第36話 もう一人の『俺』

(新星歴4814年?月??日)


頭の中で悲鳴やら、怒声やら、すすり泣く声や、馬鹿笑いする声や、雑多な声が鳴り響き、俺は深く沈んでいた意識が浮上するのを自覚した。


意味が分からないがうまく体を動かせないようだ。


ようやく動いた重い瞼を開けると、目の前は鼻を抓まれても分からないほどの漆黒の闇の世界だった。


しばらくすると徐々に意識が浮上してくるが、何をやっているのか自分は誰なのか全く分からない事が解った。


体の動かし方が本能的に理解できたようで恐る恐る自分の手…そう『手』だ。

これは手だ。

それで顔…ああ『顔』をさする…?触る…『触る』だ…ああ理解してきた。


そんなもどかしい感情に包まれながら何も見えない中で、感覚的に『どうやら大きな結晶体のようなものから生えている』ようだ。

俺の体が。


少し動くようになった体に力を入れると、ぼろぼろと生えてきていたものが剥がれ落ちる音とともに、ごとッ、ごとッ、と大きいものが落ちる音が混ざった。


すると落ちた大き目の石がじんわりと微かに発光し始め、徐々に周りの状況が見え始めた。


「??…祭壇…??!」


目にした状況を理解できないでいたら突然頭の中から言葉が出てきた。

祭壇?…なんだ?


分からない。


「ぐっ…ぐうう…ああ…くっ…」


突然体の芯から何かが無理やり吸い出されるような、絞り出されるような不快感とともに俺の意識は消失していった。


ごとっ、ごとっ、ガララ…ごとっ…

そんな音を聞きながら…


※※※※※


(新星歴4814年6月27日)


「モーちゃん!!そっち行ったよ!てっうわっ…こなくそっ!!…つっ!!」


3mくらいの漆黒の鉱石のようなもので覆われた『クリスタルゴーレムもどき』があり得ない速さでアグアニードから離れ、モンスレアナに向かった。

と思ったら踵を返して再度突っ込んできて、殴りかかる。


ガードしたらまたモンスレアナの方へと突っ込んでいった。


「ちょこまかと!いい加減にしてほしいですわって…きゃっ!…ちょっとアグアニード、まだ元気じゃないのコイツ!…くっ…【安定】!!!」


モンスレアナは顔めがけて飛んできた自分の顔より二回りは大きい襲い掛かってくる拳のようなものをギリギリ躱し、すり抜ける瞬間に権能を使用した。


『クリスタルゴーレムもどき』の動きが急激に落ちる。


「!!っ、モーちゃん。なーいす」


虚を突き一瞬で『クリスタルゴーレムもどき』の懐に飛び込むアグアニード。


「そーれー!吹き飛べええええ!!!」


アグアニードの拳が、猛々しく赤く輝き閃光がほとばしる!

腰を深く落とし、全身を引き絞り、一瞬貯めを作った渾身の正拳突きが炸裂!


ドガアッアアアアアアアアアアーーーーン!!!

ズドーーオオオンン…


大質量のモノが衝突する様な衝撃と、まるで爆発するかのような大音量に包まれて巨大な『クリスタルゴーレムもどき』が吹き飛んだ。


全身に亀裂が入り砕け散り、破片がキラキラと輝き、やがて姿を変えていく。

そこには3歳くらいの銀髪の幼児が現れ、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「よーし。それっ…【減退】!!!……ふうっ」


少年はみるみる縮んでいき、やがて手のひら大の漆黒の鉱石がゴトッ!という音を出して転がった。


「はあーーー。しんどっ!…やばいよねーこいつら強すぎー。モーちゃんお願い」


鉱石を拾い上げモンスレアナに渡すと、アグアニードは大の字になりひっくり返る。

 

「了解…上手くいきましたわね」


モンスレアナはノアーナから預かった『魔法石』に漆黒の鉱石をかざす。

すると鉱石はみるみる色素を失い白くなると粉々になった。


「しかし、さすがはノアーナ様の一部ですわね。攻撃魔法も弾かれますし、物理はアグアニードレベルでないとダメージも通りませんし…はあっ…権能も最大出力で至近距離でないと無効化されますものねえ。本当に厄介ですわ」


モンスレアナも座り込んでしまう。


バラまかれたノアーナの力の基『想いの欠片』の回収は、神々の奮闘もあり終りが見えていた。


現在、零れ落ちた想いの欠片の『約121%程度』の回収率だ。


アースノートの権能で作り出した『測定器』をアルテミリスの『真実の権能』で強化した。

その『測定器』で確認しているため確度は高い。

零れた量と吸収速度を緻密に計算し導き出された数値は127%。

前後3%が誤差の範囲であると算出されていた。


回収した量が零れた量を凌駕してしまうのは、この世界を創造したノアーナの魔力がこの世界の万物に浸透しているからだ。


ばら撒かれたものが、それを『吸収・肥大化・進化』してしまう。


茜がノアーナと邂逅し、封印するまでのわずか数十秒の出来事が、この世界を滅ぼす脅威となっていた。


「あとはー、モレイスト地下大宮殿の周りかなー」

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