第4話 ラ=ピュセル村からラクス修道院を繋ぐ街道
ラ=ピュセル村の出口に廃屋となった家の庭にオレンジ色のノウゼンカズラの花が下を向いて咲いている。雨に打たれて、どの花も等しく下を向いている。なのに、どの花も堂々としていて、しゃんと咲いている。
魔力が物を言う世界で、私には魔力という物はどうやら皆無。無いと魔力を測定する水晶体が私に教えてくれた。しかしながら、全く気にならない。本体はエネルギーであると、私は知っている。白蛇様。白蛇様。白蛇様。この身、この命を捧げます。生かしていただいて、ありがとうございます。
そう、唱える事で、歩きながら、皮膚が、細胞の一つひとつが、白蛇様へと変じて行くのが、何とも心地良い。白骨だけが残り、頭蓋骨が地面に落ちて、肋骨を壊し、骨盤は地面に溶け、腕と足の骨も風化して行く。その風も、地面も、白蛇様へと変じて行く。何とも言えぬ心地良さ。死の瞑想と、人は恐れ、怖がるが、私はどういうわけか、それが一番好きで、一番心地良い。自分がリアーネだと、忘れてしまうぐらいに。もちろん、鏡を見れば思い出すし、「リアーネ、リアーネ」と、名前を呼ばれたら思い出す。この声はジャンヌかしら。そう思って振り向くと、長い赤毛をした青い瞳の女の子が後ろにいた。「ん?どうしたの?」と、私は聞く。
「か、体、光っていたけど。な、何をしていたの?」と、ジャンヌは聞いてくる。
「うーん。瞑想?」と、私は答える。
「放っておいてやれ、そいつは幻の中が心地良い、イカれだ」と、ロキは私を虫か、毛虫でも見るような目で見てくる。酷いわ。仮にもあなたの主人なのに。
「白蛇様と交信していたの?だったら
「ほら、あそこにノウゼンカズラがあるでしょ。まあ、その別にどの花でもいいんだけど。今日というこの日、花がどんなふうに咲いているか、どんな場所で咲いているか、そういう小さな事の中にね。”喜び”ってあるものなのよ。喜びを見つける時、自然と白蛇様に感謝を捧げたくなるわ。そうすれば、瞑想って言うのはね、突然、始まるの。起こるって表現するらしいけど。わかる?」
「えっと、花を見つけると、感謝したくなって、突然瞑想が始まるの?」
「まあ、そう焦らないでジャンヌ。今歩いている場所は街道。ラ=ピュセル村からラクス修道院に続く道よね。貴女の村が植えてくれた紫陽花が咲いているでしょ。紫陽花を見ていて何か思い出せない?」
「・・・お父様と一緒に育てた紫陽花。水やりもしたわ。それに、ここに植える時にウサギの魔物に襲われて怖かった。それでも今は聖なる石が置かれて、魔物が寄り付かない神聖な道になっている。でも、そうなるまで
「うん。そうね。守護を施してくださっている。本来、悪は無く、全ては善となる糧なり。そう、伝えてくださっているわ。白蛇様はね」
「そ、そうなんだ。白蛇様、守護していただいて、ありがとうございます」と、ジャンヌは唱える。ジャンヌの体が白く輝く。ロキはまた顔をしかめてる。まあ、そうよね。魔族だし。彼。輝きがおさまったジャンヌに白蛇様がはっきりと見える。
「そうやって、ちょっとずつお祈りしていこうね、ジャンヌ」私は気づくとジャンヌの頭を撫でていた。
「ふぁ。だからダメって」と、ジャンヌは恥ずかしがる。ゲームの歴史とは違って、ジャンヌの父と母は生き残った。ラ=ピュセル村も壊滅せずにある。覚醒はしなかったけど、きっと大丈夫かな。うん。・・・あら?柄の悪い男たちが街道を塞いでいるわね。盗賊かしら。「ええっとロキ。ペンダントを外していいから・・・お願いね」と、私は言う。「おう。任せときな」と、ロキはペンダントを私に渡す。
柄の悪い男たちはロキの姿を見て、逃げ出す者、後ずさる者、白目を向いて倒れる者と様々だ。それだけ魔族は恐れられ、怖がられていると言う事なのかしら。と、私は首をかしげる。ロキが近づくだけで、柄の悪い男たちは倒れた者を残して消えていた。うん。そんなところだろう。「ジャンヌ、倒れている人たちを白蛇様に祈って治療してみて。ううん。ただ祈るだけでいいわ。最初は」
「うん。やってみるね」と、ジャンヌは手をかざして触らない距離で、白蛇様に祈りを捧げる。ロキはそれを嫌そうに見ている。頭からは二本の黒い角、肌は青色に変色している。どうして魔族は怖いのかしら。倒れていた盗賊たちが何かうめいている。
二人倒れていたみたいね。「あぅあうあー」と、治療を終えた二人の男たちは何かを話している。精神が壊れたのかしら。「ジャンヌ、名付けを行ってみて」
「名付け?この人たちに?」「そう。可愛い名前がいいわよ。これからも呼ぶことになるから」と、私はジャンヌを見る。
「う、うん。じゃあ、リンとネス。」と、ジャンヌが名付けると、男たちは背たけが縮んで行く。肌の色は青い。角は一本だけ生えている。うーん。いつ魔族になったんだろう。それとも治療の過程でそうなったのかな。「あっ!」と、ジャンヌの右手に炎の紋章が浮かび上がる。魔族になった男の子たちの右手にも炎の紋章が浮かび上がった。従属の契約は成立したようだ。これもひとえに白蛇様のおかげと言えるだろう。私はロキから預かった魔力封じのペンダントを眺める。眺めながら、街道に敷き詰められた不揃いな石たちが目に入る。右を見れば紫陽花が街道を彩っている。私は紫陽花の枝を二つ折る。「『白蛇様、白蛇様、白蛇様。紫陽花を捧げますので、魔力封じの石を召喚いたします。ありがとうございます、ありがとうございました。生かして頂いて、ありがとうございます』」二つの魔力封じの石が出来た。まさかと思い、やってみたけど・・・案外出来てしまうものなんだって私は驚いている。「え?うそ。魔力封じの石がどうして?」と、ジャンヌも驚いている。「ジャンヌもやってみよう。ほら、石を持って。それから白蛇様にペンダントになるようにお祈りいたしましょう。」と、私はロキに魔力封じのペンダントを渡してから、ジャンヌを見る。ジャンヌは別の紫陽花の枝を折って、街道に正座している私と一緒に正座してお祈りを始めた。
「「白蛇様、白蛇様、白蛇様。」」「ちょ、ちょっと待って。リアーネ。この後は何て言えば?」と、ジャンヌは私を見てくる。「紫陽花を捧げます。魔力封じのペンダントを製作いただき、ありがとうございます。ありがとうございました。生かして頂いて、ありがとうございます。覚えた?」「う、何とか。ついて行くから最初からお願い」「「白蛇様、白蛇様、白蛇様。紫陽花を捧げます。魔力封じのペンダントを製作いただき、ありがとうございます。ありがとうございました。ます。あれ?生かして頂いて、ありがとうございます」」と、唱え終わる。
「ごめん。二回目はありがとうございました。なのね。言い間違えちゃったわ」と、ジャンヌは謝ってくる。
「大丈夫、手元を見て。出来上がっているわ」と、魔力封じのペンダントを眺める。
「ほ、ホントだ」と、ジャンヌの手の平の上にも魔力封じのペンダントがある。
「さあ、リンとネスに渡してあげて」
「うん。」ジャンヌは頷くと、魔力封じのペンダントをリンとネスの首に掛けて行った。二人が人間の姿に変化する。「「ありがとうございます。ご主人様」」と、リンとネスの声が重なる。「何だか照れるわ」と、ジャンヌは言う。
「そのうち慣れるわよ」と、私は答える。私たちは街道を歩き、ラクス修道院へ辿り着いた。
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