第7話「アベル君のツンデレ」
俺はやらかした跡地から離れながら考える。
あの威力の攻撃だと使い勝手が悪すぎる。
かと言ってもっと絞るってなると、さらに繊細な調整が求められそうだ。
魔力の出力口の操作は筋肉を使う時と似ている。
スポーツでは筋肉ばかりあってもダメで、柔軟性や繊細さも時には必要になってくるのだ。
「アベルさん。アベルさん。わたしも第二層まで連れて行ってください!」
確かに今までは出力口を広げること、保有量を増やすことばかり考えていた。
だがこれからは訓練の方向性を変え、出力口の柔軟性——要するに魔力操作の繊細さを極めていく方向にしよう。
これは生存を賭けた訓練なのだ。
絶対に妥協は許されない。
そう認識し直して、俺は決意を新たにする。
「あのー、聞いてますかー? ねー、聞こえてますー?」
ストーリーの全貌は全く思い出せない。
しかし自分の勘に従っていけば、大体なんとかなるという予感もあった。
そして今、俺の勘は探索者コースに行くことを勧めてきている。
そこにいければ、何かしら生存に対する大きな変化がある気がするんだよな。
「むぅ……! 無視しないでくださいー! 聞こえてるなら返事してくださいー! おにー! あくまー!」
あ、あとはこの少女が人に寄生して二層まで行こうとしていることも、なんとなく勘でわかるな。
「俺は努力もせず力もないくせに他人に頼ろうとする奴が一番嫌いだ」
「きっ、きらい……。いいじゃないですか、ちょっとくらい二層に連れて行ってくれても!」
「嫌だ」
「なんでですか! くそー、なかなか手強いですね!」
こいつ、俺が食べないってことがわかるや否やかなり図々しくなったな。
しかし俺はゲームでもキャリーとか姫プみたいなのが一番嫌いだった。
だから自分でそういうことをするわけにはいかないのだ。
と言うわけで、俺は迷彩魔術を使い、姿を消して立ち去ることにした。
「って、あれ!? 突然消えましたよ! どこ行っちゃったんですか! おーい! おおーい!」
そして俺はそのまま離れようとして——
ズキンッ!
突然頭に締め付けられるような痛みを覚えた。
なんだ、これ……?
胸の奥もザワザワと騒めき立つ。
ものすごい違和感だ。
これは、もしかして。
俺が強烈な違和感に苛まれていると、エルンは泣き出してしまった。
「ばかー! アベルさんのばかー! なんでわたしを置いてっちゃんですか……。置いてかないでくださいよぉ……もう一人はいや……」
俺は迷彩魔術を解いた。
なるほど。
違和感はこれだったのか。
魔術を解いて姿を見せた途端、その強烈な違和感は消え去った。
ゲームでエルンは間違いなく悪役だった。
しかし現状、悪役には見えない。
悪役に堕ちるきっかけがあったのだろう。
そしてその、二層へ行くということが、悪役に堕ちることに繋がるのではないかと。
俺が姿を見せるとエルンの表情はぱあっと明るくなった。
「アベルさん! どこ行ってたんですか、もー! 探したんですからね! いやぁ、見捨てられたかと思いましたよ! でもわたし、アベルさんのこと信じてたんで! 良かったです、信じてて! それじゃあ早速、二層に行きましょうか! ほら、早く!」
不安をかき消すように、エルンは捲し立ててそう言った。
俺は思わずムスッした表情で言った。
「はあ……心配性なヤツめ」
「べ、別に心配なんかしてませんでしたけどね!」
「そうかい。……それじゃあ早く二層いくぞ」
俺が言うとエルンは固まった。
そして恐る恐る尋ねてくる。
「いいんですか?」
「ああ、そう言っている。ついてきたくないなら構わないが」
「いえ! ついていきます! どこまでもついていきます!」
俺が言うと、慌てたようにエルンは口を開いた。
そして嬉しそうに俺の斜め後ろに立つ。
「……なんでその立ち位置なんだ」
「いえ、わたしがアベルさんと隣に立つなんて、そんな大層なことできませんよ!」
「大層でもなんでもないだろ。ほら、横に立て」
「えー、なんでですかー」
「なんでもだ。ああもう、こっちこい。……うん、この方が話しやすくていいな」
俺はエルンの右腕を掴むと無理やり隣に立たせた。
バカみたいに俺に気を遣ったのかと思ったのだ。
変に気を遣われるのも好きじゃない。
だから無理やり引っ張って隣に立たせたのだが——。
しかしエルンは嬉しそうな恥ずかしそうな感じで俯いた。
「……なんだ、照れてるだけか。変に気を遣って損したな」
「って! 損したってなんですか! いいじゃないですか、ちょっとくらいわたしに気を遣ってくれても!」
「はあ? なんで照れてるだけのやつに、気を遣わないといけないんだ」
「そういうもんなんですー! 女の子ってそういうものなんですー! モテないですよね、絶対アベルさんって!」
「……いや、モテるとか興味ないし」
嘘だ。
興味はめちゃくちゃある。
今は生き残る方が大事ってだけで、いつでもモテたいとは思っている。
だが俺は強がってしまった。
そしてその強がりはエルンにバレてしまったみたいで——。
「アベルさん、強がるのはよくないですよ! 絶対に興味ありますよね!?」
「……そんなことない」
「ふふふっ、アベルさんって可愛いところあるんですね! これが世に言うツンデレってやつですか!」
からかってくるエルンを放置して俺は先に進む。
そんな俺を慌てて追ってきて、エルンは言うのだった。
「あっ、すいません! ちょっと言いすぎました! 謝るので置いてかないでくださいー!」
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