第3話
改めて今の状況を思う。
一年後、ぼくたちは必要なものをそろえて適切な場所、要は地球に赴く必要がある。過去に地球と呼ばれたホームで、一年後に営まれる祖父の誕生会当日に絵画に描かれた状況を現出させ、祖父を口寄せるためだ。
ホームとアナザーという概念がある。
地球をホームと呼ぶようになったのは本格的な恒星間宇宙船が量産されるようになってからいくばくもたたない頃だろうか。のちにアローン・エイジ(独身時代)と呼ばれるヒトが星にはりついて生きていた時代。成人したら実家を出て家を構えるのが成人の慣習、人生すごろくの上がり目だった地域もあるという。
エキセントリック・エイジ(大分散時代)とよばれる宇宙開拓初期はそれが恒星系のスケールまで拡大した。成人した人間は近隣惑星へ移住していく。その結果、生産可能人口が失われていく地球では高齢化と観光産業が進んだ。
誰しも、どこかで帰る場所をほしがっている。けれど、手間暇をかけてまで維持したいかというと意見が分かれるというのがこの時代だった。
それでもエキセントリック・エイジでは実家に帰るという名目で、地球と宇宙の行き来もそれなりに多かった。けれど時代が下り宇宙生まれが増えてくると祖父や祖母、あるいはそれよりも上の世代にしか愛着のない土地になっていく。
技術の発展がもう少し緩やかであれば、地球の地位はそれなり以上には残ったのかもしれない。けれど、地球を中心に開拓していった時代から複数の開拓惑星が立ち上がってくると、重心が複数存在するようになり、だんだんと埋没していった。
ぼくたちの生きる時代(エキセントリック・エイジ)では、尊崇はホームという名称に残されているけれど、投資妙味は薄いという地位になっている。地球時代でいうところのイタリア地区のローマや、アエバ家のゆかりがある日本地区の京都といった立ち位置だろうか。
いまはアナザーアースと呼ばれる疑似的な地球環境を模したコロニー環境が複数立ち上がっている。その為、ホームアースにこだわるのは超高級志向か、格安ツアーかの二極化になっている。
そして、この時間枝はぼくたちの時代から遡ること百年。アローン・エイジの終わりかけ、エキセントリック・エイジの幕開け前夜というタイミングだ。
「ウィル、今ってアローン・エイジの時代なんでしょ。なんで、こんなところに廃棄コロニーみたいなものがあるの? あ、これが歴史の闇ってやつかな」
エイプリルの言うことは正しい。アローン・エイジという言葉を聞くと、一般的には、地球と月と、せいぜいが火星までの版図をイメージする。
明らかにその範囲から外れたこの宙域に、コロニーがあるのは不自然だ。
ただ、時代はある種の区分の必要がある為に、カテゴライズされているだけでもある。産業革命とて、家内制手工業が工場制機械工業まで発展するのに、その始まりからカウントするのであれば、ゆうに二世紀はかけている。
だから、あってもおかしくはない。
「ぼくたちの時代からだとざっと百年前ってところかな。アローン・エイジの終わりかけでもあるけれど、エキセントリック・エイジの始まりかけでもある。警固屋守だけじゃない、他にもあるのだと思う。ぼくたちの時代にもつながるものって」
「まあ、それは少し気になっただけだからいいや。わたし、よくわかってないんだけどもとの時間軸にすぐに戻れるわけじゃないんだよね」
エイプリルはこれが初めての時間旅行になる。とはいっても、ぼくも回数は両手で数える程度だ。
祖母の補佐は時間枝に一緒に潜った方がやりやすいけれど、元の時間にいても時間を解きほぐす際にいれば問題はないということが検証されている。
「おばあ様の髪を使った時間旅行はそういうのに向かないんだよね。さっきナインズが言っていた七日というのがここで過ごす必要のある時間。目的は達したからあとは宇宙船でのんびりしていてもいいんだけどね」
「小旅行みたいで楽しそうだけど、なんだかもったいないねぇ。どうせなら、この宙域にタイムカプセルとか放流しておかない?」
楽しそうに語りだすエイプリルに、ナインズから補足が入る。
「エイプリル様。パラレルワールドという概念はご存知でしょうか」
「どこかで右に曲がったわたしと、左に曲がったわたしがいて、どっちの世界も続いているって話だっけ。生きているか死んでいるかわからない猫の話じゃないよね。あとはなんだっけ、観測してないよーって知らんぷりするときだけ、現れる縞模様の話だっけ」
おちょくっているようにも感じられるけれど、エイプリルの素の反応はおもしろいなとぼくは思った。
「シズカ様の伝承魔法は、直接過去に行けないと判定されています」
御家とて過去から様々な手段で事象の因果を観測してきたのだ。その結果、過去から未来へ影響を及ぼそうとする場合、直接的なつながりはないと決定した。
すでにあった事象をなぞるようなケースの場合を除き、過去にちょっとした爪痕を残そうとした試みはすべて遡行元の時代では現出しなかったのだ。
例えば、タイムカプセル。未来の物品を過去に持ち込んでの影響調査。タイムカプセルはビーコン付きで宇宙空間やそれこそ、長年構えているアエバ家の敷地にすら設置した。けれど、遡行元では回収できない。物品持ち込みをしてもその結果生じた影響は遡行元では無視された。
だから、時間遡行について有用性がずいぶんと疑問視されたという。けれど、そのタイミングを見計らったかのように。仕掛けていない筈の、タイムカプセルがアエバ家の敷地から見つかった。
どうも過去で与えた影響はパラレルワールドにつながるらしかった。とはいっても、何かをしようとした影響はパラレルワールドのぼくたちにも伝わるし、その結果似たようなことを行う。
たとえば、ぼくたちのご先祖様がタイムカプセルを仕掛けたように、パラレルワールドのご先祖様がタイムカプセルを仕掛けるとか。
そのあたりの説明をひとしきりエイプリルにして、エイプリルが要旨をつかんでなるほどなーと考え込む横で、ナインズがかしこまって口を開いた。
「ウィル様、エイプリル様、大きく今後は三つの方針が考えられます」
ぼくとエイプリルはナインズの方へ向き直る。
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