第34話 話し合い1
(新星歴5023年4月30日)
根源魔法を手に入れた俺とネルは執務室へ訪れた。
念話を発動していたので、全員が集まってくれていた。
「皆、すまない。そして集まってくれてありがとう…あーノニイ、睨まないでくれ。もう大丈夫だ。ネルは完全に回復したよ」
「ノニイ、心配してくれてありがとうございます。わたくしはもう問題ありません。光喜様とともに『根源魔法』にたどり着きました。もう何も怖いものはありません」
ネルがそう言うと、ノニイは膨らませていた頬を、やっと解いてくれた。
そして気まずそうにこちらを見て大きく頭を下げた。
「光喜様、先ほどは大変失礼いたしました。私は…」
俺はそっとノニイを抱きしめた。
「っっっっ!!????…ああ!?…こうき…さま…!??」
ノニイの頬が真っ赤に染まる。
うん可愛い。
ネルがちらっとジト目をしたが、軽くかぶりを振り、ふっと小さくため息をついた。
「いずれ皆にも寵愛を授けていただきます…つながっていますから。皆一緒です」
俺がノニイを離すと、ネルがそっと腕を絡ませてきた。
※※※※※
皆が席に着き、俺は今の状況を皆と共有するため語り始めた。
200年前、何があったか。
「はじめに、謝罪させてほしい。すまなかった」
全員がざわつき始めた。
「すまない。不誠実な対応だとは解っている。だが今から話す内容は、何度も皆に申し訳ないと言わなければならない事ばかりだ。それだと話が進まない。勘弁してほしい」
すっとムクが立ち上がり、奇麗なお辞儀をし、俺の目を真直ぐに見つめてきた。
「我らが主、光喜様。心配は無用でございます。遠慮もいりません。優しい貴方様は我らを『仲間』とおっしゃってくださった。こんなに嬉しいことはありませぬ。あなた様に仕えられる喜びは、あなた様が想像する以上にございます。ここにいる全員、同じ気持ちでございます。どうか、御心のままに…ですがその謝罪。全員で、謹んでお受けいたします」
「大将、俺は今の大将、大好きですぜ!何でも言ってくださいよ!絶対力になる」
「光喜様。悪い奴いるなら、ぶっ飛ばす!コロンも一緒に!!」「コクコク」
「おいしいお弁当作りますね!頑張りましょう!!」
ナハムザート、コロン、ロロン、ミナトが、嬉しいことを言ってくれる。
他の皆も、大きく頷いてくれる。
何故かカンジーロウの顔色が悪いが。
全員が信愛の表情を浮かべ力のこもった瞳を輝かせて。
「ありがとう。ネルも良いね?…聞くまでもないか…わかった。皆聞いてくれ」
「俺がかつて紡ぎだした世界、システム。数十万年かけて5000年くらい前にようやく完成したんだ。そして大きな問題もなく4800年近く経過した」
「それで俺は『俺個人』が欲しいものを手に入れるため『グースワース』を作った。最初はネルと俺だけだった」
ネルが頷く。
「それからムク、ナハムザート、ミナトが来てくれた。いや俺が連れてきた、か」
三人ははにかんだような表情をした。
「コロンとロロンは俺に戦いを挑んできたっけ」
二人は仲良く「ぴっ!」と可愛い声を上げた。
「俺は本当に心から嬉しかったんだ。愛するネルがいて、愛する皆がいて」
皆の頬がうっすら上気する。
「それからしばらくして、あのアホな皇帝が戦争を起こした。俺の『戒律』を破って。そしてノニイ・エルマ・カンジーロウ、カリン、ミュールスと出会えた」
5人は思い出したのか、泣きそうな顔をしていた。
「その時俺は確信してしまったんだ。破れるはずのない『戒律』を破る、直前まで起こっていた事件の延長だと」
「本来は6柱の神たちですら『戒律』は破れない。だがあの時、ある事件がきっかけで戒律を破れる存在が蠢いていたんだ。すべて回収したはずだったのに」
「その前に前提を話そう」
「そもそも戒律は、無意味・我欲・差別・軽蔑・軽視による、意志あるものへの殲滅の防止を中心に、俺が編んだものだ。実際には200項目ほどある」
「ゆえにいくつかの対応できないものがあるのも事実だ」
ふっと息を吐きだし、ミナトが淹れてくれた紅茶でのどを潤す。
そして遠いあの時に思いをはせる。
「俺はかつて途方もない回数、いや恐ろしいほどの失敗を繰り返した。そして1万年前くらいに一応の成果を出した」
「でもその世界は、死んだ世界、終わった世界だった」
「なので6柱というシステムを構築したんだ」
皆神妙な顔で俺を見つめていた。
「話を戻そう。戒律を破る一番簡単な方法は、俺自身が破ることだ」
ざわり…皆の気配が変わる。
「だが現実的にそれはあり得ない。何しろ数十万年かけてやっとたどり着いたんだ。そんなバカなことはするはずがない」
「俺は何重にもロックをかけた。幾重にも絡まるように、そして完成させたんだ」
「だがイレギュラーが発生した」
皆が息をのむ。
「俺の世界は俺が創造した、ゆえに俺が創造したもの以外があればどうなる?」
ネルが思わず声を発した。
「っ!?…まさか…転生者…?」
俺はネルを見つめゆっくりと頷く。
「ネルに出会えた時のことを覚えているかい?」
「忘れたことなどございません。あの時の悍ましい悪意から救ってくださった事、そしてあなたが私を見つけてくれた感動は、今でもわたくしの心の中に残っております…!まさか、茜!?」
「そうだ。ネルと出会ったとき俺と一緒にいた少女」
「俺の恩人の西園寺先輩の娘、勇者茜。転生者だ」
「そしてそれをきっかけに戒律を無視した事態が起こり始めた…」
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