木の枝を折る


マキタさんがまだサラリーマンとして

働いていた頃だ。


ビアガーデンで羽目をはずし

すっかり泥酔して、真夜中道すがら尿意を

催した。


「ねえ。」


隣から声をかけられて見ると

にこにこと笑う水玉柄のワンピースを

着た坊ちゃんカットの女性がいた。


「そこさ、切っといてね。」


女性から指摘されて始めて気がついたのだが

マキタさんは木の根本に粗相をしていた。


彼女が指差したのは目の前に伸びている細い木の枝だった。


マキタさんは何故か、

彼女の指示にしたがってその木の枝を

へし折った。


「うん、これでおぼえれた。」


そう笑って女はスゥーと背景に馴染むように消えた。



マキタさんはその翌日、不慮の事故に巻き込まれて利き腕を失った。


その翌月には腎臓を壊し、慢性的な腎不全を抱えることとなった。


その木は、神社だとかそんな

特別な場所に生えているわけではない

ただの街路樹だったという。



現在、街路樹は区画整理によって斬り倒された

らしいが、

その木だけは何故か不自然に残されているそうだ。

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