ここ


夜中に突然金縛りにあった。

五十年も生きてきたがこんな経験は

初めてで頭の中が真っ白になった。


声も出せず、隣で眠る妻に助けを求める

ことが出来ない。


ふと、目の前の本棚に白い紙がひらついているのが見えた。


いや、紙ではない。

人の手が本と本の隙間から出て

背表紙をペタペタと触っている。


そして、1冊の本を指先で掴んで

床に引き倒し、手はふっと消えた。

そこで意識が途絶えた。


翌朝、床の上で開いている本があった。


夢でなかったことに驚愕し

恐る恐る近づくと、それは自分が今住んでいる

地域の地図で、開かれていたのは大きな湖があるD市の縮図のページだった。


妻と朝食を食べながら見ていたニュースが

数ヵ月前から行方不明になっていた

女性が遺体となって発見されたと報道した。


彼女が見つかったのはD市の湖の底であった。

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