第12話 現存する脅威
「本来であれば、わたくしと光喜様だけでも問題ないのですが」
ふっと小さなため息をつく。
そんな仕草もめちゃくちゃ可愛い。
「…皆あなた様をお慕いしておりますゆえ、お優しいあなた様はお傍にいることを許可されたのです。ですので、わたくしはあなた様の判断に従っているのですよ?」
先ほどの話に触発されたのか、ネルが腕に抱き着いてきて、顔を赤らめ上目遣いで見つめてきた。
えっと、かつての俺は所かまわずネルと『イチャイチャイチャイチャして、乳繰り合って』いたらしい。
なんて羨ましいっ!…じゃなくて、けっ、けしからん。
「えっと、ネルさんや。俺はその、ノアーナではあるけれど、その、今は光喜なわけで、そのっ、えっと…」
腕に伝わる柔らかい感触に、だんだんと顔に熱が集まってくる。
ネルはふっと小さくため息をつくと、名残り惜しそうに手を放し、
「承知しております。でもわたくしは、いつでも、どんなときでも、あなた様の寵愛を受ける準備はできております。それをお忘れなきよう、お願いいたしますね。」
と、童貞を殺すほどの『愛らしく蠱惑的な微笑み』を浮かべた。
…ああ、一緒の時間が経過するたびにどんどん好きになっていってしまいそうだ。
※※※※※
談笑しているとナハムザートが俺をじっと見つめ、うなずくしぐさをしてネルに話しかけた。
何らかのスキルを使用したみたいだ。
少し「チリッ」とした。
「そうだネル団長。今の大将はどんな感じなんだ?すでに俺よりは強そうだが?」
ネルはその問いかけに、すまし顔で答えた。
「1割程度、いえ、少しずつ魔素が馴染んできていますので、戦闘面では2割程度、というところでしょうか?単純戦闘ではすでに敵はいないかと」
ネルはすっと眼を見開き俺の顔を確認する。
また「チリっ」とした。
「しかし特殊スキルはほぼ戻られていないようですので、総合的には全盛期の数パーセント、といったところでしょう」
えっ?俺、そんなに強いのか?
生まれてこの方喧嘩なんてしたことがないし、この姿になったのは昨日で、もちろん戦闘の経験なんてない。
ナハムザートは深いため息をつく。
「…あいつら、気付いているんだよな」
「…ええ」
あいつら、うん光の一味だろう。
面倒なので『一味』とひとくくりにしてやった。
最初に接触してきたのは、光の眷属第3席の『ルリースフェルト』
何でも天使族の突然変異で光神ルースミールの寵愛を受けている人らしい。
「団長、どうするんだ?奴の権能の回復度合いはまだ3割程度だけど、怪しいんじゃないか?」
奴??
何だ?……3割?
話が見えない。
俺が疑問を感じていると、そっとネルが答えてくれた。
「先刻お話しさせていただいた光神ルースミールの権能のことでございます。あ奴は200年前、その権能を卑怯にもだまし討ちの形であなた様に向け……」
わなわなと震えだす。
「増幅させていたそれは概念を覆し、あなた様をっ!」
突然膨れ上がった殺気により、大気が震えだした。
「っ!失礼いたしました」
「ネル団長…」
「すみません。取り乱しました。もう大丈夫です」
コホンと咳払いし、ネルは再度口を開く。
「現在、わたくしの聖言で数十層にわたり結界を構築しています。とりあえず直接の対峙でなければ問題はないでしょう。今度こそ、光喜様の悲願のため、一刻も早くお力の復元を進めたいところではありますが、光喜様に負担を強いるわけにはまいりません」
…俺の悲願????
「…でも、よ」
ナムハザートは俺に会えて泣いたほどだ。
本当に心配してくれているのだろう。
取れる対策があればとりたいんだろう。
何しろ最初に干渉してきたのは元凶である光の一味だ。
「…200年、ですよ」
膨大な殺気とともに、ネルが底冷えするような、絞り出すような声を上げた。
「っつ…!?」
ナハムザートは全身のうろこが逆立ってしまう。
「どれだけこの日を待ったことか!ノアーナ様を感じられない世界などっ!」
ネルは涙を浮かべ、血が出るほど強く唇を噛みしめていた。
「万が一にも、ノアーナ…光喜様を失うわけにはいかないのです!」
ああ、なんか察してしまった。
ネルは心の底から『ノアーナ』を愛している。
『光喜』ではない本当の俺を。
ちょっと微妙な空気になってしまったが、タイミングよくミナトが顔を出し、昼食ができたと皆を呼びに来た。
普段は念話での伝達らしいがどうやら気が利くタイプらしい。
ネルは慌てた表情で、何度も俺に謝ってきた。
「大丈夫だよ。ノアーナが羨ましいよ。でもいつかは、ね。」
そういうとネルは申し訳なさそうにうつむいた。
でも、俺は聞こえたよ。
(光喜様のこと、心よりお慕いしております…)てね。
念話だけど。
いつになるかわからないけど、絶対に胸を張って言わせてやりたいよね!
俺だって、男だから!
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