第8話「魔力の味はキスの味」
俺はエルンの事情も気になるが、どこまで深入りしていいのかも分からなかったし、それよりも優先すべきことがあったから、聞く前にやるべきことを先にすることにした。
やるべきとこととはズバリ、魔術の強さの調整だ。
このまま地面をマグマにしながら戦っていたら流石にまずい。
第一層がぶっ壊れてしまう。
なので敵に接敵する前に魔術をどうにかしなきゃならないんだが……。
やり方が分からない。
出力口をもっと絞る必要があるのか、はたまたやり方を間違えているのか。
しかし出力口は十分に絞ったつもりだった。
ってことは……もしかして魔力の質か?
……あり得る。
魔力に量以外に質という概念があれば、想定以上の魔術の威力が出たことにも説明がつく。
しかしゲーム時代にそんなパラメーターはなかったような……。
「あのー、アベルさん? 大丈夫ですか? 何やら考え込んでるみたいですが」
「その通り考え込んでるんだ。気にしないでくれ」
「あっ、はい。すいません」
エルンの言葉にそう返して、俺は再び思考の底に沈んでいく。
しかし、気がついてしまったら検証してみたくなるよな。
質、質ね……。
どうやって検証するかなんだが……。
魔力を取り入れる時に不純物を混ぜるとか?
まずはどうやって取り込んでるかから考えないとな。
基本人間が物質を取り入れるのは口からだよな?
じゃあやっぱり呼吸からか。
空気中に魔力が含まれているのだと仮定して……空気に不純物を混ぜる?
いや、どうやって混ぜる?
それならいっそ……
「なあ、エルン。人工呼吸してくれないか?」
「…………はあ!? ど、ど、ど、どういうことですか!? 意味わからないんですけど!」
おそらくエルンの体内の魔力は高純度の魔力を溜められない。
魔力胆が鍛えられてないからな。
そのエルンから直接質の低い魔力を取り込めれば威力を抑えられるのでは?
そう思ったのだ。
「なんで初キスがこんな適当な感じなんですか……。雰囲気もへったくれもないじゃないですか……」
「いや、これはキスじゃなくて人工呼吸だ」
「そんな詭弁が通じるとでも思ったんですか!? 唇と唇が合わさったらキスなんです! それを口付けって言うんですよ!」
「もしかしてエルンって性欲お化けか?」
「なんてこと言うんですか!? わたしが悪いんですか!? そんなことないですよね!? いやいや、そこで首を傾げないでください、お願いしますから!」
叫んで、ゼェゼェと荒い息をつくエルン。
忙しいやつだな。
「とにかく人工呼吸だ」
「ああもう! 分かりましたよ! やればいいんでしょ、やれば!」
ヤケになったエルンは、俺の唇に自分の唇を近づけてきた。
よし、これで検証ができる。
魔術の扱いがわかれば、もっと生存に近づくはずだからな。
もっと頑張らないとな。
そして唇が合わさり、ふうふうとエルンから空気が送り込まれてくる。
おお! 魔力胆が反応してる気がする!
質の悪い魔力が送り込まれてる感じがするぞ!
しばらくして。
「…………」
人工呼吸を終えたエルンは耳まで真っ赤にして蹲っていた。
しかしそれよりも魔術だ。
俺はエルンからもらった質の悪い魔力を使って、魔術を行使してみることにした。
「ライトニング・ランス!」
先ほどと同じ魔術だ。
威力も全て同じにしてある。
そして結果は——。
「検証成功だ! やっぱり弱くなってる!」
先ほどの高威力ではなく、イメージ通りの威力になっていた。
良かった良かった。
俺はほっと息をついてエルンにお礼を言った。
「ありがとな、エルン」
「それはどっちの意味でですか……。わたしの純情に対する感謝ですか……? ええ、違いますよね、分かってますよそれくらい」
純情?
なんのことだ?
まあいいか。
気にしたら負けだ。
「さて! もう一度人工呼吸だ! エルン!」
「…………なんでですか!? もう十分じゃないですか!」
「え? いや、これ毎度人工呼吸で魔力を補給しなきゃいけないみたいでさ」
「そんなぁ……。ってことは戦うごとに魔力を補給しなきゃいけなってことですよね……」
俺がきょとんと言うと、エルンはがっくしと膝をつき項垂れるのだった。
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