あんたの声を聞きながら人を殺すのが癖になってる
床の下
俺の好きなラジオスター
「デイドリーム持てはやした坊やは風船を放つー」
俺は音痴な歌を歌いながらアイポッドに入れたラジオを聞いている。手にはナイフで眼の前にはターゲット。場所はオフィス。周囲に人はいない。俺がそうした。
「あるばいとーがビラを配りーがくせいがはしゃぐごごー、花咲のーブルースさー」
間違った歌詞でも構わない。歌ってのはソウルである。眼の前の男は泣いている。赦しを懇願している。でも聞き取れない。爆音で耳が焼けて聞こえないよ!!!
「迷子になった覚えはない、スピードに乗ってる実感もない!!!」
俺はナイフで差しまくる。最高にアップテンポの曲は俺の最高のメロディだった。既に時代遅れのヒットチャートだけど俺にとってはこれが最新なのだ。
頭を振りながら滅茶苦茶に相手を殺す。テンションが最高に高まった時にあの声が聞こえる。これは録音。同じことの繰り返し。
「はい、聞いて貰いました。流石、自称殺し屋さんのセレクトですね。名曲揃いだ。ではお便りを紹介します…」
俺の選んだ曲をあの人が選んでくれたのだ。名前・君島遊。俺の好きなラジオスターである。ラジオを何本も持っていて、俺のペンネームを何度も読んでくれた。俺の神様だった。話した事は無いけど。
「ってか、また自称殺し屋さんからメール来てますよ。こりませんね、あなたも。はい、私は今日も悩んでます。職業があまり合ってない気がします。転職したほうがいいですか?もー、毎回それじゃないですか。もう転職したほうがいいですって!!」
俺とは違ってラジオをするぐらいだから声が良くてCDだって出していた。売れなかったけど全部持っている。ちょっと演技がかった喋りは俳優だからだろうな。あまり売れてなかったけど。
「でもやる気を出して今の自分の役目を全うする。それが大事だと思いますよ」
俺は殺した男の死体を運びながら全くその通りと頷いていた。あんたは俺の神でラジオの収録スタジオにだっていったんだぜといい気になってしまう。
茶髪でロン毛で如何にも女受けしそうなメロな顔立ちで身長が高くて最高にカッコよくて、世の中の俳優とは違って個性がない人だった。
「僕も俳優、声優、ラジオスターとして頑張っていきます。自称殺し屋さん、一緒に頑張りましょう」
この放送を最後に君島遊は自殺した。俺は未だにあんたの応援を聞きながら職業を全うしてる。車に載せて俺はイヤホンを外す。そして持ってたアイポッドを車に繋げる。聞くのは当然、あの人のラジオ、俺のラジオスター。
「君島遊のラジオ日和!さあ、始まりました、では早速熱烈なファンでお馴染みのこの曲、くるりで…」
流れ出したその曲はいつも聞き慣れたそれだった。俺は頭を振りながらあの人を思って歌い続ける。
「心のトカレフに、こめて、ぶっとばす!!」
曲の間に挟まるあの人の声。そしてまた頭を振る。ずっとこれでずっとこうやって生きていくんだ。車は高速に入る。ぽつぽつとオレンジ色の照明が線になっていく。アクセルは出来る限り全力で。いつ死んでも良いように。
「あーれなに?わかんないよー、それーなにーあまーい理想におちるー」
もしここで警察に捕まったらドラマチックだろなと思ってしまう。でもそれはありえない。この時間は大丈夫とちゃんと計算に入れている。俺は破滅を願いながら生き延びる方を選んでる。あの人は死ねたのに俺は生きている。泣きたくなる。
「てきとうなー闇の中、ミージカルの幕があがる!!」
歌いながら俺は指定された場所に降りる。いつも通りそこで死体の処分をする。そして全部問題なく終わると俺はイヤホンを外して連絡をいれる。
「…はい、終わりました。はい、では次の現場に…はい、了解です」
…しばし仕事モードで疲れてしまった。俺はまたイヤホンをつける。聞くのは死んだあの人の時代遅れのヒットチャートを紹介するラジオ。でも、俺にはそれが最新であんただけがラジオスターなんだ。
「ゆめのそとへー連れてって、この世はひーかりー映すだけー」
音痴な俺は未だにあんたがいいねっていってくれたおすすめを歌い続けてるんだ。それだけが俺の救いなんだ。
でもそれでも生きなきゃいけない。俺はまた同じことを繰り返す。
「デイドリーム持てはやした坊やは風船を放つー」
あんたの声を聞きながら人を殺すのが癖になってる 床の下 @iikuni98
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