第五章 秋は深まる

 10月になった、無事前期の単位はとれていた、まぁ、「良」だったのだけれども…。

 今日から後期の講義が始まる。いつも通りの時間に喫茶店でモーニングセットを食べる、ルーティンになっている、先週までしてなかったのは、気にしない。

「ホントにキミはモーニングが好きだねぇ…。」

 彼女が僕の正面に座る、2ヶ月ぶりか…、少し日に灼けたか?

「今日から、また中国語やるぞ〜!」

 今日も彼女は元気なようだ、よく喋る。夏休み中の出来事をペラペラと話してくれた。僕は何か日常が帰ってきたような、懐かしいような気がした。

 気温も下がり、彼女の注文がアイスミルクティーからホットミルクティーに変わって数週間経った頃、彼女が来なかった。講義の教室にも来なかった…。隣の席が空いているのは、この講義では初めてだった。別にどうということはなかったが。

 次の週、僕はいつも通り喫茶店でモーニングセットを頼んで、普段は読まないスポーツ新聞を読むともなしに眺めていた。

「先週はごめんね…。」

 彼女が来た、心なしか元気がないようだ。

 彼女はいつものように僕の正面に座るとミルクティーを注文したが、やはり何か変だった。

「あのさ…」

 沈んだ声で彼女は話し始めた。

「別れたんだ…、浮気されてた…」

 僕はもう少しでコーヒーを吹き出すところだった。朝からなんて話を始めるんだ、確かに元気がないように見えたが、そんなことになってるとは全く思わなかった。

「先々週の日曜日に別れて、昨日まで家から出られなかったの…。でも今日はキミが話聞いてくれると思って…。」

 彼女の声はいつもと全く違って、か細かった。僕は黙って頷いた。

 彼女の話はつっかえつっかえだったし、途中で涙声になったりもしたが、最後まで話しきった。僕は黙って聞いていた。

 彼女が話し終わったとき、もう昼を過ぎていた。僕も途中で遮るのは良くないと時計を見ないでいた。今日の講義は自主休講だ。

 彼女は一通り話して、完全に冷めたミルクティーに口をつけた。僕もコーヒーを飲もうと思ったが、もう残ってなかった。仕方なく、氷の溶け切った水を飲んだ。

「ありがとう、誰かに聞いて欲しかったんだ…。」

 か細い声で彼女はそう言って笑った。とても悲しい笑顔だった。僕は何も言えず、彼女を見つめるしかできなかった。

「じゃあ、帰るね…。」

「何て言っていいかわからないけど、元気出して…。」

 僕は必死に考えたが、出てきた言葉はこれだった。

 彼女は悲しい笑顔のまま、レジに向かった、僕はその背中に声をかけた。

「来週もここにいるから、待ってるから…。」

 彼女は向こうを向いたまま、右手を軽く振った、どういう意味なのかはわからなかったが、彼女は会計を済ませ店から出ていった。

 残された僕は、ただ彼女が出ていったドアを見つめるしかできなかった。

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