第2話 異世界ではロリ婚は合法です
鬱蒼とした森の中、血に飢えた獣の咆哮が響き渡る・・・
___魔獣ファフニール
魔王によって生み出された禍々しき存在でありながら、狼のような優美さをもつ魔獣。
その深紅の双眸、そこに映る者はただ喰らい尽されるだけの哀れな獲物に過ぎない・・・
ひとえに魔獣と言っても、その強さは種によってだいぶ異なる。
魔力にあてられた野生動物が突然変異したものもあれば、魔獣同士を掛け合わせて作られる魔獣もいる。
中でも魔王によって直接生み出された魔獣ともなればトップクラスの力を持った化け物なのだ。
転生した異世界で初めて出会う強大な魔物・・・
そしてアキツグの後ろには幼い少女・・・なぜかは知らないが、この少女は魔獣に狙われているようだった・・・魔獣を彼女の方に行かせるわけにはいかない。
だが転生の折に常人を大幅に超える身体能力を授かっている「勇者」アキツグをもってしてもファフニールが相手では防戦一方であった。
(ここは俺に任せて逃げろ、と言うべきか・・・でも小さい女の子が一人、逃げた先で別の魔物に襲われたら・・・やっぱり俺がなんとかするしかないか・・・)
・・・だが・・・
「くっ、俺のエクスカリバーがっ!」
始めの村で購入して以来、ずっと愛用していた銅の剣「エクスカリバー」はファフニールの牙によってその短い生涯に幕を閉じた。
これでアキツグは丸腰、アキツグには格闘技の知識がないこともないが、それはこの魔獣相手に通用するとは思えない。
(ここまでか・・・せめてあの子だけでも・・・)
逃げろ・・・そう叫ぶべく後ろを振り返ったアキツグ、少女と目が合った。
幼いながらも強い意志の力を感じるその瞳に、吸い込まれそうになる・・・
その少女は、一点を指差しながらアキツグに言った。
「勇者様、その聖剣を抜いてください」
「聖剣?」
彼女が示す先には赤錆びた鉄の棒とでも呼ぶべきものが突き立っているだけだ。
言われてみれば確かに、剣の形をしているような気がしなくもないが・・・
「くっ・・・こんなものでどう戦えって言うんだよ!」
少女に言われた通りに「聖剣」を引き抜くアキツグ・・・抵抗なくあっさりと抜けた。
どうやら伝説の勇者であるらしい自分が抜けば、剣が真の姿を取り戻すのではないかと一瞬期待したが・・・特に変化はない。
容赦なく襲ってくるファフニールの鋭い爪を赤錆びた剣で受け流す・・・勢いを逸らしてもなお重たい衝撃・・・こんな棒きれでは、いつ折れてもおかしくはない。
だが少女は、満足そうな表情を浮かべていた。
「やはり貴方が勇者様なのですね・・・」
そして少女は一歩踏み出す、魔獣と対峙するアキツグの方へ・・・
「おい、危ないからこっちに来るな・・・ってお前!!」
そのまままっすぐ駆け出し、アキツグに飛びついた。
その両手は聖剣を持つアキツグの右手に添えられ・・・ているのだが、身長差のせいでアキツグの右腕にぶら下がっているかのようだ。
「私は聖剣の巫女ミリ・マイア、選ばれし勇者様と聖剣の巫女が共にある時、聖剣は真の姿を取り戻すのです」
聖剣を持つアキツグの右手を少女の両手がしっかりと包み込む・・・
ピシリ・・・刀身がひび割れると同時に、そこから溢れる閃光・・・くしくも今、アキツグ達に飛びかかろうとした魔獣が光に眼を焼かれ、のたうち回る・・・
「なんだこれ・・・あったかい・・・」
「ああ・・・感じます、勇者様の力を・・・さぁ今こそ・・・」
少女の両手が、そして手の中の剣が熱をもつ・・・
ひび割れは網目のように剣の全体へ広がっていく・・・そして光の爆発・・・表面を覆っていた赤錆が一気に消し飛んでいく・・・
「今こそ古よりの契約の時・・・契気入刀!」
アキツグと少女・・・聖剣の巫女ミリ・マイア、二人の気が混ざり合い聖剣へと注がれる。
今、二人の前にその真の姿を現したそれは、まごうことなき「聖剣」であった・・・
「さぁ勇者様、私達の・・・」
「ああ、俺達の・・・初めての共同作業だ!」
剣の持ち手に少女の手を重ねたまま、ファフニールへと振り下ろし・・・聖剣に込められた気を解き放つ。
聖剣の光に眼を焼かれた魔獣にそれを避けることは出来なかった・・・
・・・・・・
・・・
「うん、やっぱりここよね、第一話のクライマックスにしてミリーちゃん最大の見せ場」
届いた台本に軽く目を通し、自分の演じるミリ・マイア(愛称:ミリー)にとって重要だと感じた戦闘シーンを何度も読み返す。
もっと前の方・・・勇者との出会いのシーンの所に「触手に襲われる(アドリブ)」と書かれている件については今は考えない事にした。
「基本ロリキャラと言っても、やっぱりここは大人びた感じで作った方が良いわね・・・私は聖剣の巫女ミリ・マイア・・・もうちょい高めか・・・私は聖剣の巫女・・・」
初主演アニメの第一話
その台本を読み、どんな作品になるのか、自分はどう演じていくのか・・・アレコレ考える。
新人声優にとって最も楽しい至福の時間・・・だが現実は非情である。
PiPiPiPiPiPi・・・
目覚まし時計のアラームが鳴り響く・・・もう「起きる」時間だ。
「あ、寝るの忘れてた・・・」
時刻は4時・・・早朝のパン屋のバイトの時間が迫っていた。
その日に売るパンの半分ほどの量の生地をこねて成形し、イースト菌を発酵させるためのマシンへと収納するのが声優、山田真弓の朝の仕事である。
これが思った以上の力仕事で、最近二の腕にたくましい筋肉がついてきたのが彼女の悩みの種である。
「はぁ・・・がんばろう」
今日はいつもの(10本入り748円)よりちょっと高い3本500円の栄養ドリンクをグイッと飲み干し、髪を纏める。
来月からはスケジュール確保のためにだいぶ休みを入れてある。
その全てがレコーディングをするわけではない、大半が予備日として空けておくように指示されたものだ。
もちろんその日に何もない、と確定すればバイトに入れないかどうか相談してみるつもりだが・・・
「・・・どっかで一度、ゆっくり休んでおくのもいいかな・・・」
せっかくのメインヒロイン、途中で倒れて降板なんてしたくない。
(一番最初のオフ日はそのまま休もう)
そう心に決める真弓だった・・・
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