第35話 転生者茜の大冒険3

美味しいケーキを食べて、光喜お兄ちゃんとお話しして、気が付いたらあたし寝っちゃってた。

今寝てるすっごい大きいベッドはいつも光喜お兄ちゃんが寝ているんだって。

スンスン、いい匂い♡安心する匂い。

パパみたいな匂いだ。ムニャムニャ…


あの後茜はすぐに寝てしまった。

本当は『安定の権能』が働いたせいだが。


悲しいことだが入院が長かった茜は『まどろみながら考える』特技があった。

なので目は開いていないし、何なら意識もないけど、いっぱい考えるのだった。


お話ししていたら眠くなってきちゃって、光喜お兄ちゃんが優しく『お姫様抱っこ』してくれたんだ。


とてもかっこよくてちょっとドキドキしちゃったのは内緒。


だって光喜お兄ちゃん…さっきの優しそうなお姉さんととても仲良しみたいだった。

彼女さんかな?…考えたらなんか胸がチクチクする。

……

パパ、元気かなあ…会いたいなあ…

……

……

パパ…光喜お兄ちゃんに…会えたよ…


※※※※※


茜ちゃんを寝かせ俺はモンスレアナを伴い地上300m地点にある会議室へと飛んだ。


「ヒャッハー♡死にやがれ!」

「あああああ、あーちゃん、酷いよー」


土の神アースノートが操る『究極農家ズッキーニ太郎』が火の神アグアニードが操る『恋する魔法熟女キャロライン』を撃破する瞬間だった。


「これであーしの10,062,330勝10,062,325負ですわ♡一昨日きやがれ!ですわ♡」

「ムッキー、ズル!ズールー!!もう、酷いよ!あーちゃん。くっそーもう一回!」


俺は電源を引き抜いた。


「すまんが後だ。会議を始める…ダニーはどうした?見えないが」


俺の問いかけに水の神エリスラーナが近づいてきて両手を広げながら、

「家帰った。忘れ物…不敬…じいいいいいいいいい…抱っこ」


見た目8歳のお願いは強制力が強すぎる。

とりあえず抱っこした。

軽い。


「エリス、ちゃんと食べてるか?お前軽すぎ」

「むうっイジワル…??…ノアーナ様…ちから???…」


そんなことをしていると、闇の神ダラスリニアが『クマのような』ぬいぐるみを大事そうに抱きしめながら転移してきた。


「…………ただいま…ノアーナ様…」

「ああ、お帰りダニー。忘れ物はあったのか?」


コクリと頷いてぬいぐるみを掲げ、そしていつもの端っこの席へ座った。


「………ノアーナ様がくれたぬいぐるみ…いのち」

「…そっ、そうか。大事にしてくれて嬉しいよ」


ダラスリニアは真っ赤になってうつむいた。


※※※※※


「さあ、全員揃ったな。席についてくれ。まずいことが起きた」


俺は全員を見渡した。


火の神アグアニード【力と減退】の権能をもつ。

赤に金の混じったトサカ頭の好青年。

ムードメーカー 存在値13200。


水の神エリスラーナ【誕生と衰退】の権能をもつ。

古龍の化身、最強幼女。

存在値19500。


土の神アースノート【発明と荒廃】の権能をもつ。

口の悪い不思議ちゃん。

実は美少女。

我らが誇る頭脳 存在値5300。


風の神モンスレアナ【安定と混乱】の権能をもつ。

優し気な薄緑色の髪を煌めかせる美女。

お姉さんポジ 存在値8100。


光の神アルテミリス【真実と虚実】の権能をもつ。

輝く白銀の髪の無表情な美女。

存在値10000。


闇の神ダラスリニア【動と静】の権能をもつ。

紫色の髪のはかないお嬢様。美少女。

ぬいぐるみっ娘 存在値12000。


俺の大切な世界を共に守る頼もしい部下たちだ。


皆一様に俺に視線を向けて、話を促すようにエリスラーナが口を開いた。


「ん、ひずみ。でもノアーナ様が閉じた」

「あー、おいらも感じたよー…あれ?!っノアーナ様?」


アグアニードが目を見開く。


「なんか、力増してない?…えっ?…なんでー?また差が開いたー」


茜ちゃんに会って、彼女に中にあった二つの色。


一つは『琥珀色に緑が混じる』色。

そして俺と同じ『白銀をまとう漆黒』の色。

そして彼女が持っていた、その俺の色をまとう魔法石。


魔法石が共鳴し、俺の中の抑えていた『くすぶる想い』から、莫大な魔力を引きだした。

一緒に『想いの欠片』がものすごい勢いで漏れ出していった。


とっさに封印したが3割くらいは持っていかれた。

非常に危険なので茜ちゃんの許可をもらい、今は違う概念に改変した。

おそらく今回の切り札になる。


「アート、ビーカーを出してくれるか?少し大きめのやつだ…イメージは送った。二つ頼む」


「わかりました。お任せあれ、ですわ♡」


アースノートはグルグル伊達メガネをくいっと持ち上げると何かをつぶやき、テーブルの真ん中に500㏄くらい入りそうな、実験で使うようなビーカーが現れた。

【発明】の権能だ。


「見た方が解り易いから、な」

「まあ完全に一緒というわけではないがイメージしやすいはずだ」


俺は魔力で両方のビーカーを水で満たす。

そして一つを指さし皆に語り掛ける。


「この満たされているのが今の世界だ。同時に俺の存在でもある」


さらにもう一方を指さす。


「そしてもう一つが、原初より抱えていた、俺の中にくすぶり続けた『想いの欠片』だ」


感情の読めない機械的な声で、アルテミリスがつぶやいた。


「いっぱいです。もう入りません。溢れそうです」


※※※※※


光の神アルテミリス。

背中まで届く輝く白銀の髪をさらりと煌めかせ、同じ色の整った眉に、感情の読めない整いすぎた目には金色の瞳が輝く。

すっと通った鼻筋に非常に整った薄っすらピンクの唇が美しい配列で鎮座している。

均整の取れた体躯に程よく肉付いた胸部が、純白の礼拝服を押し上げ服から覗く手足はすっとしなやかで驚くほど白い。

ミステリアスな雰囲気を醸し出す絶世の美女だ。

存在値は10000。

実は物理も相当強い。

独特な武術を会得している。


※※※※※


俺は頷いた。


「アルテの言うとおりだ。俺はこれを皆の権能で調整していた」

「隙間を作らなかったのは余計な概念を入れさせないためだ」

「だから俺が認識している以上、この世界は揺らがない」


皆神妙な面持ちで見守っている。

俺は小さな礫を魔法で顕現させると、おもむろに片方のビーカーに投げ入れた。


ビーカーから水が零れ落ちた。


「そこに認識外の闖入者が突然俺の世界に飛び込んだ」


ビーカーの中で礫がひときわ目立つ。


そしてもう一方のビーカーを持ち上げ、中の水を注ぎこむ。

やや乱暴に。


「俺の中にあるくすぶる『想いの欠片』詳しくは省くがまあ『俺の魔力』とほぼ同一の存在だ。それが補うように減った世界へ流れ込んできた」


「加減を知らずにな」


ごくりと、誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。


「とっさに複合聖魔紋で封印したがな」

「でも3割くらいはどこかへ行った」


「俺の感知範囲はいわばこのビーカーの中だ」

「出たものの行き先は、俺は感知できない」


「っっ!!!」


皆が悲鳴に近い声を思わず漏らした。


「俺の能力に近い『力の基』のような物『想いの欠片』が俺たちの世界にばらまかれた」

「厄介なことに俺の力に共鳴する」


「力を取り込む。だからレアナに抑えてもらっている」

「まあ抑えていてこれだ。どうやら抱え込んでいた『想いの欠片』は勤勉らしい」


「そして、いや確実に『性悪』だ」

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