放置自転車
日が照りつける茹だるような熱さの中で、
ハヤトさんがコンビニにアイスを買いに行った
帰りである。
後ろから追い越していった自転車を見て
思わず吹き出した。
自転車に乗っていたのは黒いTシャツを着た
青年だったのだが、
肩まで布がまくれており、背中が丸見えだったのだ。
いくら暑いからといってそこまで捲るのかと
笑ってしまったのである。
歩行者信号が赤くなり停まった自転車を見て、ハヤトさんは違和感を覚えた。
もし、Tシャツを捲って背中を
肩まで上がったTシャツ、背中の肌色、ズボンの端という順で見えるはずなのだが、
その人は、肩まで上がったTシャツ、背中の肌色、Tシャツの裾、ズボンの端という風に見える。
背中のところだけくりぬかれたTシャツなのか、とも思ったが、あまりにも珍妙すぎる。
ハヤトが首をひねっていると、青年は交差する車道の信号を見ようと、少し上体を傾けて斜め上上を見上げた。
そうすると、青年の身体の側面がハヤトに向く形になるのだが、彼はそれを見て絶句してしまったのである。
青年の脇から腹にかけて、青年のものではない別の人間の腕が回されぐっとしがみついている。
てっきり、青年の背中かと思っていたそれは
青年のものではなかった。
体毛一つない真っ白な肌の、胸から上だけの人間が、後ろからおぶさるようにして青年の脇から腹にかけて腕を回し、しがみついている。
それは、ズッズズズ…と青年の中へと潜り込んでいき、とうとう姿が見えなくなった。
歩行者信号が青に点灯した。
しかし、青年は何故か自転車から降りてその場に残し、ハヤトさんの目の前を横切る形で歩き去った。
無地の黒いTシャツを着た青年の後ろ姿が見えなくなるのを待たずして、ハヤトは横断歩道を走り抜けた。
青年が向かっていた先は、大きな川にかかる1本の橋で、地元では有名な飛び下り自殺のスポットだった。
青年の遺体が川で見つかったのは、それから数日の事だった。
交差点には何故か、度々放置自転車が
置かれる。
その数日後には必ず、川に飛び下りた人が見つかるそうだ。
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