第5話 争い
このペット水の裏方作業は順調に裏で運営され、数か月続いて行った。そのお陰で生活貧困者達の生活にも日が差し始め、笑顔も見える様になってきていた。しかし、その程度の「金」で満足出来ない者もいる。人間とは何とも欲深く欲求に限度が無い醜い生き物であるのだろう。
ある日、イライラした「裏方」で働く奴等が巨大貯水船の周期を勝手に操作して数を増やした。もちろんその周期に管理側が気付かない訳も無く「運行管理G」が給水担当者達を問い詰めると、そこから争いが勃発した。
管理する側とルール無視する側との争いが始まり、暴動が起きたのだ。
「ふざけるなー!俺等の生活が掛かった水だー、数を増やそうが調整しようがお前等には関係ねーだろう!」
「関係無い訳が無かろーが!貯水船の運航にも人件費や燃料代といった物が多く掛かるのだ。お前等がそれを払えるのか、この貧乏人共めが。」
貧乏人と言われた事に対し頭に来た連中は余計に暴れ出した。何を言っても聞く事すらしない奴等に、とうとう管理する側が「武器」を使用したのだ。
武器を使用した事により、数日で暴動は収まったがこの争いで大勢の犠牲者が出た事に対し管理側は焦った。そして犠牲者の家族や身内に適当な金銭や見舞金を渡し「口止め」を強要した。
そして、この争いを完全に無かった事にしたかった運行管理G側は、強引にこの事件を隠そうと動き始め争いで亡くなってしまった人の隠ぺいを図り出したのだ。それは、死体を宇宙に「捨てる」という事であった。
しかも、死体のほとんどは「裏方」の仕事をしていた貧困者達のものであり、その数は数百体にも登った。
人類は宇宙空間にゴミを捨ててはいたが、もちろん人間や動植物は宇宙に捨てて良いはずは無く地球上で処理する事が決められている。しかし、事件の隠ぺいを図りたい運行管理G側は、ためらい無く死体を宇宙空間へと放ったのだ。
宇宙へ捨ててはいけない理由として人間や動植物もその多くは「水分」で出来ているからだ。
この様に貧困者達の扱いは1~10まで雑な扱いでしかない。金の無い人間、金持ちの人間、どちらも同じ人間であるのに何故、こうも扱いや世間から向けられる目には格差があるのであろう。
「世の中は金」と言うが、世の中から金が無くなったら人間としての秩序も失われ悪行と暴力が支配する、まるで世紀末の様な状況になってしまうのは確実であろう。
そうなれば、更に状況は悪化し貧富の差では無く「強者・弱者」となり、強者が弱者を奴隷の様に扱う時代の再現になってしまうと考えられる。
その事は、誰しも口に出さないが皆分かっている事である。
誰でも強者になり弱者にはなりたくない。奴隷として生きて行くのであれば死んだ方がましである。しかし、死にたくも無い。だからこそ貧困者達は口を閉じ、じっと耐えながら機会が訪れるのを待っているのである。
― 数年が経過 —
争いから数年が経ち運行管理G側の思惑通りあの日の暴動は無かった事の様に日々が過ぎて行った。そして、数百人と犠牲者を出した作業場も時が経てばいつもと変わらぬ光景が目に入ってくる。また、宇宙への「おいしい水」の裏方の運搬もいつの間にか再開しており、ここに需要と供給のバランスが成立している事もまた、自然な事なのであろう。
少し話は戻るが、こうした火星からの物質を調達して地球上で使用し、使い終わった物は宇宙ゴミとして宇宙空間に排出するという仕組みは、数十年経つと「廃棄方法」も見直され運営方法も変わっていった。
その惑星で採取した物質で作られた商品には惑星別の「シリアルナンバー」を設け「使い終わったら採取した惑星に戻しましょう。」という仕組みだ。
この仕組みは地球全体のルール(決め事)となり、世界中の何処の国に行っても合言葉の様になっていた。
それは「Return Properly The World。」(その国に確実に戻す)
「R・P・THE・WOWOWO・・・」という言葉だ。
しかし、人類はこの言葉の意味が自分達をいましめる結果になるという事を知る由もなかった。
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