第12話 人をダメにするベッドです

「すやすやすや・・・」


マユミは微睡んでいた・・・器用な事に寝言で「すやすや」と言っている。

柔らかなふかふかが全身を包み込んでいる・・・とても心地が良い・・・このままいつまでも寝れそうだった。

先程からゆっさゆっさと身体が揺すられるのも、まるでハンモックのようで・・・


「マユミ、起きなさい・・・もう、いつまで寝ているの」

「むにゃむにゃ・・・あと5分・・・」


自分に起きるように促す謎の声に、定番の台詞で返すマユミだったが・・・


「そう・・・あと5分ね、わかったわ」


・・・その返事と共にピタッと揺れが収まった。

気にせずそのまま夢の中へと旅立とうとするマユミ・・・


「5分経ったわよ、えいっ」


無慈悲に布団が捲られる・・・やわらかなふかふかがマユミの手を離れていく。

再び取り戻そうと伸ばしたマユミの手を別の手がしっかりと掴み、そのままマユミを引っ張り起こした。

ゆっくりと開く瞼・・・綺麗な金色がマユミの視界に入ってきた・・・


「マユミ、おはよう」

「ええと・・・おはよう、ナーデ」


徐々に意識がはっきりしてくる。

ここは異世界、今マユミの目の前にいるのはお友達になったばかりのエレスナーデお嬢様。

そしてさっきまでマユミが寝ていたのは、お嬢様のふかふかベットだった。


(あれ・・・ナーデの部屋?・・・なんで私こんな所で・・・)


・・・記憶を手繰り寄せる。


(たしか・・・ナーデとお友達になった勢いで、このままここでお茶会をしようってなって・・・)


そこから先が覚えていない・・・何があったのだろう。

いくら考えてもわからないので、目の前の当事者に聞いてみることにした。


「ねぇナーデ、昨日のお茶会ってどうなったんだっけ?」

「マユミが眠そうにしてたから、お開きにしてそのまま寝かせたけど・・・」

「そうなんだ・・・ごめん」

「こちらこそごめんなさい、マユミは色々あって疲れていたわよね、今はどう?」


たしかに昨日は色々あり過ぎた・・・森で狼に襲われたり、屋敷で追い出されそうになったり・・・

つくづく異世界に来たという事を実感するマユミであった。


「うん大丈夫、ナーデのベッドはすごく快適だったし・・・こんなに気持ちよく寝れたのは初めてかも」


お煎餅のような布団で毎日2~3時間の睡眠をしていた頃とは大違いである。

そしてエレスナーデのベッドはさすがと言うべきか・・・つい寝過ぎてしまうのも仕方ない。


「そう・・・ならマユミもこの部屋を一緒に使う?」

「いやいや、それはさすがに悪いよ・・・でも、今夜も来ていいかな?」

「ええ、歓迎するわ」


さて、改めてエレスナーデの部屋を観察する・・・

まず広い、たしかに二人で一緒に使っても問題ない広さだ。

目を引くのはやはりふかふかの天蓋付きベッド、これも大きい、二人でくっつかずに寝れる大きさだ。

あとは本棚とアンティーク調の家具の数々・・・物が色々あるのに広さを感じるのはさすがである。


(やっぱり本物のお嬢様はすごいなー・・・なによりあのベッドの気持ちよさは反則だよ)


機会があればまた使わせてもらおう・・・そう決意するマユミだった。

エレスナーデはといえば・・・朝の身だしなみタイムだ。

鏡を前に髪をとかし、よくわからない化粧品と思われるものを手にする・・・何年もメイドなしでやってきただけあって手際が良い。

朝も早く食べ物のバイトだからと、ほぼノーメイクで家を出る自分とは大違いである。

マユミが関心して見ていると・・・


「ほらマユミもやってあげるから来なさい」

「えっいいの?」


せっかくだから一つでも覚えよう、と意気込むマユミだったが・・・

エレスナーデに誘われるまま鏡の前へと来た時、そんな些細な事は一瞬で吹き飛んでしまった。


(え・・・誰これ・・・)


もちろん鏡に映る自分である・・・

鏡に異常はない、お嬢様用の高級品だ・・・綺麗な鏡面を保っている。


(うわほっそい、ホント誰?コレ私でいいの?)


これまでマユミは少女時代の自分の姿そのままのつもりでいた・・・

まぁたしかにそれにしてはちょっと、手足が細いような気はしていたのだが・・・


少女時代の自分と比較して全体的に細く華奢な印象を受ける。

抱き締めると折れてしまいそう、なんていう言葉があるが、簡単にポッキリと折れてしまいそうだ。

こんなのが狼に襲われてよく無事に済んだものである・・・


慣れ親しんだ感のある黒髪はそのまま、さすがに顔つきはそこまで違わない・・・

と思っていたら、エレスナーデの手によって美少女が完成していた。


「はい、綺麗になったわ」

「この美少女は誰デスカ?」

「わかった?お化粧は大事なのよ」

「ま、毎日お願いします!」


やっぱりこの部屋でエレスナーデと一緒に暮らした方が良いんじゃないかと思うマユミだった。



・・・お化粧の後はお着替えである。

エレスナーデが13歳の頃に着ていたお古がちょうど良いサイズだった。

なので、今の自分は13歳だろうとマユミは判断した(※小柄で華奢な「15歳相当」です)


(でも、この体型にぴったりとか13歳のナーデもすごいというか・・・さすがというか)


自力では着れないのでエレスナーデに着させてもらいながら、当時のエレスナーデを想像する。


(私もあと何年かしたら、今のナーデみたいに育つのかな・・・)(※育ちません)


そんな事を考えていたら着替えが終わった、やはりエレスナーデは器用だ。


「すごい、私までお嬢様になったみたい」

「そうね、どこに出しても恥ずかしくないわ」


エレスナーデも満足げだ。

続いてエレスナーデ自身の着替えを始める・・・

・・・取り出した服はマユミが着せてもらった物より複雑そうに見えた。


「うわぁ・・・そんなの一人で着れるの?」

「まぁ・・・これくらいなら」


先程の化粧といい、エレスナーデは魔法使いか何かか・・・

そんな風に思っていたマユミだが、次の瞬間、それが真実だったことを知る。


『・・・氷よ踊れ』

「え・・・」


エレスナーデの周囲に氷の塊のようなものが浮かぶ・・・その数、8つ。

それらは器用にエレスナーデの服の端を引っ掛け、あるいは2つで挟みこみ・・・

氷達が次々と服をエレスナーデに着せていく・・・それはまるで・・・


(これアニメで見たことある、変身シーンだ)


「ななななナーデ!ナーデって・・・」

「ふふふ・・・」


目の前で起こった事に驚くマユミを見て、満足そうに微笑むエレスナーデ。

・・・エレスナーデには魔術の才があるのだ。

そして、エレスナーデは・・・


「ナーデって魔法少女だったんだね!」

「魔法・・・少女?」


・・・聞き慣れない言葉に首を傾げた。

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