閉じた扉
心霊スポットに訪れるのが趣味のKという男がいた。
その日も廃ビル内を一通り回ったが何もなく、肩を落として唯一の出入り口である裏口へと向かった。
管理人から借りた裏口用の鍵をポケットの中で鳴らしながら歩く。
ふと、Kは別の音が混じっていることに気がついた。
ペッタ ペッタ
背後から聞こえる音は、明らかに裸足で歩く人の音である。
Kは、後ろの何かに気づかれないようゆっくりと振り返った。
足音が止まる。
自分が歩いてきた廊下の、一番奥に全身が灰色の、もやのような影がぼんやりと立っていた。
それは、体をぶるっと震わせて凄まじい速さでこちらへと走ってきた。
「うわ!」
Kは悲鳴を上げ振り向き、手足をちぎれんばかりに動かして、裏口の扉へ飛び付き開け放ち、自分の腕を挟む勢いでドアノブを押した。
閉じる直前、2センチほどの扉の隙間から、目前に迫った灰色の影がこちらに手を伸ばしているのが見え、Kは一層手に力を込めて扉を閉じた。
ドンドン!
鉄製の扉に人の手がぶつけられる生々しい音が響き続ける。
Kはこれ以上閉まるはずがない扉を両手で押さえながら
もしかしたら自分は生きている人間を閉じ込めているのではと錯覚し、いや、そんなはずはないと頭を振った。
その時だった。
「あ、ぼく、ゆうれいじゃん。あははは。」
そう、低い男の声が聞こえて、辺りは静寂に包まれた。
Kは、震える手で鍵を差し込んだ。
彼が規律を守る人間だったからではない。
中にいるものを外に出したくないという恐れからだった、が。
回しながらKはあることに気がつく。
(“ゆうれい”なら
扉をすり抜けられるか)
Kは頭に浮かんだ考えを否定できず、しばらく立ち尽くした。
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