旅行前夜 <掌編戯曲>

孤独部

旅行前夜

一人暮らしの部屋。

中央に低いテーブルがある。その下にはラグが敷いてある。

電気がついておらず、真っ暗。

ドアが開く音がして、一人の女性が現れる。


「ただいまー」


(電気をつける)


「うわ、つけっぱじゃん……」


(エアコン消す)

(リモコン置く)

(またリモコンを手に取り、つける)


「消さんくていいじゃん」


(上着を脱ぐ)


「よし、1週間おわりー」


(座ってスマホをカバンから出す)

(ツイッターをみたあとショート動画を開く)

(ショート動画をいくつかスワイプする)


「いかんいかん」


(スマホをテーブルに置く)


「きーがーえーるーまえにー、ささっとやるか」


(隣の部屋からスーツケースを持ってくる)

(手でほこりを払う)

(小さく咳き込むフリ)

(あけようとするとロックがかかっている)


「え、何番だっけ……」


(少し考える。なんとなく思い出す)


「おー、あってた」


(スーツケースからはカラの袋が出てくる)

(立ち上がる)


「よし、やるか」

「(指を折りながら)2泊3日でー、初日は着てくから……2日分か」


「(クローゼットにむかいながら)何着てこ?」


(服を取り出し、広げて見る)

(いくつかの中から、1つ選んで立ち上がり、姿見の前で合わせる)


「……暑いかな……?」


(スマホで気温をググる)


「うわ、けっこう暑いな……」


(2着手にとって、姿見の前で交互にあてがう)

(下を向き、考え込む)


「ん〜〜〜………」


(間)


「これでいっか!」


(スーツケースに投げる)

(再びクローゼットをごそごそする)


「……これと……これと……これ」

「ほい(スーツに向かって投げる)」

「よっこいしょ!(立ち上がる)」

「あとは……(スーツケースを眺める)」

「(目線を外して)ヘアアイロンいるかな? ……いらんか!重いし」


(なんか大事なものを忘れてる気がして考え込む)


「(はっとして)パスポート!」


(あれ?どこやったっけ?というフリーズ)

(早足で引き出しを開けては中を確認する)


「……ない」


(いくつか繰り返し引き出しを開けていく)

(部屋の中央で腕組みして仁王立ち)


「ヤバい………… えー…………」


(ハッとして、スーツケースを漁る)

(パスポートが出てくる)


「あったー!!! よかったぁーーー………」


(気が抜けてスーツケースに突っ伏す)

(間)

(ガバッと起き上がる)

(服をたたんでパッキングする)


「……台湾♪ ……台湾♪」


(パッキングしている。立ち上がって何かを取りに行くなどする)


「台湾♪ ……台湾♪」


(戻ってくる)


「”台湾ラーメン、台湾チマキ、おいしーよ”」


「(踊りながら)いっぺんたべてみやーち、もっとたべてみやーち、ナゴヤといったら」


(テーブルの足に小指をぶつける)


「いっ!!!!!」


(うずくまる)


「……………っつ〜〜〜〜〜〜……………」


(長い間)

(しばらくして、テンションだだ下がりの様子でパッキング再開)


スマホの振動音が鳴る。


(ヨボヨボでテーブルの上のスマホを見る)


「よーちゃん。……7時に名駅だからー……」


(壁にかかった時計を見て、家を出る時間を考える)


「”りょーかい”、と(メッセージを送る)」


(再び時計を見る)


「あかん、はよねな」


(残りを急いで詰める、途中でもよいので手をとめて)


「お風呂いれよ」


(風呂場の方へ去る)


お風呂のお湯はり設定をする操作音が聞こえる。

お湯が出る音が聞こえてくる。


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旅行前夜 <掌編戯曲> 孤独部 @kodokubu

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