第十話 トキメク探偵
「なぁ、日向」
「何ですか? 侑生先輩」
少しだけ時間が流れて、今は昼休み。もはや、お決まりの展開だが、俺は日向と屋上に来ていた。
「悪魔の場所を割り出すって、具体的にどうすればいいんだ?」
「それが分かったら先輩は用済みですよ?」
「怖いこと言うのな」
味気なく殺害予告をしてくる日向に、内心ビビる。が、変に憶病と思われるのも癪だったので、俺は冷静にツッコミを入れた。
「冗談です。本当のことを言えば、魔法とかで悪魔の場所を探すのは無理ですから」
「昼休みに言ってた魔力痕とかでサーチできないのか?」
「魔力痕はあくまでも魔力が発散した形跡でしかないので」
まぁ、それが出来たら日向のことだから実践しているか。
だとすると、どうやって悪魔の潜伏場所を突き止めるか。一応、午後の授業中に考えてはみたが、結局現在進行形で無策である。
「なぁ、悪魔が人を誘拐する目的ってなんだか分かるか? この前戦った獣みたいな奴は人を攫ったりなんてしてないよな?」
「そうですね…………パッとは思い付きませんが、強いて言うなら魔力や生命力の確保でしょうか。悪魔とて世界を生きてますから、飲まず食わずでずっと生活出来るわけではないですし」
なるほど、要はエネルギー源に人間を使っているということか。それはつまり、悪魔が生命力と魔力を多く供給できる人間を欲していることの裏付け。それに一番該当しそうなのは、隣にいる日向だな。
「ってことは、悪魔はまだこの学校の中ってことか」
一つ、ここでほぼ核心に近い結論が出たのは大きいな。流石に街全体ともなれば捜査範囲的に見つけ出すのは骨が折れるどころではない。
「えっ、ちょっと。何でそんなことが分かるんですか?」
取り敢えず、ここは日向を納得させるか。
「あくまでも推測だけど、悪魔の狙いは日向なんじゃないかって思ってな」
「えっ、私?」
「あぁ」
続けて、俺は日向に先ほど考えたことを伝えた。最初こそ、日向はバツの悪そうな顔をしていたが、話の最後には納得の色を窺わせていた。
「なるほど、つまり悪魔がここ数日で誘拐事件を引き起こしていたのは、私をおびき出すためってことですね」
「あるいは、日向が誰か分からないから片っ端から捉えているか」
「どちらにしても、放ってはおけませんね」
まぁ、どうせどっちの経緯がなくとも討伐するつもりではあったんだろうな。
「どうかしました、先輩?」
「いや、何も」
特に何も言わない。これに関しては別段おかしなところがないからな。
「そうですか」
「それでだ、取り敢えず相手の目的に関しては何となく推測できたんだが…………」
「問題は、どうやって悪魔の居場所を突き止めるか、ですね」
日向の言う通り、今回の難所はまさにそこだ。目的に対して、該当するターゲットが多過ぎる。一人一人に張り込んでいたのでは、いつまでたっても悪魔と遭遇することはなく、誘拐の被害者だけが増えていくだろう。はっきり言ってそれは困る。
「どうしましょうか、先輩?」
「ちょっと考えさせてくれ」
言って、俺は屋上のフェンスに背中を預け、だらしなく腰を下ろした。もちろん、匙を投げたわけではない。ぼんやりと空を眺めながら、思考の海に、意識を沈めていく。
まず現状、こちらには悪魔側から仕掛けてこない限り、索敵する余地がない。となると、悪魔を誘き出すか犯行現場にいる必要があるが、どうするべきか。
例えば、純粋にずっと学校内に張り込んでおくというのはどうだろう。日向の身体能力であれば、学校内なら異変が起こってからでもその場に駆け付け、悪魔と交戦することは可能だ。犯行時間、犯行現場が分からない以上はこの方法が一番確実。だが、果たして悪魔は日向がずっと張り込んでいることに気付かないだろうか。いや、仮に気付いたとしてそれでも犯行に踏み切るだろうか。
相手は、人が少ない時間帯に一人を狙って誘拐する悪魔。しかも、ぎりぎり誘拐犯でも出来そうなラインに見せかけてくるような巧妙さまで兼ね備えた不気味な奴だ。流石に、ずっと張り込んでいたら罠を疑われてしまう。
「どうですか、先輩?」
「せめて、犯行時間が分かればエンカウントできそうなんだがなぁ」
「犯行時間?」
「あぁ、犯行時間が分かれば日向を囮にして悪魔を誘き出せると思って」
誘き出すと言えば聞こえはいいが、やってることは日向を囮とした釣り作戦。我ながら酷い策を考えたものである。
日向じゃなかったら、捨て身過ぎる作戦だからな、これ。日向だからぎりぎり許されてるだけで、普通の人には禁止作戦と言って差し支えない。
「…………………ちょっと待てよ」
もしかすると、閃いたかもしれない。
日向だからできること、日向にしかできないこと。日向を囮に使う。日向をターゲットに選ばせる。その時、校舎内にいる生徒の中から日向ひとりを選ばせる。
つまり、校舎内に日向しかいなければ必然的に日向が選ばれるということではないだろうか。
「なるほどな」
もしかしなくても、閃いた。
「日向、人払いの魔法を魔力発散させずに発動させることはできるか?」
「えっ? 人払いの魔法ですか? まぁ、私の固有魔法を使えば可能ですけど……それがどうかしたんですか?」
望んでいた通りの返答をした日向に、俺は思わず笑みを零してしまった。気持ちいい、まるで靄のかかった迷路を突破したときのような、そんな感覚が身体を巡る。
「作戦が決まった」
「えっ、マジですか?」
「あぁ」
「やったぁ。それでそれで、早速今から決行ですか?」
俺が作戦の決定を言葉にした途端、日向は目をキラキラさせながら俺に顔を近付ける。
いくら日向とはいえ、こうも美少女の顔面が近付いてくると変な気になりそうだ。何となく鼻腔に漂う甘い香りに、思考を持っていかれそうになってしまう。
ギリギリ理性が保たれたところで、俺は日向から数歩下がり。思考を正すように、そう言葉を紡いだ。
「い、いや。決行は明日の放課後だ。ちょっと俺も準備しないといけないものがあるからな」
「なるほど、分かりました」
「あぁ、あと特に準備物とかは要らないから。日向はしっかり休んでおいてくれ」
伝えておかなければならないことを早口で紡ぐ。どうにかして、気を紛らわさないと。意識ごと持っていかれそうになる。美少女であのバグった距離感は控えめに言って脅威だった。
「了解です! 侑生先輩っ」
日向の返事を他所に、俺はフェンスに再び背中を預け空を仰ぎながら誓った。
もう、作戦を勿体ぶって伝えるのは止めようと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます