第3話 ジャンヌの覚醒イベントだけで、このままは嫌。

 私、リアーネは過去の記憶を思い起こす。異常発生したボアたちの襲撃によって、ジャンヌは聖女として覚醒する。ただそのために父と母をジャンヌは失うのだ。


それはちょっと嫌だなぁ。今、目の前にいる金髪で、凛々しい髭を持つジャックさん、美味しいお茶を淹れてくれた手入れされた金髪を頭上でくくっていて、優しそうな青い瞳のイザベルさん。どっちも死んで欲しくない。関わってしまったし。と言うか、ゲーム世界が酷すぎるのでは。まあ、それは置いといて。ジャンヌは青い瞳だったのね。

「な、何よ」と、ジャンヌはお茶を飲みながら、私を睨んでくる。

「綺麗な青い瞳だなって思って。きっと水属性の大天使ガブリエラ様も気に入ってくれるかもね。ねえ、それよりも・・・そろそろ」と、私は入ってきた応接間と玄関を繋ぐ茶色の扉を見る。激しいノックの音が聞こえる。

「村長、ラッツです」

「どうした?入れ」と、ジャックさんが言う。

「村長!大変だ!北門の物見の塔からグレートボア(大きな猪の魔物)たちが複数。少なくとも十頭はいる!今すぐ逃げないと!」と、部屋に入って来た茶髪の男性、ラッツはそれだけ言うと膝を地面につけて下を向いてしまう。走ってきたようで、呼吸を整えている。「戦える者は?」と、ジャックさんは聞く。

「はぁはぁ・・・俺を入れても、五名ってところだ。ハッキリ言って無理だ」

「なら、しんがりぐらいはできる。一緒に来い!」と、ジャックさんは立ち上がる。

「あのぉ」と、私は手を挙げる。

「これは、聖女様。すみません・・・緊急事態で」

「ええ、だから。私が退治しますよ。もう索敵も終わってますしぃ」と、私は進言した。「え?索敵?いやいや、冗談でしょ」と、ジャックさん。

「そうよ!聖女は回復しかできないはずよ!」と、ジャンヌも立ち上がって、私の胸ぐらをつかんでくる。私はそれを振り解き、

「私はどこにでもいる普通の修道女よ。じゃあ、とりあえず倒しますね。時間も無いので。『この身を捧げます、白蛇様』」と、膝を床につけてから床に手を置いた。目を瞑れば、大地から白蛇様がグレートボアの脳へ向かって行く。十匹同時に。脳に到達する。『いただきます』そう言うと、白蛇様は脳を食べられた。簡単なことだ。私にとっては。何匹か城壁に激突して止まる。それでも六匹以上は森の中で倒れた。後は肉として捌けば、今日は肉料理だわ。

「はい、倒しました。確認お願いします」と、私は言う。

「いや、倒しましたって・・・。ラッツ、とにかく確認に行くぞ」と、ジャックさんは入って来た茶髪のラッツさんと一緒に走って行った。

「あのさ、リアーネ。やりすぎたんじゃ・・・。」と、ロキが言ってくる。

「大丈夫よ。そんな事を言っていると肉料理あげないわよ」

「いや、それは食べたい」

「ねえ」と、ジャンヌは立ち上がった私の胸ぐらをつかんでくる。

「何?どうしたの?」と、私は胸ぐらをつかまれたまま聞く。

「教えて・・・わたくしだって。聖女になって、魔王と、魔物たちと戦いたいの。教えてください!」と、ジャンヌは泣き出した。

「ふぅ。邪教の徒って言ったの、謝ってくれるなら教える・・・それと手を離して」

「ふぐぅ。謝るからぁ」と、ジャンヌは手を離してから膝を床につけてしゃがみ込む。それからさらに頭を下げてくる。

「うん、いい子ね」と、私はジャンヌの頭を撫でた。

「ふあっ、それダメ〜」と、ジャンヌは頭を抑える。

「いいじゃない。」

「むぅ〜〜。よくない。わたくしたち、同い年なんだから」

「まあ、それはそうだけど。とりあえず裏庭に行きましょ。今が水の月(六月)なら紫陽花あじさい咲いているでしょ。紫陽花見ながら教えてあげる」

「咲いてるけど、水やりをサボってしまって・・・ちょっと葉が枯れてしまったの」

「まあ、じゃあ水やりついでにね。ロキ、裏庭に着いたら、ペンダント外してあげるからついて来てね」

「おう。かまわないぜ」と、ロキは答えて、頭の後ろで腕を組んで私とジャンヌの後をついて来てくれた。


 裏庭に行くと、紫陽花が咲いていた。一つはジャンヌの言った通り、葉が少し枯れている。それでも他の四つの植木鉢の紫陽花は綺麗に咲いている。五つあるうちの一つだけ失敗してしまったようだ。ここの紫陽花は水色っぽい色をしている。紫陽花は土壌によって色が変わる。ここの土地は水色なのかもしれない。服を引っ張られて、後ろを向く。ジャンヌが困ったような顔をして私を見ている。

「ああ、うん。ごめん・・・忘れていたわけじゃないのよ。うん。それってジョウロ?小さいね。ああ、子ども用?いいわね。うん。水を先に上げて・・・。ああ、そうだわ。ロキ、ペンダントを外して」と、私はロキからペンダントを受け取る。するとロキの頭からは二本の角が現れ、肌の色は青くなっていく。

「ひっ、魔族。」と、ジャンヌは驚く。

「大丈夫よ。従属の契約してるらしいから。私には逆らえないの。えーっとどこから教えたらいいかな。取り敢えず、白蛇様?白蛇様の事から教えて行けばいいかな」

「う、うん。白蛇様って言うの?貴方の神様?それとも女神様?」

「えーっとね、女神様と魔王は白蛇様の十分の一のエネルギーぐらいの存在かな。だからほら、私はロキを従属する事ができたのだと思うわ」

「ごめん。話が見えて来ないんだけど。」と、ジャンヌは難しい顔をする。

「この世界を造ったのは女神様よね。それを壊そうとするのが、魔王。陰陽は表裏一体だから、この関係は切り離せないよね。それでね。分かりやすく言うとね。そんな女神様や、魔王よりも白蛇様は遥か上の存在だって事。ここまではわかる?」

「・・・・・・。え?うそ???冗談でしょ???」

「いやいや、冗談じゃなくて。うん。まあ、でも大丈夫。院長先生も信じてくれなかったから。あーうん。白蛇様は根源。本体。そう言う言い方が正しいかもね」

「リアーネ、ごめん。全然分からないわ。」と、ジャンヌは目を瞑ってしまう。

私は葉が枯れた紫陽花の近くに行き、「じゃあ、この紫陽花に女神ガブリエラ様を降臨させるから見ていて」と、私は隣の紫陽花を触る。

「『白蛇様、白蛇様、白蛇様。どうか眷属である女神ガブリエラ様をお呼びいただいて、感謝しています。ありがとうございます。生かしていただきありがとうございました』」と、私は前世の知識に従って発音する。

「え?何?光が集まっているわ」と、ジャンヌは紫陽花に注目している。

プラチナの髪をしていて、金色の瞳、白い肌、白のワンピースを着ていて、肩甲骨のある辺りから翼が生えていて、四対の翼は白く光って輝いている。頭上には金の輪。大天使ガブリエルこと、この世界では女神ガブリエラ様だ。

「魔王が従属している?これは一体?」と、ガブリエラ様はロキを見て驚いている。

「こんにちは、ガブリエラ様。私、リアーネと言います。白蛇様を信仰しています。大物主大神おおものぬしのおおかみ様です。ご存じですよね」と、私は聞いてみる。ガブリエラ様はコクコクと、連続で頷かれる。すごいな、有名なんだ。

「リアーネ!!」と、ジャンヌが叫んでいる。指先はガブリエラ様を。そんなに驚く事かしら。「ジャンヌ、何も特別な事じゃないわ。白蛇様の眷属をお呼びしただけなんだから。ね、ガブリエラ様」と、私はガブリエラ様に笑いかける。

「・・・・・・。あなたが何を言っているのか、わたくしには理解できない」と、ジャンヌはいつの間にか座り込んでしまっている。

「ガブリエラ様?」と、私はどう言うわけか呼吸を止めて私を見ている大天使様に問いかける。

「えっと大神様にお呼びいただき、感謝します。それでどのような御用でしょうか?」と、ガブリエラ様は私に頭を下げて聞いてくださる。大神様とか言っていたけど、白蛇様と私を勘違いしているのかな。まあ、勘違いされたままでもいいか。と、私は顎に人差し指を当てて、上を向く。それからまたボアたちに襲われないように

「それじゃあ、このラ=ピュセル村に女神の結界をお願いします。今の紫陽花は奉納・・・プレゼントしてもいいよね、ジャンヌ。」結界をお願いしてみた。ゆっくりとジャンヌを見る。

「も、もちろんよ」と、ジャンヌは慌てて答えてくれる。

「そう言う事なので、宜しいでしょうか」と、私は聞く。

「それならこの紫陽花を教会に置いてくだされば、後は問題なく」と、ガブリエラ様は言われ、姿を消された。紫陽花は不思議な事に金に光り輝いている。

「うーーん、ロキ。ペンダント。それでこれ運べる?」と、ロキに聞く。

ロキはペンダントを受け取ると、首にかける。角は隠れ、肌の色も人間の肌色に戻っていく。「ああ、それぐらいなら問題なく運べる」と、ロキは軽々と紫陽花の植木鉢を持ち上げた。「ほら、ジャンヌ。教会に行きましょ」と、今度は私がジャンヌの手を握る。「ちょ、ちょっと」赤い髪を揺らしてジャンヌは私の後をついてくる。

紫陽花を教会に寄付しただけなのに、大聖女様と呼ばれてしまう事を私とロキはまだ知らない。その上、驚くほど多額の寄付をラクス修道院に寄付してくれた事も。

ジャックさん、ラッツさん、他の村人たちもグレートボアの肉と素材は冒険者ギルドで、驚くほど高く売れたから気にするなって言われる事も、この時の私たちはまだ知らない。ただジャンヌが、私と同じ神さまを信仰してくれる事になる。誰も信じてくれなかった異世界の神さまを。魔物たちに誘拐されて処刑される聖女ジャンヌが信じてくれた。ジャンヌが生き残り、ロキがみんなから殺されない未来に、ゲームにすら存在しない、もう一つに辿り着けるかな。隣りで恥ずかしがっているジャンヌの顔を見ていたらそんな気がしてきた。

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