第31話 たどり着く希望の光

程なくして、ネルはやっと落ち着いたものの、気を失ってしまった。

今の精神状態はあまりにも危険で、俺はグースワースに戻ることにした。


「ルミナ、すまない。俺には彼女が一番大切なんだ。こんな状態では話し合いはできない。日を改めさせてもらいたい」


「ノアー…光喜様。賜りました……かわいそうに。よほど怖かったのでしょうね。大切にしてあげてください……ただまことに申し上げにくいのですが、私どもにも時間がございません。内部の恥なので詳しくは省かせていただきますが、できれば明日にでも会談を持ちたいのです」


ルミナラスは申し訳なさそうに、言葉を紡いだ。

真核が揺らいでいるのを感じる。

酷く衰弱しているようだ。


「わかった。必ず来よう。だがひとつ良いか?許可をいただきたい」

「?…許可?でございますか?」

「拠点として登録させてほしい。ルミナはどの程度の権限がある?」

「かしこまりました。王には必ず承諾させます。どうぞご自由に」

「ありがとう…登録した。では明日」


俺は気を失っているネルをやさしく抱きかかえ、グースワースへと飛ぶのであった。


※※※※※


ネルを抱え、俺は自室へと転移した。

自室ではちょうど掃除をしていたようで、ノニイとエルマが居た。

俺たちに気づいた二人は、とても驚いたような表情を浮かべ、ぐったりしているネルを見て、なぜかノニイが俺に怒りだした。


「光喜様!これはいったいどうしたのですか?なんでネル様が!ああなんてかわいそう。光喜様!見損ないました!なんでこんなにひどい仕打ちを!」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ、俺は何も…」

「…わかるんです!…私にはわかるんですよ……酷い!酷すぎます!もう、光喜様嫌いです」


ノニイは駆け出してしまった。

後にはオロオロするエルマが残り、所在なさそうにしながら、おそるおそる俺に声をかけてきた。


「あのー光喜様?私たちって、色々つながっているのですよ」

「…つながっている?」

「はい。以前のあなた様が『最も強い感情・想いは世界を覆す』からって。危険なので『ある程度共有しよう』って。私はその、半分男性なので、深くは感じられないのですが、いつもはしっかりされているネル様ですけど、昨晩と朝の…ごにょごにょ…」

「ん?聞こえないよ?エルマ。ネルは俺の大切な人だ。俺はまだ完全じゃない。彼女のためになるのなら何でも言ってくれ。頼む」


途端にエルマは顔を赤くし、もじもじしはじめ上目遣い遣いでちらちらとこちらを覗う。


「イってしまったんです!それからあり得ない幸福感を感じたんです!!」

「…………………は?……えっ?!!」

「ああ、もう、だから、超気持ちよくなって好きが上限突破して、幸せすぎて。それなのにまた居なくなるかもしれない、そんなことを光喜様はされたのです。酷すぎです」


どうやらグースワースの皆はかつての俺の魔改造で、強い感情を共有できるらしい。

つまり喜びや苦しみ、悲しみや…そして『快感』なども。


まじかー。

何やっちゃってくれてるんだよー。

おいこらノアーナ!


「すっ、すみません…失礼します」


慌てて最低限の礼を取り、エルマも真っ赤な顔で飛び出していった。


「…そりゃ『全員』になるわな…」


とりあえず今の俺では概念はいじれないし、過去のノアーナが心配していることは理解できている。


俺のことを心の底から心配してくれているからこそ…だよな。

確かに焦りすぎた。

勝算は高いが、万が一もありうる。


俺はベッドにネルを優しく寝かせ、藍色の美しい髪を優しくなでた。


「ネル、全部話すよ。思い出したこと。だから力を貸してほしい」

「愛してる。俺はもう、一秒でも離れたくない。ずっと一緒にいたい…愛してる」


気を失っているネルにそっとキスをした。

閉じられている瞳から一粒の涙が零れ落ちた。


※※※※※


「ん…」


しばらく眠り続けていたネルが、眼を開いた。


「ネル、気分はどうっ…!?」


突然ものすごい勢いでネルが抱き着いてきた。


「こうきさま!…こうき様!光喜様!!」


まるで俺がいないんじゃないか?と激しく抱き着いて、両手で俺を感じるように背中に爪を立ててくる。


「こうき…さま…ああ…っ、ひっ…ひっく…ひいいん…ひっく……」


俺はネルを落ち着かせるように、優しく抱きしめ、背中をポンポンとしてやる。


どのくらいそうしていただろうか。

やがてネルは静かに俺から離れると、翡翠のような眼をまるで血を流すかのように、充血させながら、見つめてきた。


「いなくならないでください…もう…いな…く…ぐすっ……」


俺は本当にひどい男だ。


こんなにも世の中で一番大切な人を悲しませてしまった。

俺はもう一度、ネルを優しく抱きしめた。

大切だという、心の底からの『想い』をこめて。


途端に、二人を柔らかい光が包み込む。


ネルは先ほどまでの不安が、光に包まれることで霧散していくのを感じた。

ネルの心が、俺の心と重なった。

どこからともなく声が聞こえる……


「…げんしょの…まほう…根源…魔法………」


ついにたどりついた……


何十万年たってもたどり着かなかった原初の俺が、欲しかったもの。

相手を思う心からの想いが、すべてを覆す大いなる力であることが、証明されたのだ。

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