第十六話 ドラゴン討伐(前編)
「という訳で、私の最初っから無双ムーブをかましていたわけではないんですよ」
序盤の部分を話し終え、上機嫌に内容を纏める日向。確かに、先程自分が足りは嫌いじゃないといったが、何だか楽しそうなので正直安心する。こういう話は向こうが楽しく話してくれないと、
「なるほど、最初は適性無しからスタートだったってことか」
「そうです」
「よくそれであんなにたくさん魔法を使えるようになったよな…………」
「それはですね…………まぁ、色々あったんです。聞きたいですか?」
何だそのドヤ顔は。見た目美少女だから、そこそこ可愛げはある。が、控えめに
言って生意気だ。
「もちろんだ」
無論、小突くようなことでもないため、俺は大人しく肯定の意思を示した。というか、早く続きが聞きたい。
「もぅ、侑生先輩ったら。仕方ないですねっ」
ってことで、日向ナツヒの昔話劇場――第二幕。開演と行きましょうか。
♢♢
異世界に召喚されてから早数か月が経ったある日、私を含めた五人の召喚者は再びあの大聖堂に集められていた。
「よく来たな、召喚者諸君」
来場早々、響く枯れ気味の声に私たちはその場に平伏する。流石に、もう数か月も経てば、異世界のマナーとやらも身に染みている。というか、召喚されてから最初の一週間で礼儀作法はみっちりと仕込まれている。
「今日はどういったご用件でしょうか、国王様」
召喚者の一人、好青年風の男性は丁寧な言葉遣いで国王に訊ねる。名前はコータさん。魔法適性は赤――自然現象系の魔法で、普段からリーダーシップが取れており、初対面の相手にも物応じしない性格。あまり意見を正面切って言うことのできない私にとってみれば、かなり尊敬できる人である。
「あぁ。それについては今から話そう。それよりも、諸君。ここ数か月間、しっかりと訓練を積み、技能は極めておるであろうな?」
少しばかり険しそうな顔をして、国王は私たちに重たげな視線を送った。
ちなみに、この世界にはRPG特有のレベリングシステムは存在していない。故に、魔法の技術や精度は経験を積み、魔法に慣れることでしか上昇しないのだ。もちろん、上昇したところで実数値が見えるわけではないが。
「もちろんでございます、国王様。私たちは、この数か月ダンジョンにて訓練し、単騎でもダンジョンマスターを撃破出来る程の実力は付けています」
と、私がそんな思考をしている最中。召喚者の女性が国王の問いに対し、丁寧な返しを見せていた。
彼女の名前は、ハルカさん。召喚者の中では一番年上である。物腰柔らかで、人に説明するのがとても上手。優しく肯定的且つ知的であることに加え、美しい見た目も相まって、その姿はまさに聖女と言ったところだろう。ちなみに、適性魔法は緑――治癒と活性の魔法である。まぁ、年上とは言っても私とはほんの五つしか年齢は違わないが。
「ふむそうか…………ならば安心して依頼できそうだな」
「というと?」
「召喚者諸君には、これから西の巨大渓谷に向かい、ドラゴンを討伐してもらう。これは依頼ではなく、命令だ!」
相変わらず、高圧的な物言いの国王に、私はバレないように溜息を吐く。他の召喚者の人たちも、黙って頭を下げてはいるが内心は似たようなものだろう。
「では、早速任務に掛かれ」
国王は酷く偉そうに命令を下した。踏ん反り返りながら大聖堂を後にするその姿にはまさしく傲慢の二文字がお似合いといったところか。
「じゃ、僕らも行きますか」
それから、少しばかり時間が経ち、私たちは西の巨大渓谷へ向かうため各自、部屋へと戻って行った。私が、部屋へと戻る直前、国王が退場した後の大聖堂は恐ろしく静かだった。
♢
王宮を出て、西へ西へと進む街道。私たち召喚者は現在進行形でその道を魔法具により、走っていた。
「にしても…………人遣いの荒い爺さんだぜっ」
戦闘を走るのは、ノリが良さそうでテンションも高い男性。彼は召喚者の一人で、名前はレンジさん。適性魔法は白――錬成・錬金で、武具やその他アイテムの作成は彼がほとんど全て賄っている。一見ちゃらんぽらんだが、しっかりと仕事はこなす良い人である。ちなみに、私たちが乗っている魔法具は彼の作成したものであり、キックボードのような形状は彼の好みらしい。
「まぁまぁ、おじいちゃんのあれは今に始まったことじゃないし。いつも通り楽しくやっちゃおうよ!」
レンジさんの少し後ろ、如何にも能天気そうに答えるのは少しばかり派手なメイクの女性で、名前はアズキさん。適性魔法は青――物理現象を操作する魔法である。見た目通り、性格はかなりポジティブでありダンジョン攻略の時に誰一人として陰鬱な気分にならなかったのは、彼女の明るさのおかげだと思う。
「そりゃそうだけどさ。いくら何でもドラゴン討伐に、俺達だけで送迎もなしって、いくら何でも酷すぎやしないか」
その通りだ。ダンジョン攻略の時は、指南役の人が何人かいたため、送迎があったが、それも決して快適とは言えない荷馬車。国王というバリューの割に、提供してくれるアイテムはほとんどない。そのくせ、リスクのある任務を押し付けてくるのだから、はっきり言って理不尽である。
「まぁ、そう言うなよレンジ。折角の異世界だ。道具をホイホイ、渡されてたんじゃ、面白みがないだろ?」
「まぁ、それもそうだな! このままドラゴン倒して、また次のクエストといこうや!」
「コータの言う通りだよっ!」
本当に、同じ召喚者がこの人たちで良かった。
正直、私が昔読んでいた異世界召喚系のライトノベルだと、パーティーメンバーがかなり酷かったりするから。こうもフレンドリーでアットホームなパーティーで非日常を過ごせるのは、本当に嬉しいことであるのだろう。今は、まだ安堵の気持ちだが、きっといつかそれを嬉々として思い返すことが出来るのだと、そう思う。
「ふふっ」
と、ついつい笑みがこぼれてしまった私の横にもう一つ。振りむくと、そこにいたのはハルカさんだった。
「どうしたんですか?」
「いえ。ナツヒちゃんが何か考え事してたから何かなって思って……」
「あぁ、ちょっとこのパーティーのこと考えてました。皆さんが同じ召喚者でよかったなぁ。って思って」
「同じ召喚者でよかった、か…………幸せなんだね」
「そうなんですかね。そう言うのとは今まで縁がなくて、よく分からないです」
「そっか…………」
ハルカさんは普段から優しくて物腰も柔らかい。今日も、そう言うところはいつもと変わらない。が、何となく今日は雰囲気が違う気がするのは気のせいだろうか。
「ナツヒちゃんは眩しいね」
「はい?」
「キラキラしてて、明るくて。折れない芯みたいなのがあるのかな。でも、とにかく輝いてるよ」
「な、なるほど」
いたずらな笑みを浮かべながらそう言うハルカさんの言葉に、私は首を傾げた。ただ、思わせぶりな発言をしているだけか、それとも私をからかっているのか。どちらにしても、よく分からなかった。
分からないまま、時間だけが流れて、戦いの始まりを告げるその時がやってくる。
「おっと…………敵さんが見えてきたぜ!」
レンジさんが放ったであろうその一言で、場の空気は一変した。魔法具の停止と共に、周囲を漂うは研ぎ澄まされた集中力と闘志。そしてそこに酷く入り混じるのはキラキラと輝く好奇心の破片。
「あれがドラゴンか」
少しだけ緊張した声色で、呟くコータさん。その指が示す先は渓谷の最下層。地面に密着し、身体を丸めるようにして眠る、赤き竜。その姿は間違いなく、私たちが討伐を命じられた生物――ドラゴンだった。
「うわぁー、大きい! 何だか燃えてきちゃうね!」
「確かに、凄く大きいわ」
これが、ドラゴン。
パーティーの皆が驚き、動揺を顔に出している中、私は一人口角を上げた。だって、非日常の中でもトップクラスに非日常的な光景が目の前に広がっている。何となく、心の渇きに水をぶっかけられたみたいな感じだ。
いいじゃん、これ。
とにかく、これだけは言える。
私は今、最上級のトキメキと好奇心を爆発させている。
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