、野次馬達もつまらなそうに散って行った。警らの男達も雷次にお礼を言い、倒れている二人を抱えて戻って行った。

 この様子を遠くから見ていた「リセ」研究チームの一人が何かを確信し、彼の体に起きている変化を調査する様に指示を出していた。


 何も分かっていない雷次は、自分の体に起きている変化にもまだ気付いていなかったが、みなぎる力の感触は実感していた。


 雷次は考えていた。男達の喧嘩を止める際にC・P・Cで殴られる前の自分と殴られた後の自分では、体の感覚が別人の様である、と。


別の言い方で言うと、今まで押されていなかった「スイッチ」が押され、体の中にある強力なモーターが動き出した様な感覚であったのだ。

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