第11話 極帝の魔王

ノアーナ・イル・グランギアドール。

極帝の魔王。


『世界のすべてを統べ、概念を創造し、摂理を司る、究極最強の存在』


俺の正式名称らしい。


…なんか厨二感がするのは気のせいだろうか?


恭しく深く礼を取り、ムクは語りだす。

曰く…


「ノアーナ様はそれはそれは大層素晴らしいお方でした。まずはその恐るべきお力!」


ムクは恍惚とした表情で語る。


「敵対する勢力など指先一つで現在・過去・未来にわたって、その存在を消し去ったり、数万の迫りくる古の伝説級の魔物を眼力のみで消し去るなど、いやはや、思い起こしても恐ろしく素晴らしいお力でございました」


遠い目をする。

なにそれ。

やばくね?


……盛ってるよね?


「そしてその慈愛に満ちられた博愛の精神!至高の極致におられる絶対者でありながら、我らのような卑しい下賤のものにまでお慈悲をおかけになられる。ここに集う我らを大いなる愛によってお導きになられた。さらには平民に紛れての奉仕活動や、時には赤子のおしめまで取り換えるなど、私は聞いた時には魂が木っ端みじんになるのではと大変に驚愕したものでございます」


…まじですかー


「そして大きな愛!多くの者たちに分け隔てなく、寵愛を授けておられました。時によっては数人とも閨を共にすることも。いやはや、本当に愛の大きなお方でございました」


…あはは…英雄色を好む?なのかな…

想像がつかん。


「特にこれにおりますネルには、はた目から見ても恥ずかしすぎるほどの寵愛を与え、イチャイチャイチャイチャ♡と。いつ何時も御傍で仲睦まじく乳繰り合っておられ、いや、本当に見ているこっちがこっ恥ずかしい…オホン」


「いや、失礼いたしました…ネルよ…そんなに殺気を向けてはいけませんよ。心臓がはじけ飛んで復活に数十年はかかってしまいそうではありませんか」


ネルが涙ぐんで恥ずかしそうにムクに突っかかっている。

そして、ちらちらと怒ったような拗ねたような表情を俺に向けてくる。


うん、すげー可愛い。


ムクは「ははは…」と若干乾いた笑いをこぼしながら「少し用事を思い出しました」

とか言いながらこの場をあとにした。


…逃げやがった。


因みにムクは、ドッペルゲンガーとかいう種族だったのだが、俺に凄く憧れていて、グースワースに押し掛けた挙句、あまりの根性にそばに置くことを許されたのだとか。


そしたらとんでもなく有能で「政務とか、やってみるか?」と。

さらに「そのままじゃ不便だな」とかいって魔改造を施し、結果物理面ではネルの次に強いらしい。

尚、いろいろな姿に変態できるが「執事といえばイケオジだろ?」と言った、かつての俺の軽い言葉がなぜが呪言扱いに世界に認識されたそうだ。

まあ本人的には非常に気に入っているそうなので…まあ、ね。


「俺からも、いいですかねえ?光喜様?」


近衛騎士団団長代理のナハムザート・レイオンが話の輪に加わってきた。

というか逃げたムクの身代わりらしい。


「俺からはそうだなあ、ノアーナ様、いや大将は強すぎてなあ。近衛なんかいらないレベルでしたよ。いや本当。おかげで俺はひたすら魔物を討伐していて、気が付いたら存在値、種族上限突破しちまったぐらいですからね。まあ、ネル団長の足元にも及びませんけどね。神一柱くらいなら倒す自信はありますが」

「なので大将が『拠点には必要最小限の人員で良い』とかいうから、神どもみたいな大所帯にはなってないんすよ。騎士団、とか言っていますけど、団長と俺しかいないし」


何故かニヤニヤするナハムザート。


「なんでも『格好いいだろ?肩書!』と、大将に名乗ることを強要されましたからねえ」


あー、ソウデスカ…


「まあ俺はこういう感じ、好きでけすけどね。家族っぽいっ?みたいな。ああ、口調は以前あなた様に命令されているんで、不敬!とかは言いっこなしですよ」


あっはっはっはっ、と豪快に笑うナハムザート。

かつての俺が「暇だ。付き合えっ!」とか言って、寿命をなかったことにしたらしい。


…何やってんのよ…俺。


そんなこんなでグースワースには現在、俺、ネル、ムク、ナハムザート、ミナト、各種助手のノニイ、エルマ、カンジーロウ、調理助手のカリン、ミュールス、門番を務めるホワイトドラゴンの双子、ロロンとコロン(彼女らは人型へ変化できるほどの上位ドラゴンらしい)の12名しかいないのだとか。


ていうか過去の俺の評価、高すぎなんですけど!?

この世界はいまだに『ほめ殺し』ってあるのですかね?


因みにグースワースは地方の名前らしく、そのまま拠点の名前にしたらしい。

まあ見た目は要塞って感じで、円形の建物で300メートル四方くらいの大きさだそうだ。

でっか。


魔導(様々な種類があるとのこと。ネルの得意とする『聖言』やコロンたちの使う『竜言魔術』シンプルに『魔法』と呼ばれるものなど)があり、魔物が居て、様々な種族が暮らし、文明的には中世のヨーロッパ程度。


現代人の俺からすると、まさに『ファンタジー』そのものだよね。


ああ、鍛えれば強くなるらしいよ。

存在値というのがレベルの代わりで、種族により上限が設定してあるようだ。


ステータスオープン!とかはないらしい。

…ちょっと残念。

まあ頭の中で認識できるそうだけどね。


『ファルス-ノルン』という名前の星の、アナデゴーラ大陸南西部に位置しているのが、グースワース地方だとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る