第6話「魔術の成果を試そうの回」
あれから二年が経った。
着実にお勉強が進んでおり、このままでは本当に文官コースに行ってしまう。
それではマズい気がした。
よくわからないけど、絶対に探索者コースに行かないといけない気がしている。
……いやね、死なないためだったらこのまま文官コースに行くのが正しいのは分かってるよ?
でも俺の勘は大抵当たるんだ。
何がなんでも探索者コースに行かなければならない。
と言うわけで、俺が戦えることを証明する必要がある。
そして証明するために、俺は休日に一人でコッソリと【天空迷宮】にやってきていた。
ちなみに迷彩魔術で家を抜け出すのは簡単でした。
天空迷宮。
ここ迷宮都市エレクトニカの中心には空を貫くほど高い天空迷宮というダンジョンが聳えている。
だからこそ迷宮都市などと呼ばれているのだ。
この無機質で真っ白な塔は、おおよそ100層まであるとされている。
現在の到達階層は27層。
まだまだだった。
異世界とは思えない外見とは裏腹に、中に入ると亜空間につながっており、草原だったり森だったりが広がっている……らしい。
まあ俺は実際に行ったことはないので、書斎の本に書いてあったのを読んだだけだが。
天宮迷宮は一応ステータスを得る三歳から潜れることになっている。
この街を起こしたSS級冒険者パーティー【円卓の七騎士】が決めた決まり事だ。
しかし暗黙の了解として十歳までは普通は潜らない。
十歳になったら学園の探索者コースなどで潜ることになるから、学園に通っていない子どもたちも潜ることを許される。
だが俺にはそんなこと関係ない。
魔術があるからな。
天空迷宮に潜って階層が進めば、ステータスの書に到達階層が書かれることとなるから、それで俺が戦えることを証明するのだ。
こそこそと人がいない場所を選びながら天空迷宮の入り口まで来た。
これまた無機質なアーチ状の入り口である。
現代博物館の入り口って言われても違和感のない造りだった。
そして誰にもバレずに第一層まで入れた。
見られたら背丈で子どもだってバレてしまうからな。
まだ七歳だし。
この一層まで入れれば、恐ろしく広いので、万が一にも見つかる心配はないだろう。
と言うわけで二層への転移遺跡を探しながら探索しますか。
ちなみに次の階層に転移するための転移遺跡は各階層に十個あるらしい。
その中だったらどれでも次の階層に転移できると本には書いてあった。
いつもお世話になってます、【迷宮覚書】。
この本の著者は元S級冒険者で、パーティー内では盗賊をしていたみたいだ。
だから迷宮に関する知識は人一倍あるのだとか。
閑話休題。
最初に出会ったのは毎度お馴染みスライム三匹。
ポヨンポヨンと飛び跳ねながら俺を威嚇してくる。
言うて、いまだちゃんと攻撃魔術を使ったことがない。
魔力保有量と魔力出力量を鍛えてばかりだったからな。
あとは迷彩魔術や集音魔術などか。
集音魔術もなんだかんだ便利なんだよな。
先生が屋敷に来た瞬間に音でわかるから、あとは迷彩魔術で隠れるだけだ。
この二つが組み合わされば簡単にお勉強をサボれた。
「さぁて、何から使おうかな」
と言っても、魔術に正解の型はない。
自由度が高いが故に、自分でオリジナルを組み立てるしかない。
しかも現代に魔術師なんていないしね。
だが、俺はあまりある時間を使っていろいろな魔術を考えていた。
最初は……これにするか。
魔力の流れを感じ、手のひらの出力口を徐々に開いていく。
ここで出力をミスると大変なことになるから、最初だし慎重にな。
ある程度、準備が整ったら、あとはイメージを魔力に持たせて——。
「ライトニング・ランス」
呪文名は言わなくていいのだが、雰囲気が大事だ。
ちょっとくらい魔術を使える自分に酔ったって良いだろう?
俺が言うと同時に、雷の黄金色の光が槍の形をとってスライムに飛んでいった。
思ったより太いな……。
ん? いや、かなり太くないか、この槍?
——ドゴォオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオォン!!
「……って、え? あれ?」
地面は直進距離で百メートルほどは抉れただろう。
プラズマ化したエネルギーがパチパチと空気に弾け、抉られた地面は高温によってマグマと化していた。
「マジで? これで? 全く出力口開いてないけど……?」
これでもかなり絞ったつもりだった。
なのにこれだ。
あれ、もしかしてやりすぎた?
毎日十時間の訓練は流石に鍛えすぎ……?
良かった人がいないところで試して。
危なかった、こんなところを誰かに見られたら絶対にビビら……れ……おおっと。
「ひぃっ! た、食べないでください!」
「なんであれで食べられるって発想になるのか、小一時間ほど問い詰めたい」
小さな子どもが木の影で怯えていた。
って、俺も小さな子どもか。
そんなことより、この顔、どこかで見たことあるような……。
「お前、名前は?」
「わたっ、わたしですか? わたしはエルンって言います。お願いです、食べないでください……」
「いや、食べないから。美味しくなさそうだし」
「美味しそうだったら食べるんですね! おに! あくま!」
「拡大解釈がすぎないか……?」
「かくだいかいしょく……? はっ!? なんかよくわからないですけど、人を美味しく食べる方法のことですか!?」
「もしかして、こいつバカか……? いや、バカだったな、そういえば」
「バカとか言わないでください! バカっていう方がバカなんですよ!」
プンプンと頬を膨らませる少女の顔を見る。
そう。
俺はこいつを知っている。
エルン・バートリー。
本作の序盤に出てくる悪役の一人。
そして俺ことアベルが死んだすぐ後に、魔物によって無惨に殺される噛ませ役の少女で。
この少女の死が本作を決定的に鬱展開に持ち込むことになる、本作きってのキーパーソンだった……気がする。
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