怪の雑多煮 2

この人誰で・ショウ！

『この人誰で・ショウ！』という

番組をご存知だろうか。

七十歳近くなるハヤシさんが

小学生の時に見たという

バラエティー番組である。

ひとりでお留守番している時に

カラーテレビをつけると

その番組が始まったそうだ。

そこには、たくさんの観客と

七三分けの司会がいて

ゲストに大人気演歌歌手の椎田昌夫がいた。

『みなさん、ごきげんよう。

この人誰で・ショウ！のお時間です。司会進行は私、◼◼◼が担当します。』

妙な歪みがあって名前が聞き取れなかったそうだが、アナウンサーのように声が通る男だった。

椎田昌夫はにこにことしている。

司会は左手にある、試着室のようなものを指差した。

白いカーテンが閉められたその中に、

人影がある。

『誰か分かりますか？』

『ええー。ムツコ先生かな。』

『とぼけちゃってー。フィアンセでは？』

ここで笑いが起こる。

椎田は愛妻家なのだ。

そんなことはあり得ない。

『それでは！ご登場ください！』

司会者が声をあげるとカーテンが開いた。

同時にどさっと何かが落ちた。

先ほどまで人影があったのに、ボックスの中には誰もいない。

ざわつく会場。

司会は不安げに近づいて中を覗いた。

『アッ！これは！』

司会は何かを拾い上げる。

それは黄色い水玉柄のワンピースだった。

『う、うああああ！』

それを見た椎田が発狂し泡を吹いた。

突然、画面にカラーバーが映され

ピーという耳障りな音が鳴り続けた。

ここで、ハヤシさんは怖くなりテレビの電源を消してしまった。

ハヤシさんは夢かと思ったのだが

その後、ゾッとすることが起きた。

日本レコード大賞も授賞した大人気歌手の椎田昌夫。

この番組を見た直後から姿を見なくなった。

そればかりか、彼のことを知る人がハヤシさん以外存在しなくなったのだ。

これが、『この人誰で・ショウ！』の目撃談である。

番組の情報は調べても出てこない。

もちろん、椎田昌夫なんて歌手は存在しない。

気になるなら調べてみるといい。

椎田昌夫の情報なんてどこにもないのだから。