第33話 転生者茜の大冒険2

しばらく泣き続けていたが、状況が変わるわけではない。

茜はいつか読んだ『異世界転生ものの小説』を思い出しながら行動を開始した。


「うん、元気な体になったんだから、クヨクヨしてもしょうがないよね?」

「パパに会えないのは悲しいけれど、頑張らなくちゃ。よし、もう一度カバンを調べよう!」


茜は再びカバンの中身を調べた。

そこで異変に気付く。


「あれ?さっき食べたのに、3個ある?…えっ!?……ん?石が光ってる!?」


茜は光っている『漆黒の石』をおもむろにつかんだ。


刹那


目の前には全身から膨大な『白銀をまとう漆黒の魔力』に包まれた、転生前何度も見た、極帝の魔王ノアーナ、いや『光喜お兄ちゃん』がいた。


「……誰だ?」


漆黒の髪の毛が、魔力をまとって煌いて、とてもかっこいい。

意志の強そうな眉毛はかっこいい形をしていて、銀色の瞳は全部見られそう。

…高い鼻だなあ…背高いなあ…

夢で見たより、ずっとずっとかっこいい!!


茜は見とれてしまった。


「…見ない顔だ…?!…闖入者!?…まさか?!」


なぜか慌てたように、光喜お兄ちゃんは突然ぶつぶつ言いだした。


「理を築く那由他・あまねく聖雷・ガルニリアルより高き霊泉・いと久遠の気高き仙導師・従属せし涅槃………複合聖魔紋!」


茜とノアーナを包むように、キラキラ輝く優しい色の『見えているのに見えないように見える』光の幕が構築され、すっぽりと覆ってきた。

…そして消えた。


「ん??????」


茜は何が起きたのか全く分からなかった。

少し垂れ気味のガーネットの様な瞳をパチパチと瞬かせ、立ち尽くしてしまう。


「おまえは誰だ?どこから来た?…なぜ俺と同じ色を持っている?」


茜、意味わからず思考回路ストップ。


「……おい…」


はあっとノアーナは大きなため息をついた。

そして今度は優しく問いかけた。


「あーお嬢さん?名前、言えるかな?…俺は『ノアーナ』という」


「はっ!…ごめんなさい。光喜お兄ちゃんがかっこよくて、見とれてました!」


ノアーナが固まる。


「!!!!いま、なんて言った!!?」


魔力がほとばしる!!


「っ!!き、!きゃああああああああ!!!!」


魔力の圧に、茜はごろごろと転がってしりもちをついてしまった。

痛ったーい。

あっちこっちすりむいてしまった。


「!?っ、すまない…」


ノアーナは茜の横に突然現れ、優しく茜を抱き起した。

優しい手から、温かいものが茜の中に流れてきた。


「…??あれ?…痛くない???」


ノアーナはそのままお姫様抱っこをするように茜を抱き上げると、

「同時転移を申請…許可……飛ぶぞ。目を瞑っていろ」


そして瞬く間に、奇麗な部屋の中に立っていた。


「?????????????????!!」


茜、再度フリーズ。


※※※※※


ギルガンギルの塔地上1000メートルに位置する、ノアーナの隠れ家。

30畳くらいのスペースにセンス良く家具が配置されている。


大きな窓の外には白く雪化粧した美しい山々や緑の森が広がり、ワイバーンみたいな大きな生物が飛んでいる様が見える。

窓際には応接コーナーがあり、高級そうな大きなソファーが黒光りする高そうなローテーブルを囲むように配置されている。


壁には大きなテレビと、多くの蔵書が納められたアンティーク調の本棚が鎮座しており、奥の方には冷蔵庫がある。


ノアーナが再現した、日本の金持ちのイメージで作成した部屋だ。


ギルガンギルの塔は創造した6柱の神々がたむろする場所でもあるが、この部屋にはノアーナの許可がなければ入れない。

念話は届くが。


ノアーナは茜をソファーに下して、指を二度三度動かした。


突然茜の前のローテーブルに、嗅いだこともないようなスッゴク良い匂いのする紅茶と、本でしか見たことがない『イチゴのショートケーキ』が現れた。


「取り敢えずそれでも食べてくれ。さっきからお腹が鳴っているぞ。食べたら話がしたい」


光喜お兄ちゃんはそういうと、こめかみに手を当てて話し始めた。


「レアナ、聞こえるか?許可するから来い。ああ隠れ家だ」


ケーキを前に、茜は固まってしまった。

すっごく食べたい。

でも食べ方が分からない。


頭の中に光喜お兄ちゃんの声が聞こえてきた。

(食べ方がわからなかったんだな。すまない。確かにこの世界にはないからな。これは…)

(知ってるよ!…でも食べたことない。頑張って食べてみる)

(…そうか…ふっ、ゆっくりお食べ)


デッデレーデッデレーチャララララー♪


茜とショートケーキの戦いの火ぶたが切って落とされた!

手と口とほっぺたに、茜は10のダメージを受けた!

茜の攻撃!!会心の一撃!!シュートケーキは倒された!!


タラララッタッター♪


茜は3ポイントの経験値を獲得した!!


なんてね。


「あら、まあまあまあまあ。可愛らしいお客様ですわねえ。ご紹介、いただけまして?」


デッデレーデッデレーチャララララー♪


スッゴク優しそうな奇麗なお姉さんが現れた!


もういいわ!


※※※※※


ケーキを食べて紅茶を飲んで、茜はとってもご機嫌だった。

にこにこにこにこにこにこと、聞こえてくるようだ。

なんと微笑ましい。


「レアナ、俺と彼女に『安定』を頼む…彼女には『低級』俺には『特級』だ」

「っ!?…かしこまりました…はい、大丈夫ですよ」


光喜お兄ちゃんと奇麗な優しそうなお姉さんが何か話していて、そしたらなんか心が落ち着いてきた。

…なんかとってもいい気持ち。

それに光喜お兄ちゃんがさっきよりもっと優しく見えてきた??


「お嬢さん、君を調べてもいいかい?痛かったり、苦しかったりはないからね。でもイヤだなって思われると、無理やり見なくちゃいけないんだ。そんなことしたくないから『許可』してもらいたいんだ」


光喜お兄ちゃんは、スッゴク優しい顔と声で、私に聞いてきた。


「うん。いいよ……痛いのは怖い…」


ノアーナはふっと笑い、そして…


「茜、ちゃんか…日本人…西園寺??!!病死??…」

「……光喜!???…俺だな…タイムパラドックス?…」


光喜お兄ちゃんはしかめっ面をして、大きなため息をついた。

あれ?どうしよう。

何かいけないことだったのかなあ?


ノアーナの様子に、モンスレアナは激しく嫌な予感がしていた。


ノアーナのこんな表情は見たことがない。


なにかとてつもない、恐ろしいことが起こる気がし、先ほどのほとばしるような膨大な魔力に包まれていたノアーナの様子を思い出し、身震いしてしまった。

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