第七章◆なんでお前までここにいる【side 霊弥】

「早弥さんと霊弥さん、本当にお顔がそっくりねえ。喋らなかったら、もう、どっちかどっちなのかわからないぐらい」


 眞姫瓏の言葉に、双子揃って互いを見る。


 一卵性双生児──親でさえ、判別の難しかった、この顔。


 そういえば、あんなこともあったか──


◇ ◇ ◇


 小学五年生のころ。


 俺たちは謎にずっとクラスが一緒で、必ず名簿には「小鳥遊早弥」と「小鳥遊霊弥」という名前が並んでいた。


 ただ、担任も生徒も俺たちがどっちか区別するのは難しく、よく間違われた。


 一番クラスメイトが笑ったのは、六月の体力テストの結果返却のときだったと思う。


 そのとき早弥は風邪で休んでいて、出席したのは俺だけだった。


 教員が、結果を取りに来た俺に、結果の書かれた紙を手渡した。のだが……。


〈小鳥遊 早弥(フリガナ タカナシサヤ)

 年齢 11歳

 誕生日 4月23日

 身長 152cm

 体重 42kg……〉


 といった具合に、教員が俺と早弥を間違えて、配布物などを取り違えるなどということが往々にしてあった。


 見事に双子が逆になることは珍しくない。一卵性だったし、生まれたときは、産声のあげ方も一緒だったらしい。


 本当のことなんて、覚えていないけれども。親の話を、もう一度聞くことはできない。俺たちに、親なんて存在はいない。


 ……そういえば。


「早弥、シフト大丈夫か?」

「やばいかも」


 生活費を稼ぐため、早弥が火、水、木、金、俺が水、木、金、土でバイトをしている。勤務先は、近所のスーパーマーケットのレジだ。


 高校はバイトを許可しているし、部活動の後でも問題ない時刻に働いている。


 だが、……。


「しふと? しふとって何ですか?」

「聞き慣れない言葉ですねー。しふと、ですか。ちょっとふくよかな単語だー」

「おい真菰、シバくぞ本当に?」

「うわー、ひっく声。熊のうなり声ですか?」


 一週間もここに滞在していて、全くバイトができていないのだ。


 流石にまずい。早急に地元に帰り、早急に学校に行き、早急にバイトにも向かわなければいけない。だが──……。


「早く寳來くん帰ってこないかな……帰り方教えてー!!」


 寳來には、帰ってきてもらわないと本当に困ってしまう。俺たちにとっては見知らぬ土地でも、寳來にとっては馴染みの土地かもしれない。


 早く帰って来い、寳來──。


 そう願った、まさにその矢先だった。



 パリンッ──……!!



 ガラスが弾けて割れるような音と同時に、何かが──窓の外から飛び込んで来た。


「……!!」


 浅葱色の着物。紺色の袴。ゆるく一つにくくった、青みがかった黒髪。背中から生える、白と灰色のグラデーションの羽翼。


 ……言った側から、寳來まで来たか。

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